第四話 戻ってきた少女



 とある女性が飛行機の窓辺を覗き見て、日本の地を舞い降りようとしている。飛行機を降りて空港に着いた瞬間、分かる。ここは空気が違う。

 どことなく湿っていて、懐かしくて、でも少しだけ遠く感じる——それが“日本”なのだ。


 約二年振りの帰国。

 空港のターミナルと土産売り場を横目に、中央ビルの出口を出て、送迎車用スペースへと向かう。

 そこで出迎えてくれたのは、両親では無い。

 駅までの静かな送迎タクシーである。どこか淋しさを感じながらも、扉を開けて車の助手席に乗り出す。

 助手席に座り、窓の外を眺めて、車に揺られながらずっと同じ名前を心の中で呟いていた。


「りょうた——」


 彼女の名前は氷室莉子ひむろりこ。遼太の初恋の女性である。


 あの春の日。

 莉子は突然、遼太に手紙だけを残し、姿を消した。

 理由としては「家の事情」で済ませたけれど、あれが遼太をどれだけ傷つけたか、本当は莉子が一番理解しているつもりだった。


 わかってる。

 今更戻ってきて、何をどうするつもりなのか。

 自分でも答えなんて出てない。


 でも、知ってしまった。

 彼が今誰とも付き合っていないこと。

 あの頃のまま、少しだけ大人になっている。

 でも涼太は未だ“本気の恋”を出来ずに居る。


 ——なら、チャンスはある。


 自己中心的な考えだと莉子の中で理解は出来ている。

 でももう一度、彼の隣に立ちたい。

 あの日言えなかった言葉を、今度こそ伝えたい。


 ブー……ブー……!!

 

 帰宅後、部屋の窓から街を見下ろしていると、スマホが震えた。

 送信者は、一ノ瀬 遼太。たった一言だった。


『莉子、帰ってきたって本当?』


 息が止まるかと思った。


 返すべきか、どう返事をすべきかを考えながら、ゆっくりと指を動かし、フリック入力を開始する。


『うん。突然でごめんね。

 久しぶりに会って話したい』


 そのまますぐには既読が付かなかった。

 私は無言のまま、スマホの画面を伏せる。


 もう後戻りはできない。

 もう後悔はしたくない。

 

「私は遼太の事が……ずっと…………」


 莉子はそう呟きながら、空に流れる飛行機雲を眺める。あの空に流れる様々な形をした雲を眺めながら。


 自由に泳ぎ流れる雲の様になりたい。そう考えながら莉子は彼を想う。

 

 莉子が日本に帰ってきたことで、遼太と他の人間関係がより複雑に動き出そうとするのであった。

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