4話・知らない君④

 応援団は練習の最後まで外にいた。その視線を浴びながら勇太のそばに近寄るなんて勇気が私にはなくて、渋々と着替えを終え帰路へとつこうとした。


「あ、恵美……と海野さん!」


 隣にいる恵美と一緒に名前を呼ばれ振り返るとそこには勇太と辻井君がいた。着替えは男の子の方がきっとはやいのに、もしかして待っていたのだろうか。


「途中まで一緒に帰ろう」


 突然のお誘いに嬉しさを感じつつ、寂しさも襲いかかってきた。「海野さん」そう呼ぶのはまだ付き合っていなかった頃の私達。お互いにさん付けだったもんね。下の名前で呼んでくれないだけでこんなにも悲しい気持ちになるなんて。生きている、それだけじゃ私は足りないみたい。


「おっけ。駅近くまでは一緒だもんね」

「なあ、ちょっとだけ公園にもよっていこうぜ」


 恵美が頷くと辻井君がいたずらっぽく笑いながら寄り道を提案する。私はただそれを聞きながら横で頷いていた。

 もともと今日の帰り道、勇太と二人で途中まで帰った。ドキドキしながらくっつくかくっつかないかそんな距離で駅のところまでお互い照れながら歩いた。けど、それも出来ないなと悲しく思ってた。だから本来とは少し違うけれど……、少しでも勇太の近くにいられる事がすごく嬉しい。ただ近くにいられることが幸せだって? 当たり前だ。勇太は未来では、もうどこにもいないのだから。

 小さくてもこの幸せを絶対に守らないと。私は改めて心に誓う。


「ねえ、公園にキッチンカーがきてる! 何のキッチンカーかな」


 恵美が指さした先にはクレープのキッチンカー。二人で帰った時はまっすぐ帰ったから知らなかった。


「クレープだ。ねえ、買ってもいい? みんなで食べない?」

「うん、いいね。蓮と海野さんは?」

「あー、俺は甘いのパス」

「だよな」


 辻井君は甘いのが苦手なのかな。勇太ほど乗り気ではない。


「私は食べたいです」


 ちょうど小腹が空いている。メニューを見るとデザートクレープの他にツナサラダ等のおかずクレープも書いてあった。


「辻井君、おかずクレープも置いてるよ。これはどう?」


 一人だけ仲間外れは寂しいかなと思って聞いてみる。でも、余計なお世話だったのだろうか。辻井君だけじゃなくて、勇太と恵美も私のほうを見た。


「え、ちょっと陽菜?」

「ん?」


 恵美が心配そうに私に話しかけてくる。


「あー! そうだな。そっちなら食べられる。俺も一緒に買うから、ほら並ぼうぜ」


 辻井君がまるで会話を遮るように私と恵美、勇太をぐいぐいと押してキッチンカーに向かわせた。その間も、恵美は私と辻井君を見比べるように交互に見ていたのはいったい何でだったのか。

 とりあえず、私は苺とバナナ、ホイップクリームのチョコソースがけ。恵美はブルーベリーとヨーグルトアイス、ホイップクリーム。勇太は私と同じもの。辻井君はハムとツナサラダのクレープを頼んだ。

 おかずクレープも美味しそう。またここで売っていたら次はそちらにしてもいいかもしれない。


「美味しいー」


 公園備え付けのテーブルとベンチ。テーブルを挟んで迎え合わせにある二人用ベンチの片方に辻井君と勇太、もう片方に私と恵美が座る。恵美の隣で私はかぷりとクレープにかぶりついた。

 その様子を確かめていたのか、恵美は私が食べだしたとたん立ち上がった。


「蓮君、ちょっといい? こっち」


 あれ? 恵美は食べないのかな?

 辻井君の腕を引っぱって遠くに連れて行く。ちょうど話し声が聞こえないくらいかな。

 座って食べないと、落としちゃうよ?

 なんて考えながら二人の様子を見ていた。そして、重大な事に気がついた。今、私……、勇太と二人っきりなのでは!?

 カチコチと体が緊張で固まっていく。告白されたわけじゃないのに、こんな風になるなんておかしいよね。ぷるぷると頭を振ってクレープにかぶりつきなおす。勇太の顔をまともに見れなくて、ちらりと横目で確かめる。斜め向いに座る彼は恵美達が向かった方に顔を向けていた。


「あの二人、付き合ってるのかな」


 突然ぽつりと勇太が呟く。


「え、えっと?」

「ほら、仲良さそうに腕引っ張っていってる」


 見れば、確かに恋人同士のじゃれ合いみたいに見えない事もない。だけど、恵美が誰かと付き合っているという話は一度も聞いた覚えがない。もっとよく思い出そうと頭の中を探るとずきりと頭が痛んだ。今日頭を打ったせいかもしれない。


「恵美からは誰かと付き合ってるって聞いたことはないんですけど」

「そうなんだ。海野さんにも言えない内緒の関係だったりするのかな」

「さ、さぁ?」


 勇太はどうして、恵美と辻井君が付き合ってるかどうかが気になるんだろう。でも、確かにあの二人怪しく見える。ここでは二人が付き合ってたりするのだろうか。まるで夫婦漫才で叱られてる夫と叱る妻みたい。


「海野さん、あの二人が付き合ってるならさ」

「はい?」

「海野さんが嫌じゃなかったらさ……」


 勇太が私をじっと見て何か言おうとしてる。嫌じゃなかったら? なんだろう。首を傾け次の言葉をまつ。


「あれ、話は終わったの?」


 勇太の口から出てくる前に続きの言葉はかき消されたみたい。二人がこちらに戻ってきたからだ。


「はやく食べないとアイスがとけちゃうから!」


 そういえば、恵美はクレープの中にアイスが入っていた。


「話は終わった」


 辻井君は私と向かい合わせにならず、背を向けた状態でベンチに座り少しムスッとしていた。本当に何の話だったんだろう。何だか少し疎外感を感じてしまう。やっぱり、ここは私の知っている世界とはちょっと違うのかな。疎外感はそのせいなのかな。三人を見ながら、そんな事を考えていた。

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