配信編
17話 ダンジョンアップデート!?
「よし……大体できたな」
慎一――神となった男は、虚空に浮かぶ制作途中の画面を見つめた。
新たなシステム、配信、魔法。
地球の次の段階へ進むアプデは整った。
「問題は告知方法だ……オリジナルの神は配信だったけど、俺は別のやり方で行くか」
指先を軽く弾く。
その瞬間――
世界が揺れた。
空でも地中でもない“どこからともなく”、
機械的で感情のない声が響き渡る。
しかも――聞く者によって声色すら違っていた。
老人には若い女の声、
子どもには落ち着いた男性の声。
《――ダンジョンのアップデートが完了しました》
街のど真ん中で足を止めたサラリーマンが震える。
「な、なんだ今の……? 空耳か?」
隣の女性は青ざめる。
「私にも聞こえた……スマホじゃない、外から……!」
世界中が硬直する。
◆ 告知は続く。やけに丁寧に。やけに鮮明に。
《アップデート内容を報告します》
《Ⅰ. 配信機能が解放されました》
《Ⅱ. 魔法スキルが解放されました》
再び沈黙。
しかし声は容赦なく続く。
《配信機能について》
《・探索者は全員、配信可能になります》
《・配信は探索者が利用する動画配信サービスを選択し、視聴者は同サービスを通じて視聴できます》
「は? はぁぁ!? 配信!? 本当に“俺がダンジョン潜ってるの”を流すってこと!?」
「バカ! つまり中継だろ!? 世界に!?」
《魔法スキルについて》
《・現実世界に影響を及ぼす魔法が、モンスターの落とすスキル媒体として追加されます》
「魔法……? 現実に?」
誰かが呟く。
その瞬間、世界の常識が一つ壊れた。
《これにてダンジョンアップデートの告知を終了します》
最後の文言。
世界から一斉に音が消える。
沈黙。
息を飲む音だけが響く。
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◆ 政府、即・緊急招集
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「総理! ただちに対策本部を――!」
「分析班! ダンジョンからの信号か!? 発信源は!?」
霞ヶ関は蜂の巣を叩いたような騒ぎになった。
巨大スクリーンには先ほどの空中告知の波形が映るが、
結果は――
「正体不明……!!」
「声の発生源、検出不能!!」
会議室の長机で、官僚たちは青ざめながら議題を読み上げる。
・放送を行った者は世界大会を開催した神と同一人物か?
・魔法は現実で使用可能なのか?
・誰が、どうやって配信しているのか?
・ダンジョン内部で国家機密が映る可能性
・法律との整合性皆無
・視聴者のパニックと模倣行動
・配信収益の課税問題(なぜか真っ先に争点)
法務官僚が顔を両手で覆う。
「……配信を禁じる法律が存在しません。違法扱いにできません」
「そもそも、ダンジョン内部が公共なのか私有なのか……定義できていないんです」
「そんな……!」
誰もが頭を抱えた。
しかし、決断は早かった。
◆ 政府が決議した“現実案”
• 登録制ダンジョン配信者制度
• 配信ディレイの義務化
• 禁止エリア・禁止対象の指定
• 収益の一部を“ダンジョン税”として徴収
だが――
その発表より早く、
一般配信者のほうが先にバズった。
「【速報】誰かがダンジョン内部を生配信してる」
「魔法っぽいの出てる!!」
「政府より早いwwww」
SNSは大炎上。
動画サイトの同接は跳ね上がり、
世界は“危機”と“熱狂”の境界線を越えた。
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◆ 閣僚の非公式メモ(後に流出)
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「配信はもう制御できない」
「ならば “最も影響力のある者” を味方につけろ」
「英雄は排除するより抱き込め」
この短い三行が、
後にダンジョン配信の時代を決める。
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◆ 結果、誕生する――
