先生の俺とヒキコモリの親友が風俗出禁になった話

月岡宗秋

これは、幼なじみ同士だった２人の男の子が、片やヒキコモリになり、片や先生になった話。

俺には、幼稚園から高校まで一緒だった幼なじみというか親友がいた。

幼かった頃から、互いの家に当たり前のように行き来していた。親同士も仲が良かったから、いわゆる家族ぐるみの付き合いというやつだった。

ちなみにどちらも、いわゆる陰キャで、友達が多い方ではなかった。彼女ができたことなんてなかったし、２人とも女子と話すことすら苦手なタイプだった。

それでも高校までは、ソイツと一緒にゲームをしたり、漫画の貸し借りをしあったり、親に隠れて酒をちびちびと飲んだりするのが楽しかった。その頃は、こんな関係がいつまでも続くと思っていた。

そんな俺たちは、高校２年生後半に差し掛かった頃から、進路を意識するようになった。

２人とも、優等生でもなければ、不良でもなかった。ましてや、将来なりたい職業なんてなかった。そんな個性の乏しかった俺たちだったが、俺はなりたい職業がないなら、ひとまず大学に行って、自分探しすればいいんじゃね？という結論に至って、大学進学を目指すことにした。

彼はと言えば、親父さんが大学教授で、大学に進学することを自然なことと捉えている家庭環境のようだった。だから彼も大学進学を目指すことになった。根拠や目的に少々の違いはあれど、２人とも大学進学を目指すことになった。

俺の家では、浪人や留年をしないことが、大学の学費を出してもらえる条件だった。俺は成績は良くなかったなりに頑張って勉強して、無名だけども大学への進学がなんとか決まった。思い返せば、人生で初めてした本格的な努力は、大学受験だった。当時は勉強が苦手なりに、英語だけは比較的好きだったから、英文学を専攻することになった。学費が高い私立に通わせてもらえたのは、ありがたかった。

親友も滑り止めの無名大学には合格していたけど、突然「どうせ大学に通うなら、有名大学でなきゃいやだ」なんて言い始めて、浪人することになった。いやいや、お前も俺と同じで、勉強ができるほうじゃないくせに、何様のつもりだ、とその時は思った。

だが同時に、有名大学に通いたいと言い始めるとはアイツらしいな、とも思っていた。見栄っ張りな親友は、幼かった頃からブランド志向で、服や持ち物は有名ブランドものばかりだった。しかも、自分と他人をやたらと比べたがる傾向があった。俺はブランドに疎くて、服や持ち物は実用性を重視するタイプなのに、俺の持ち物を見ては「それ、なんてメーカー？」とか「いくらしたの？」とかいちいち聞いてくるのが、ちょっとだけ、めんどくさかった。俺の腕時計を見て「無名メーカーかよ」って苦笑いしてたこともあったな。

彼は裕福な家庭で育ったうえ、小学校時代から、中学校、高校と、どこに行っても教師たちから、「あの教授の息子さん」として特別扱いされていたから、プライドばかりが膨らんで、自分が無名大学の出身になるなんて、受け入れられなかったんだろう。まあ、浪人が本人の希望で、親もそうさせてくれるのなら、そうすればいい。

さて、大学受験が終わった俺は、高校卒業間近の時期に、コンビニのバイトを始めることにした。働くことが初めてだったから、よく失敗もしたし、怒られもした。怒られた時は、俺って不器用なんだなと自己嫌悪に陥ったりなんかもしたし、バイトを辞めることも考えた。でも、ここで逃げたらきっと、何もできない大人になると思って、耐えた。すると、失敗を重ねながら徐々に、仕事の仕方やコツを覚えて、怒られる頻度も減っていった。俺の人生は今、ステップアップしてる途中なんだな、と実感していた。

