第5話 異世界飯

「いやぁー! 美味い!!!」


 今まで嗅いだことも見たこともない大きい肉!

 そしてそれを打ち消すようなあっさり野菜スープ!

 何と言っても、空きに空きまくったお腹が最高のスパイスになって、美味さが倍増している!!


 もう…最高……


『うるさいなぁ、飯くらい静かに食えよ』

『いやだってさ! 異世界に来て初めての料理だよ!?

 しかも朝はお腹が空くからって依頼を受けに行って、その依頼はスライムの討伐!

 クロエが言ったとおりに多少草は食べたけど、やっぱり空腹は紛らわせなかったし…でもそれが最高のスパイスになって今の飯が美味すぎる!!!』


「そんなに美味いか! ならもっと食べろ!」


 クロエと会話しているときに、ゼプトスさんからおまけのお肉を俺が食べている食卓の上においた。


「うおっ!マジっすか!! いただきます!!」



 俺は、朝起きた瞬間に空腹に襲われて耐えられなくなり、速攻でギルドへ駆け込んで、受付嬢さんに依頼を受注してもらった。

 ただ飯代を稼ぐだけだったからまた「月見草」の採取でも良かったのだが、クロエが「駄目だ駄目だ」と聞かなくて、最終的にスライムの討伐に向かったわけだ。

 クロエの声はなーんか耳に響いて痛いんだよなぁ…魔法か………?

 まぁそんなこんなで俺はスライム討伐に向かったわけだけど、スライムと言っても俺の足くらいの大きさで、それが3体。

 こんなのを依頼に出すのか…?と住人を疑った。

 魔法は子供でも使えるのだ。スライムの1体や2体くらい容易いと思ったんだけど………

 だが俺はなんとなく、「住人は戦闘経験があまり無いのだろう」とあまり口出ししないでおいた。

 多分この世界の設定とやらなのだろう。


 さぁ、そして俺が今食べている食事のことだ。

 店の名前は「ゼプトス」。 店長はその名の通りゼプトスさんだ。

 アークトに初めて来たときから気になっていた店で、店の外まで漂う良い匂いと、看板で堂々と宣伝しているこの「串刺しお肉とゴロゴロ野菜スープ」が目に留まって、ここに来る以外は考えられなかった。

 名前の通りで、5個か6個くらいの大きなお肉が串刺しにされて焼かれているやつで、これが塩コショウがめちゃくちゃ効いててマジで美味。 白米欲しい。

 そしての、噛んだらじゅわっと出てくるこの肉汁。 もう最高だよね。 白米欲しいマジで。

 そんな塩コショウが効いたお肉でいっぱいになった口の中を、まるでゲームのリセットボタンのような、でもちゃんとお肉の味は舌に覚えさせてくれるこのセーブ機能が携わってるスープが最高に美味。

 異世界の料理が美味いって言うのは定番だけど、ここまで美味いとなるともう前世には戻れないな…

 いや前世で美味い飯あまり食ってなかったって言うのもありそうだけど。


 ちなみにこの飯食ってて、「お婆ちゃんのご飯が食べたいー」とはならなかった。

 なんというかお婆ちゃんの味は質素と言うか、この飯が美味すぎるというか…比べたら悪いけど、これと比べたら敗北が確定する味だった。

 まぁそのお婆ちゃんのご飯を食べる前まで、「飯が美味い」とは感じなかったからなのか、その時はお婆ちゃんの飯が美味かったと理解できたんだろうけど…

 いや美味いんだよ?美味いんだけど、あんま俺の舌には合わないかなーみたいな、そんな感じだったよ。 うん。


 そして俺が一番に気になったのは”価格”だ。

 昨日の受付嬢さん、アクレスさんって言うんだけど、そのアクレスさんに聞いた話だと、この世界はお札、金貨、銀貨、銅貨の、大体4つに分けられているらしい。

 お札は、「金貨10枚」に分けられる。

 そして、アクレスさんに昨日の「月見草」の報酬が渡されたときは”銀貨4枚”だった。

 宿代はチョッキリ銀貨4枚。

 スライム討伐報酬はほんの少しだけ高くなって銀貨5枚。

 そしてこの飯は銀貨1枚と銅貨2枚。

 先にお金を払う感じで、銀貨2枚を渡すと銅貨が8枚になって返ってきた。

 まだ金貨は試してないけど、多分…


 ・金貨→1万円

 ・銀貨→1000円

 ・銅貨→100円


 ということなのだろう。

 まぁ、そこらへんは使っていくうちに慣れていくようにしよう。

 っていうかそう考えるとこの飯は1200円か…

 日本も物価高とかで飯が高いって聞いたけど、少なくとも俺が食ってた飯は数百円のパンとかだったぞ…?

 母さんがくれるお金もあまりなかったし、知らない男からもお惣菜とかしかもらえなかったからな。

 まぁいいや、今後は働ける仕事も見つけたし、自分が食べたいと思った物を食べていこうと思う。



 俺は、飯を食べ終わってお腹をさすっていた。


『今日はもう依頼を受けないのか?』

『いや、このままじゃ夜飯も宿代も足りないから、もう一回依頼を受けることにしようと思ってたんだけど、大丈夫かな?』

『スライム討伐の時にあれだけ戦えていた。多少強くても大丈夫だ。

 ついでに魔法の練習でもしよう。限度があるからあまり使えないがな。』

『わかった。じゃあもう飯も食べ終わったし、行くか。』

『そうだな。』


 さっきお肉をくれたゼプトスさんはもう厨房に戻っているので、俺は皿を片付けて、「美味しかったでーす!」と厨房に聞こえるように叫んで店を出た。



「ありがとうなぁ!少年!!!」

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