政府公認ストリーマーと、軍所属配信者
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ダンジョンは戦場であり、舞台であり、
そして“国家戦略の一部”になってしまった。
誰も後戻りができないまま、
新たな時代がゆっくりと動き出していく。
霞が関――地下七階。
「会議室」と呼ばれてはいるが、窓は一つもなく、天井灯は無機質に白く光るだけ。
ドアの外には武装した警備隊が二名。
携帯は入口で没収された。
光 一は、ひとりで長机の前に座る。
(……呼び出しの仕方がもう“尋問”なんだよな)
対面にはスーツの官僚が六名。
その後ろに無表情な自衛官が二名、壁のように立っていた。
空気が重い。
静かすぎて、空調の音すら耳につく。
◆ 官僚の挨拶は妙に丁寧。
官僚A
「本日は……お越しいただき、ありがとうございます」
「呼び出された、が正しいと思いますけどね」
官僚たちがわずかに顔をこわばらせた。
官僚B
「驚かせてしまったのなら申し訳ありません。ですが我々も……混乱しておりまして」
官僚Aがタブレットを操作すると、
壁面の巨大モニターに、光 一の配信の切り抜きが映し出される。
・モンスターの行動パターン
・ダンジョンの内部構造
・ボス戦の映像
・ドロップアイテムの使用例
官僚C
「あなたの配信は、国民にとって非常に有益です」
「だが同時に……危険すぎる」
「つまり、止めろってことですか?」
官僚D
「――“管理させてほしい”と言っています」
◆ 緊張が張りつめる。
光 一は背もたれに体を預け、
膝を組んであえて無礼に振る舞った。
「俺を拘束すれば止まりますか?」
官僚たちは黙り込む。
代わりに、後ろの自衛官が低い声を出した。
自衛官
「……止まりません。
あなた一人を消しても、他の誰かが配信するでしょう」
官僚たちの喉がごくりと鳴る。
◆ ”力の前に、国家は虚無”という現実が突きつけられる。
官僚A
「だからこそ、提案です」
「あなたを――
“政府公認ダンジョン観測配信者”
としたい」
長机に分厚い契約書が置かれる。
条件は淡々と読み上げられる。
・配信は許可。禁止エリアのみ制限
・10秒ディレイの義務化
・映像データは政府へリアルタイム共有
・危険情報は事前相談
・国家が身分を全面保証
官僚B
「あなたを守る代わりに、国の枠組みに入ってほしいのです」
光 一は書類を見て、静かに笑った。
「……首輪をつけたいってことですよね?」
誰も否定しない。
沈黙こそ肯定だった。
◆ 光 一の返答。
「もし俺が断ったら?」
官僚A
「敵にはしません」
「ただし――味方にもできない」
その言葉は柔らかいが、
裏に込められた意味は重い。
“保護しない”
それは“何が起きても知らない”という宣言だ。
光 一は深く息を吸い、言った。
「じゃあ……ひとつだけ条件があります」
官僚たちは身構える。
「配信の最終判断権は、俺に渡せ」
「視聴者に“隠す存在”にはならない」
官僚らは完全に黙り込む。
これは国家がもっとも飲みにくい条件だからだ。
会議室に重苦しい沈黙が満ちる。
三分――五分――
長机の上の時計の音だけが響く。
そして。
官僚A
「……受け入れます」
その瞬間、空気がわずかに揺れた。
(これで、対等か。いや……完全に対等ってわけでもねぇが)
光 一は立ち上がろうとした。
だが官僚のひとりが静かに言葉を落とした。
官僚B
「あなたは――日本ランキング1位」
「そして“ダンジョンを世界で最初に完全公開した者”でもある」
「それが……我々には一番の恐怖です」
光 一は振り返らずに答える。
「俺はただ、潜って、戦って、流してるだけですよ」
「恐れるなら……勝手にどうぞ」
ドアが開く音。
護衛が戻ってくる。
光 一は地下の会議室を後にした。
だがこの日から、
“政府公認”という称号がついた配信者の時代が始まった。
世界は、もう後戻りできない。
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