第3話 メッセージ
寝室に移動して、僕たちはベッドに横たわった。
「ごめん。勝手なことしたな。
「お礼……ですか?」
何のことだろう、と思っていると、
「春に、おまえがオレとお袋を助けてくれたじゃないか。だからこそ、お袋は今オレに連絡をくれるようになった。おまえがオレたちを救ってくれたんだ。だから、お礼がしたくて。それが、今だと思ったんだ」
今年の春、僕と大矢さんは、大矢さんのお父さんのお墓参りに行った。そこで、大矢さんのお母さんと遭遇した。お母さんは、大矢さんが十歳の時に家を出ていき、その日まで一度も会うことはなかったそうだ。
お墓参りの後、大矢さんの家まで一緒に行った。別れ際に、大矢さんはお母さんと言い合いになった。そのまま別れ別れになりそうだったのを、僕が間に入って話をするように言った。大矢さんとお母さんは、連絡先を交換した。それを、救ってくれたと言ってくれているようだ。
「お礼だなんて、そんな……。大矢さん。僕は、去年の今頃、
『平澤さん』はレストランのオーナーをしている人で、大矢さんの高校時代の同級生だった。そして今は、輝夜母さんの恋人でもある。それで去年、僕と輝夜母さんは再会することになったのだ。
大矢さんは俯きながら細く息を吐き出すと、
「そう言ってくれるのはありがたいけど、オレは今、そんな気持ちになって電話しちゃったんだよ。余計なことだったか?」
これは、本当に僕の気持ちを確認してくれている言い方だ。哀しかった気持ちが、少し和らいだ。
「大矢さん。僕は勇気が出なくって。さっき言いましたね。だから、大矢さんがこうやって連絡してしまったことに感謝しないといけないと思います。違います。感謝してます」
「無理矢理言わせちゃってるな」
大矢さんが苦笑する。僕は大矢さんの胸に顔を付けて、
「当日は、楽しみましょうね」
「そうだな」
電気が消されて、部屋は静寂に包まれた。穏やかな呼吸を繰り返す大矢さん。僕は目を閉じ、眠りについた。
目を覚ますと、一人だった。大矢さんは仕事に行ってしまったようだ。いったい何時なんだろうと思ってナイトテーブルの時計を見ると、もう十二時だった。やってしまった、と思った。
スマホを見ると、画面が光っていた。すぐに電源を入れると、大矢さんからメッセージが来ていることがわかった。それから……。
「輝夜母さん」
急いでアプリを開くと、『
『聖矢くん。可愛い写真だね。今度、一緒にクリスマスのパーティーが出来るの、楽しみにしてるよ』
返事をしなきゃと思って画面をタップしようとしているのに、指先が震えた。どうやって返事をしようかと随分長い間考えて、
『僕も楽しみにしています』
その下に、ハートが次々に上に飛んでいくスタンプを送った。すぐに既読がついて、「ありがとう」とメッセージが来た。笑顔のスタンプでも送ろうかと思ったのに、泣き顔のスタンプを送ってしまった。すぐに返信が来て、
『今すぐ、抱き締めてあげたい』
涙腺が崩壊した。もう、返信は出来なかった。落ち着いてから、大矢さんのメッセージを見た。
『よく寝てるから、起こさなかった。仕事に行ってくる。遅くなるかもしれないけど、どうする?』
すぐに返信する。
『話したいことがあるので、今日も泊まらせてください』
『わかった』
やりとりは終わった。僕はベッドから降りると大きく伸びをした。お腹が少し空いていたから、いつもの朝ごはんを準備して食べた。本当は、もう昼食の時間だけど。
窓の外に目をやると、よく晴れていた。公園まで散歩に行こうと思い、すぐに準備をして出かけた。外は冷たい風が吹いていて、コートのフードを被ってしまった。
今年の初め、育ての母から誕生日プレゼントをもらった。それは、マフラーと手袋だった。嬉しかったのに、そのまま使わずにしまい込んでいる。何故そうしてしまったのか、よくわからない。
ベンチに腰掛けると、スマホを取り出してメッセージアプリを開いた。輝夜母さんとのやりとりは、もう一度見ても胸の奥がギュッとなった。
二十四日の夜、僕はどんな気持ちでいるんだろう。あと、三日。三日したら……。
不安と期待がない交ぜになって、僕を混乱させていた。
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