一方で親友は、受験生のまま立ち止まった状態だった。今思えば、この頃から俺たちの生活は、すれ違いはじめていたのかも知れない。

それは親友も感じていたようだった。高校の卒業式の日に「お前はいいよな、大学進学おめでとう」と言ってきた時の、彼の乾いた笑顔は、今でも瞼に焼きついている。「お前はいいよな」ってどういうつもりだ、せっかく合格した滑り止めを蹴って浪人を選択したのは、お前自身だろうに…。

さて、大学に入学してからの俺は、授業やらレポートやらで、慌ただしく大学生生活を送っていた。大学の授業は予想以上に難しくて、成績優秀でなかった俺は、ついていくのに必死だった。ついていくために授業はいつも、最前列で聞いていた。席が決まっていない大学の授業では、教室の後ろから席が埋まっていくのが相場だから、最前列で授業を聞いている俺は、同級生たちから陰キャ扱いされていた。遊び目的で大学に入って、足の引っ張り合いをしてるパリピどもが寄ってこなかったおかげで、勉強には集中できた。

結果として、交友関係の乏しい学生生活ではあった。少しだけ、友達付き合いみたいなものもあった。でも、そいつらが、みんなで誘い合ってスキー旅行に行った時、俺に声がかからなかったことを後から知った。それ以降、俺はコイツらとは単なる同級生ではあっても、友達ではないんだな、と割り切った。その出来事をキッカケに、より勉強に集中することにした。

コンビニのバイトは続けていたから、学業と両立させることは大変だったが、忙しさゆえ、充実感に似た感情はあった。

本当は親友を遊びに誘いたかったけど、彼はまだ受験生だから、連絡は控えていた。そして、久しぶりに親友の家に行くことになったのは、夏休み。

卒業式ぶりに会った親友と、これからどうしたいか話し合った。俺は大学の授業についていくだけで精一杯で、将来なんてまだわからなかった。彼は相変わらず、有名大学にこだわっていた。その反面、部屋にあった問題集が新品同様のまま綺麗に本棚に並べられていたことに違和感を覚えた。俺は、問題集のページをめくるくらいはすべきでは、と指摘しようか迷ったが、何も言わないことにした。その時の彼は、「俺も早く、大学生になりてぇなあ」って言っていたし、俺も彼の大学受験を応援していた。

そこからまた、親友とはしばらく疎遠になり、次に彼の情報が入ったのは、翌年の春。大学入試の結果が全滅で、二浪することになったらしいという、親経由での情報だった。

俺はその結果に驚かなかった。彼の部屋の本棚にあった問題集が、新品同様な光景を見ていたから。

しかも親経由の情報によると、二浪が決まった時の親友は、両親に向かって叫んだり暴れたりしたらしい。しかし、柔道有段者の親父さんにあっさり押さえ込まれ、来年の入試で必ず結果を出すと約束させられたとのこと。叫んだり暴れたりするとは、彼なりに今の状況に対して焦ってるんだろうな。

俺は、彼にどう声をかけていいかわからなくて、しばらく連絡できずにいた。

次に彼に会ったのは、また夏休み。親経由の連絡で、「久しぶりに会って元気づけてあげて」とのことだった。「元気づけてあげて」ってどういうことだ？なんかいやな予感をさせる言い方だが…。

さて、１年ぶりに見る彼の部屋は、まるで時が止まっているかのように、高校卒業当時から何も変わっていなかった。むしろ殺風景にすらなっていた。そして、問題集は相変わらず新品同様で、ページがめくられている様子すらなかった。

本人はと言うと、明らかに様子がおかしくなっていた。痩せこけた頬、正気のない目。「元気づけてあげて」とは、このことか…。

話の内容も、俺の大学生活に嫉妬する様子を見せることもあれば、無名大学と揶揄することもあって、一貫性がなかった。一貫性がないのは、自分の意思が定まってない証拠なんだろうと思った。

