第8話 憤怒
まず
「入口付近に人はいないですね。中には安全に入れると思います」
紫苑は目を開き、探知結果を伝えた。
「ありがとう、紫苑。助かるよ」
「本気出したら、もっと奥まで探せますけど、どうしますか?」
ヘッドホンに手をかけながら、紫苑が灰音に尋ねた。
「いや、十分だよ。紫苑の体力は取っておこう」
「わかりました」
入口の安全を確認できたので、四人は
それから、四人はゆっくりと一階の奥へ進んでいった。もちろん、建物の構造図は頭に入っている。しかし、順調に足を進めていた矢先、反対側の方から足音がした。椿は一時停止し、腰の刀に手をかける。
そして、四人の視界に映ったのは
「初めまして。
難波が口を開いた。やはり直霊が来ることは想定内だったのだろう。
「あなたは難波舞さんですね? 誘拐した子の身柄はどこですか?」
「答えると思いますか?」
灰音の質問の意味を理解している時点で、難波は罪を認めたようなものだ。ここからは強引に行くことができる。
「灰音、こいつは無視して、誘拐された子を探しに行け」
「わかった。
灰音の言葉に焔と紫苑が無言で頷く。その後、椿を残して、三人は階段の方へ駆け出した。
「一緒に戦わなくて良いのですか?」
二人になった後、難波が椿に尋ねた。
「お前こそ、追いかけなくて良いのか?」
椿は質問を返した。
「あなたと戦う方が面白そうですから」
難波は右手にナイフを構える。至極冷静に見えるのは、場慣れしていることを表しているだろう。
「そうか、たぶん面白くないぞ。お前に勝ち目がないからな」
椿も左手で片方の刀を抜き、難波の方に向けて構えた。その日本刀が持つ名は『
「もう一本の刀は使わないのですか?」
椿が腰に携える二本目の刀を見て、難波が疑問をぶつけた。
「お前には聞きたいことが色々あるからな」
直後、椿は難波の方へ勢い良く走り出す。次の瞬間、三日月が難波を目掛けて、振り下ろされた。それを難波はナイフで受け止め、二人の鎬を削る戦いが幕を開ける。
「……良い刀ですね」
「下衆に褒められても、嬉しくはない」
その後、難波は押し合い勝負では勝てないと考えたのか、足を前に出し、椿の体を押しのけた。再び、距離ができる。しかし、リーチで優れているのが椿なのは言うまでもない。刃と刃が衝突する音が幾つも響く中で、争いは難波の防戦一方に見えた。
一方、灰音を含めた三人は階段から地下に移動していた。捜査会議の話から、敵の本拠地は地下で間違いないと考えていたのだ。そして、地下一階廊下で再び紫苑が
「奥の部屋に人が溜まっていますね。十人いや二十人はいると思います」
「やっぱり本拠地はここからみたいだね」
その中に
「相手、大分待ち構えているみたいですけど、どうしますか?」
「私が普通に扉から入って、視線集めるよ。焔、後はわかるね?」
「はい!」
焔の心強い言葉を聞いた後、灰音が扉の取手に手をかける。鍵が閉まっているが、それは関係ない。灰音は取手を掴むと、扉を無理矢理に前へ押し込んだ。
扉が外れる音が地下空間に反響する。次の瞬間、部屋の中にいた人々が侵入口に向けて、銃を乱射した。やはり待ち構えていたのだ。しかも、自動小銃装備とは迎撃態勢が整い過ぎているだろう。とはいえ、灰音は外した扉を盾に、銃弾を防ぐことはできた。金属製で助かったと言うべきか。しかし、大人数の射線によって、動きは完全に抑えられている。
つまり、ここからは焔の出番である。部屋の外側で、焔は壁に手を添えた。それから、焔は霊魂術を発動させる。焔が持つ霊魂術の名は『
「紫苑さん、下がっていてください」
その言葉の直後、焔は壁に発勁を放った。怒りによって増幅されたエネルギーが一点に集められる。そのエネルギーは轟音と共に壁を打ち砕き、部屋の中まで破片を吹き飛ばした。突然放たれた破片が部屋の中にいた人々を襲う。それは、先ほどまで張られていた弾幕に大きな隙を生み出すことになる。
敵が壊された壁の方に視線を向けた瞬間、灰音は扉を盾に正面から突撃をした。一人また一人の体を突進で吹き飛ばし、敵の前線を崩壊させる。大きく距離を近づけてきた灰音に敵も応戦しようとするが、もちろん相手にしなくてはならないのは灰音だけでない。焔、そして紫苑が壊された壁の穴から続々と侵入したのだ。
誰を狙うか迷いが生じ、敵の連携が乱れた時点で、灰音たちの思う壺であっただろう。気づいたら、もう銃の間合いではない。焔の拳が敵を襲う。壁を破壊するほどの威力を生身の人間が受け止め切れるはずもない。残っている敵も至近距離で焔に銃撃を叩きこもうとするが、灰音から投擲された扉が体に直撃し、地面に倒れ込む。
最終的に、三人の連携によって、瞬く間に部屋の制圧が完了した。しかし、問題なのは琥珀の姿がどこにも見当たらないことだった。念のため、紫苑が透影世界で周囲を捜索するが、他の反応はない。
「地下には、いないみたいですね」
「ここじゃないのか……」
本拠地はここで間違いないはずだが、琥珀の身柄は別の場所であるらしい。その後、灰音は意識のある何名かに琥珀の所在を尋ねてみたが、これといった返答はなかった。簡単に吐いてくれるほど、甘くはないようだ。
「念のため、地下を調べておこう。考えたくはないが、琥珀ちゃんがいる可能性もないわけじゃない」
紫苑は
その後、三人は地下の部屋を探索した。まず一つわかったのは、この場所で立橋製作所は銃の密造をしていたことである。更に、銃の発砲も加えれば、殺害や誘拐抜きでも、重罪になるだろう。また、幸か不幸か、琥珀の姿は見つからなかった。やはり、別の場所で監禁されていると見て良いだろう。
そして、最後に地下の電気室を確認して、一階に戻ろうとしたときだった。灰音の耳には、一定の間隔で刻まれた機械音が聞こえてきた。嫌な予感がする。灰音は焦るように、電気室の扉を開ける。すると目に入ったのは、床で異質な存在感を放つ物体だった。
「……これは時限爆弾だ」
灰音の言葉で、焔と紫苑の緊張感が一気に高まった。迎撃態勢が整っているとは思っていたが、奥の手もあったとは想定外だった。だが、まだ間に合う。ここからは時間との勝負が始まる。
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