世界大会編

第9話 3度目の配信!?

最近、胃腸薬と頭痛薬を手放せなくなっている総理が、珍しく落ち着いた表情で椅子に深くもたれかかった。


「……最近は特別変なことも起こらず、ダンジョン関係も落ち着きを見せている

はぁ……ようやく休むことが出来そうだな」


前回の神の配信から二ヶ月。

あの“理不尽な世界改変ライブ”が突然止み、

総理は久しぶりに“日常”と呼べるものを実感していた。


※現実世界にはもう普通にダンジョンがある。


しかし――

いつもの日常が崩れるのは、“いつも通り、一瞬”。


バタンッ!!


いつもの若い官僚が、勢い余って“ノックなし”でドアを開け放つ。


「総理っ!!! 大変です!!!

神が――神が……3回目の放送を始めました!!

すぐにご覧ください!!!」


総理は天を仰いだ。


「……あぁ神よ……

なぜ私は安寧のひと時すら許されないのでしょうか……?」


日常をぶち壊した神に向かって祈るという、

傍から見れば意味不明な行動を取りながら、

総理は震える指でモニターを見つめた。


それほどに、彼は追い詰められていた。



◆神の“第三放送”


突如として、世界を覆う声が流れ出す。


《あー……マイクテスト、マイクテスト……》


《配信するのも久しぶりじゃのう。前回から……2ヶ月ぶりじゃったか》


11月1日。

ダンジョンが世界に誕生してから3ヶ月。

季節は肌寒くなり始めていた。


だが――

この神の声により、

また世界の温度は一瞬で沸騰する。


《そろそろ皆の者も、ダンジョンというものに慣れてきた頃じゃろう》


《そうなると気になるものもおるよなぁ……

“誰が一番強いのか”とな》


世界中が固唾を呑む。


《ダンジョン入口に置いてあるランキングというものは、結局はレベルを参考にしておるだけじゃ》


《スキルの使い方

体の動かし方

仲間との連携

作戦

全部ひっくるめて……

本当に世界で一番強い探索者は誰なのか……気になるじゃろ?》


1秒の沈黙。

そして――


《ダンジョン世界大会を開催することを、ここに宣言する!》


「「「うおおおおおおおおお!!!」」」

叫び声が世界中から同時に聞こえた。




神は楽しそうに続ける。


《参加資格は“全探索者”。

誰も止めるな。神が許さん》


《大会では死なん。怪我すらせん。そこは安心せい》


《年代別の個人戦

そして年代無制限のチーム戦

この2つを行う。両方出ても良いし、片方だけでも良い》


《個人戦は

15〜30歳

31〜45歳

45歳以上

の三部門じゃ》


《そして今回、特別に――

世界中すべてのダンジョン入口に“大会用ワープゲート”を設置する》


《ゲートに入れば、言語翻訳スキルが常時付与される。

国による言語差は無い。誰でも喋れる。理解も出来る》


《大会用空間は広いぞ?

そこらの国より広いからのう》


《まずは自国での勝ち抜き戦。

そこから、各国の生き残りが“世界統一トーナメント”を行う》


《観戦も出来るようにしておく。

入口の横に観戦ゲートを置いとくから、好きな探索者を応援するがよい。

行けん者のために、世界中に生中継も流す》


そして――

世界が最も恐れていた瞬間。


《優勝賞品じゃが――

各部門の優勝者に“C級ランク相当のエネルギー結晶、スキル媒体、装備 or 武器”から好きなものをひとつやろう》


スタジオはない。

しかし、世界中の空気が震えた。


C級相当が手に入る。

E級がまだ誰も完全攻略出来ていないこの時代に。

これはもはや革命どころの騒ぎではない。


《大会は一週間後、11月8日12:00から始める

ゲートは11:00に開く》


《力自慢の探索者達よ。

腕を磨いて待っておれ》


そして配信は途切れた。



◆世界の反応(SNS・街)


爆発した。


「うぉぉぉ!!!」

「マジでやべぇ!!!」

「世界大会!? 夢かこれ!?」


「俺のバスターソードが火を吹く時が来た!!!」


「巨大盾で無双してやるわ!!誰の攻撃も通らん!!」


「光 一の戦いが見られるのか!?マジかよ!!」


「光 一パーティーのタンク、鉄太郎もヤバいらしいぞ!!」


「斥候役の紫音? あれ実在するのか?

でも今回なら姿見れるかも!!」


「いや世界最強はランキング6位の“破壊神”岩崎だろ!!」


「何言ってんの!!ランキング4位“剣聖”滋様よ!!

62歳で現役って何なの!!?」


「やべぇ!!トップ同士の戦いが見たい!!!」


興奮は爆発し、SNSはパンクし、政府は麻痺した。


探索者達は今まで、モンスターにしか力を見せられなかった。

人に向ければ罪になり、ダンジョン出禁。

力を見せつけたい者たちは、大量にいた。


それが――

神の名のもと、合法化される。


世界中の熱狂は当然だった。



◆そして政府


「もう……やめてくれぇぇぇ……!!」


総理の魂の嘆きが、官邸に虚しく響いた。


胃薬と頭痛薬では、もはや足りない。


神のたった一声で世界がひっくり返る時代になったのだ。

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