幼かった頃はなんでも一緒に楽しんでいた俺と親友との間に、なんだか距離ができつつあることを感じた。

そして「二浪したからには絶対有名大学に入らなければ」と言う彼の表情に、元気はなかった。

目標を見直すことを勧めるも、返ってきた答えは、「将来、自分の出身大学を言うときに、恥をかきたくない。」だった。

彼の説明では「男なら有名大学に行くべきで、誰でも入れる私立文系なんてもってのほか。短大や専門学校なんて論外。」なんだそうだ。

なんだそりゃ、と思った。有名大学以外は恥だとでも言うのか。そんなことが一体、どこで決まったんだ。例えそれが本当だとしても、私立の文系に通う俺に向かって「私立文系はもってのほか」なんて言うか。今に始まったことではないが、デリカシーのない奴だな。

確かに俺の大学は有名ではないが、俺自身は今、機嫌良く大学に通っている。大学選びで一番肝心なのは、その大学で自分が何を学び、どうステップアップできるかじゃないか。それに世の中には、有名大学出身の悪い奴もいれば、学歴がなくても立派な大人だっている。無名大学に通う俺が言うと、負け惜しみに聞こえるだろうから、そうは言えなかったが。

やはり、「教授の息子さん」として、教師たちから特別扱いされてきた彼は、自身が成績優秀でなかったことにコンプレックスやプレッシャーみたいなものを感じながら生きていたのかも知れない。

彼は「男が短大とか、ありえなくね？」と俺に同意を求めてきたが、俺は「人にはそれぞれ、適した道があると思う」と返しておいた。だが俺の言葉は、彼の耳には届いても、心には届いていない様子だった。

その日の帰り道、俺は繁華街を歩きながら、感情を整理していた。

彼は、父親が有名大学の教授だからといって、自分も有名大学に入らなければいけないと思い込んでいる。大学選びで重要なのは、その大学の雰囲気が自分に合うか否かなのに。

それと、彼のブランド志向が相まって、彼は自分が有名大学に通わなければならないという固着観念を自分で作り出し、まるで自分で自分に足枷をはめているような状態だ。

俺の通う大学は無名大学だけど、俺はいま、多忙なりに機嫌良く大学に通っているし、知名度どうこうよりも、自分の大学が気に入っている。だから、今のアイツに「無名大学」と揶揄されても特段、悲しくはなかった。

だが、自分の大学を「無名大学」と見下されても悲しくなかった俺は、もしかして逆に、内心でアイツを見下しているのだろうか…。二浪中でしかも、熱心に勉強している様子のないアイツを…。

そんなことを考えていたら、頭の中はいろんな感情でグチャグチャになっていた。気晴らしがしたかったが、陰キャのできる気晴らしなんて限られてる。だが、今までと同じような、ゲームや漫画を新調する程度の気晴らしではもの足りない。普段は通らない道でも歩いてみるか。

そんな心境で、まわり道をしていると、いつしか俺は繁華街の、ネオンのある一角を歩いていた。

洒落た店が立ち並んでいる一件一件のドアの向こうではきっと、洒落た空間で、洒落た人種たちが、洒落た音楽を聞き、洒落た酒を飲みながら、楽しく過ごしているんだろうな。俺には真似できないな、ちくしょうめ…。

しばらく歩いていると突然、客引きのオジサンが声をかけてきてくれた。いや、むしろ内心では、誰かが声をかけてくれることを期待しながら歩いていた。一体何の店かはわからなかったが、俺は客引きの声かけに足を止めることにした。

だが、陰キャとバレてなめられたくなかった俺は平静を装って、「いくらくらいで飲めますか？」と聞いた。精一杯、場慣れしてる感を演じているつもりだったが、返ってきた答えは、

「本当は４０分で８０００円だけど、お兄さん初めてだよね？７０００円でいいよ」

だった。初めてなのを見抜かれていたのは、さすがプロだなと思った。だが、もし本当に俺が場違いな奴だったら、声をかけてはこないだろう。それに７０００円なら、なんとか手持ちがある。勝手がわからないが、ままよ、一歩踏み出すとするか。俺は流れに乗ることにして、客引きのオジサンに７０００円を払って、案内されるまま階段を登った。

