それなりの人生を歩むはずだったのに
霜月 レイ
水瀬さんは意味が分からない
第1話
私の顔は上の下ぐらいで、テストの点も平均よりも上を保っている。スクールカーストも二軍より上で一軍より下ぐらいの立ち位置にいて、みんなに分け隔てなく接している性格と顔が合わさってかモテてもいる。
自分で言うなという話だが、事実なのだから仕方ない。
私はそんな『それなりの人生』を歩んできたつもりだ。それをやめるつもりはないし、嫌だとも思ったことがない。
高嶺の花ではなく、ちょうどいい立ち位置でずっと生きていて、その生活がずっと続くと思っていた。
なのに__
「
私はこの目の前の女に私の『それなりの人生』をぐちゃぐちゃにされそうになっている。
クラスでの中心人物で、見た目からの可愛さからか、人柄良さなのかは知らないけれど、私よりもモテているし、人気もある。きっとこういうやつが高嶺の花というのだろう。
そんな彼女が、放課後の空き教室で私を壁に押し付け、片手の指を私の指と絡め、もう片方の手で私の頬に手を添えている。
意味の分からない状況だ。なんでこんなことになったんだ。
私は混乱する頭を必死に整理して、なんとか言葉を紡ぐ。
「........変なこと言わないで。私のこと全然知らないくせに。」
目の前の女とは生き別れた双子だとか、昔に引っ越した幼馴染とかそういうのではない。ましてや恋人関係というわけでもない。
私は彼女のことを本名しか知らないし、彼女に至っては私の苗字ぐらいしかしらないだろう。
彼女は絡めてくる指を緩めることなく、私の目を真っ直ぐ見てくる。
「でも氷川は何気にこういうのが慣れてないってことは知れたね。」
彼女の言っていることも、やっていることも全部が意味不明で、頭がさらに混乱する。
この状況は私にとって好ましくない。誰かに見られたら私の『それなりの人生』が壊れるどころか、彼女だって今の人気で高嶺の花の地位から転落するだろう。
私は自由に動かせる片手で、彼女を押し返そうとするが、彼女は引き下がるどころか、もっと近づいて、体を密着させてくる。
「ねぇ、離れてよ。なんでさらに近づいてくるわけ?」
彼女は少し悩んだ末に、突拍子のないことを投げかけてくる
「....キスしていい?」
「は?」
何を言っているんだこの女は、頭のネジ一本、二本ぐらい取れてるんじゃないか?
いや実際に取れているからこんな意味の分からないことを言って、行動にも移しているのだろう。そうじゃなきゃ説明がつかない。
「.........罰ゲーム?」
混乱する頭を必死に整理して導き出した答えだけれど、中々悪くない線だとは思う。罰ゲームでこんなことをする人には見えないが、水瀬さんが所属してるグループはそんなことを楽しみそうな人たちだ。
目の前の彼女.......水瀬さんは首を傾げながら
「違うけど?」
「......違うってじゃあなんでキスしたいなんて言ったの?」
「.......雰囲気的に?」
「....水瀬さんは雰囲気が良ければ誰にでもこうやってキスを迫るわけ?」
「別にそういうわけじゃないよ、だってこんなことしたら絶対変な奴って思われるじゃん」
「私ならそう思われてもいいからこんなことしてんの?」
「そういうわけじゃないけど、、、うーん...」
水瀬さんは悩んでいる素振りを見せる。そのたびに私の頬を撫でるのはやめてほしい。唇も輪郭をなぞるように撫でてくるからくすぐったい。
私はそんな水瀬さんの顔をジッと魅入ってしまう。
私の視界には水瀬さんが目一杯に映っていて、とても綺麗な顔立ちと肌をしている。こんなに近くで見ているのに毛穴一つ見当たらない。
薄くメイクをしているのだろうが、きっと化粧をとってもきれいなのは変わらないし、そこまで大差ないだろう。こんなにも綺麗な顔立ちをしているのに化粧をする意味が分からな___
「んっ__!?」
彼女の顔をジッと見て考え事をしていると、急に顔が近づけられ、なにか柔らかいものが私の唇に押し付けられる。だんだんとソレは熱が帯びていき、その熱が顔に広がっていっているような感覚に襲われる。顔が熱い、その中でも唇が火傷しそうなぐらい熱を帯びているような気がする。ソレが水瀬さんの唇で、今キスされていることに気づくのに結構な時間がかかった。
私は動かせる手で、水瀬さんの肩を押すと簡単に離れてくれる。さっきまで握られていた手も解放され、唇に指先を当てると、当然そこに水瀬さんの唇はなく、さっきまでの熱が嘘のようになくなっている。ただ唇は濡れていてその事実がさっきまでキスしていたことの証明のようで__
その事実が余計に顔を熱くさせ、私の思考をもっと鈍らせる。
「な、、、へ?なに、、し、、、」
さっきのキスで思った通りに思考がまとまらず言いたい事が声に出せない。
「...........氷川ってキス初めて?」
私はいったん深呼吸して混乱している頭を落ち着かせる。ただそんなことでぐちゃぐちゃになった思考はまとまりましないので意味はない。
「........ぃ、、みが、、、」
うまく言葉が出てこない、文句が大量にあるのに、問いただしたいこともたくさんあるというのに、それらは喉に突っかかって声にならない。
「だから、キスは初めてだった?」
初めてだ、初めてに決まっている。別に、初めてのキスを永遠をともにする人とキスしたいという願望はなかったが、それでもこんな感じであっさり奪われるのは気分的にも望ましくはない。
私は小さく息を吐き、言葉を紡ぐ。
「.......反応見ればわかるでしょ」
水瀬さんの質問に答えられるぐらいには、すこしだけだが頭がだんだんと落ち着いてきた。ただ、頭が落ち着いてきても水瀬さんの行動はよくわからない。
「確かに、頬がめっちゃ赤いね。よかった初めてで」
「なにもよくない。なんでいきなりキスしたわけ?」
「........なんでだろうね?」
「聞かれても困るんだけど」
やっぱり、水瀬さんの頭はネジの一、二本どころか、何十本も取れている。
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ここまで見てくれた方々ありがとうございます!
物は試しということで最初投稿しましたが、やはり続きを書くとなると書き直したいところが増えてしまいまして修正をしました。
今後とも
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