スマス
「おいで。スマス」
「ワン!」
スマスがしっぽを振りながら、私のあとをついてくる。
スマスは中の水とか空気がごぼごぼするせいで、動くといつも微妙に震える。
「いいこいいこ」
私はスマスの頭を撫でてやった。
「ワン!ハッハッハ」
何がワン!だ、と私は内心思った。
けれど開発チームが辛うじて知ってる動物がせいぜい犬くらいしかなかったので、仕方なくこういう仕様になったのだろう。
私も犬は動画でしか見たことがない。
そもそも本物の動物なんて、誰も見たことがない。
ほんとの地球がだらしないせいで。
私は周囲の風景を見回した。
枯れた荒野がどこまでも果てしなく広がっている。
いやいや、違う。
人間のせいってわけじゃ、ない。
人間活動と気候変動の因果関係は、まだ証明されたわけじゃない。
けれどなんだかある日突然気候が激変して、暑くなったり寒くなったりしているうちに、例のあの…
例のあの、大量絶滅が始まったのだ。
それでこうなった。
地球は死んだ。
もう戻らない。
あっはっは。
なんてだらしがないんだろう。
仕方ないから、その後、本物のだらしない地球の代わりに携帯できる小さな地球が販売されるようになった。
スマートホン的な小さい地球。
スマートアース。
通称スマス。
見た目は水と藻類と変なドロドロを包んだビニールみたいな袋なのだが、契約者のあとを犬みたいにしっぽを振りながらついてきてくれる。
もちろん餌は必要ない。
逆だ。
餌をもらうのはこちらの方だ。
スマスが水、空気、食料を生産してカートリッジに詰めてくれるので、所有者はそれを使って生存する。
着ているスーツの背面に、充填されたカートリッジをセットする。
それで数日生きられる。
だからこいつさえいれば、あとは何も必要ない。
必要ないのだ。
「おいで。スマス」
「ワン!」
スマスがしっぽを振りながら、私のあとをついてくる。
なんて素敵な相棒。
周囲には、動くものは他に何も見当たらない。
煩わしくなくて、ちょうどいい。
快適だ。
空は青い。
大地は褐色。
どこまでも見晴らしがいい。
誰もいない。
だーれもいない。
いやしない。
シュコー、シュコー。
大丈夫。
泣いてなんか、ない。
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