第15話:信頼は先に手を差し出した者から生まれる
冒険者たちとの直接買い付けを決めた翌朝。
私は父とともに村の入り口へ向かった。
そこは旅人や冒険者がよく休憩する場所で、焚き火の残り香がまだ漂っていた。
「カイ、本当にここでやるのか……?」
「うん。冒険者さんたちに直接会って話さないと、信用は得られないからね」
父はごくりと喉を鳴らした。
冒険者といえば、強くて、危なくて、気まぐれで……村人からすると少し遠い存在だ。
そんな相手に三歳児が交渉に行くのだから、そわそわするのも無理はない。
(でも、“こちらから先に信頼を差し出す” ことが大事なんだよね)
薬師さんとの値段固定契約で学んだことだ。
相手が迷っているなら――こちらが最初に自分を賭ける。
すると、村の入り口近くに三人組の冒険者が腰を下ろしているのが見えた。
剣士の青年。
魔法使いのお姉さん。
斧を持った筋肉の人。
筋肉の人は、一目で怖い。
(でも、怖がってたら始まらない……)
私は歩み寄って声をかけた。
「すみません!」
三人の視線が一斉にこちらへ向く。
「ん? おい……子ども?」
「どうしたんだい坊や、迷子か?」
「まさか依頼でも持ってきたのか? いや、そんなはずは……」
私は深く頭を下げた。
「薬草を売ってください!」
沈黙。
三人組が口をぽかんと開けた。
「……は?」
「薬草を……買い取らせていただきたいんです」
父が背中で固まっている。
剣士の青年がおそるおそる聞き返した。
「えっと……“薬草買い取り”って、どこの店の使いか?」
「違います。私が主催する“生活支援ファンド”という仕組みです」
「せ、生活……なに?」
説明すると長くなるので、私は一歩前に出た。
「私は、村に“薬が届かない日が来ないようにする仕組み” を作っています。そのために、冒険者さんに“薬草を売るという新しい仕事”をお願いしたいんです」
魔法使いのお姉さんが目を細めた。
「子どもが……“仕組み”? 本当に?」
「はい。本当です」
私は袋を取り出し、冒険者たちの前に置いた。
その中には――銅貨と銀貨がぎっしり詰まっていた。
父が「カイ!?」と小さく悲鳴をあげたが、私は続けた。
「これは……私たちの“本気”です。冒険者さんが薬草を持ってきてくれたら、必ず買い取ります。最低ラインの品質は示しますが、達していれば“手間賃” として必ず評価します」
青年は硬直したままだった。
「これ……全部、お前のか?」
「はい。ファンドに出資してくれた村の人たちのお金です。だからこそ、私は逃げません。最初に身を切るのは、こちらです」
三人は顔を見合わせた。
そして、斧の筋肉の人がどすんと腰を落とし、私を見つめる。
「お前……根性あるな」
「ありがとうございます」
「薬草売るのはいいがよ……買い取り先が信用できねえと困るんだよ。だが……先に銭を見せてくれるんなら話は変わる」
私は静かに頷いた。
「人は、“先に渡してくれた相手” を信用します。だから、これはそのために必要なんです」
魔法使いのお姉さんが、くすりと笑った。
「まいったね……三歳児に商売の基本を教えられるとは」
「信用ってのは、積み重ねだぞ、坊や」
「はい。だから今日、その最初の一段を作りに来ました」
青年が腰の袋をごそごそ探り、十数本の薬草を取り出した。
「……試しに、これを売るよ。質はまあまあだが、どうだ?」
「薬師さんに評価してもらいますが……最低ラインはクリアしています。では、手間賃込みで――この額が妥当だと思います」
私は銀貨を数枚置いた。
青年は驚いて目を丸くした。
「えっ……こんなにか!?」
「はい。あなたたちの時間と労働の価値を“正しく”払いたいからです」
筋肉の人が笑った。
「坊や、あんたは信用できる。うん、できるわ」
「ありがとう……そう言ってもらえると嬉しいです」
三人組は顔を見合わせ、そして笑った。
「じゃあ坊や、薬草集めの依頼……正式に受けるよ」
「よろしくお願いします!」
深く頭を下げると、三人はまるで仲間が増えたように嬉しそうだった。
―――
帰り道、父が恐る恐る聞いてきた。
「カイ……大丈夫なのか? あんなに銀貨を……」
「大丈夫。最初は“こちらが損をするくらい”でいいんだよ」
「損、なのか?」
「うん。でもね、信用を買うより安いものはないんだよ。一度信用を得れば、そのあとで何倍も返ってくるから」
父はしみじみと呟いた。
「……本当に、三歳なのか?」
「多分ね」
私は笑った。
冒険者たちが協力すれば、薬草の供給は安定する。
薬師さんの評価が入れば品質は整う。
そうすれば――ポーションが途切れない村 が生まれる。
(そして、これが次のファンドを育てる土台になる)
村、薬師、冒険者。
三つの力が結びついて、初めて“仕組み”は育つ。
私は歩きながら、静かに拳を握った。
「よし……これでやっと、次のステップに進める」
父はまだ圧倒された顔のままだった。
「カイ……お前、本当に……将来何になるんだ?」
「村を救う投資家かな」
「村……いや世界救えるだろそれ……」
父のぼやきは風に溶けて、どこか嬉しそうだった。
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