階段を上り切った先はカーテンで仕切られていて、カーテンの前に立ち止まったオジサンが、こう説明してくれた。

「ここはセクシーキャバクラですから、胸のお触りはOKですが、下半身のお触りはご遠慮くださいね。」

しまった、もしかして、来ちゃダメな場所に来てしまったかも知れない。セクシーキャバクラってなんだ？胸のお触りはOKだと？もしかしてとんでもない所に入ってしまったんだろうか。まさか警察に捕まったりしないだろうか。だがここで戸惑ったら舐められると思って、俺は「はい」とだけ言った。

そして、カーテンを開けて案内された先は異世界だった。薄暗い部屋に並べられた、たくさんのソファーと、イチャイチャする男女。もしかして俺も、今からこれができるんだろうか。

そして、その中のひとつのソファーに案内されて、しばらく待つことになった。人生で初めての経験。勢いに任せて入ってしまったが、俺はこれから、いったいどうなるんだろう。

どのくらい待っただろうか。おそらく、そんなに長くはなかったはずだが、俺にはものすごく長い時間に感じられた。しばらく待ったあと、俺の隣に座ったのは、ブラウスにマイクロミニのスカートをまとった、ギャル系の女の子だった。ギャル系の女の子なんて大学にはたくさんいるが、ギャルが隣に座ることなんてないから、どう接すればいいかわからなかった。だから、しばらくは無難に、天気の話とかをしていた。でも内心は、他の客のようにイチャイチャしてみたかった。するその女の子は突然、「そんなことより、ここセクキャバよ？」と言いながら、俺の手をとって自分の胸にあててきた。俺が内心、他の客のようにイチャイチャしたいと思っていたことや、俺がどう立ち回るべきかわからないことを見透かされていたようで恥ずかしかったが、それ以上に、女の胸の触り心地の良さに感動した。恥ずかしながら、女の胸を触るのは初めてだったが、そんな俺でも、ブラジャーをつけていないことくらいは理解できた。そして、そのままブラウス越しに胸を触り続けていると、あっという間に頭の中が真っ白になった。ああ、俺は今、いったい何をしているんだ。ギャルの、しかも面識のないギャルの胸を触っているなんて…。それにしても、これが女の胸の感触か。この世のものとは思えない程に、柔らかい…。本音を言うと、人生で初めて触る女の胸は、店ではなく恋愛関係で触るものでありたかった。だが、そんなことは言っていられないほど、この胸の触り心地は、気持ちいい…。試しにブラウスの中に手を入れてみたら、そこに乳首を見つけた。AVの真似をして乳首を指先でいじってみたら、乳首が立ってきたことがわかった。聞いてた通り、女の乳首って立つんだな。しかも女の乳首ってのは、男のそれとは違って、随分とプックリとしている…。

俺は無我夢中になって、無意識にスカートの中に手を入れてしまっていた。パンツ越しに一瞬だけ触れた女性器は、あたたかくて、柔らかかった。その瞬間、女の子は俺の手をゆっくりと払いのけて、小声で「下のお触りは、ルール違反なのよ」と言った。

しまった！夢中になったあまり、無意識に手が動いてしまった。もしかして、怖いオジサンたちに囲まれて、高額な費用を請求されるんだろうか。

すると女の子は、耳元で「交代のお時間だけど、指名してくれたら、下さわってもいいよ」と、囁くように言ってきた。俺はわけもわからず、「します！」と即答していた。女の子が、店のスタッフに合図するかのように手を上げると、男性スタッフが歩いてきて、「指名料として１０００円を頂戴します」と言った。なるほど、この１０００円の指名料とやらが、女の子の目的か。とにかく俺は、さっき触った女性器を再度触りたくてしかたがなかった。俺の財布には、１０００円札が１枚と少しの小銭しかなかったが、迷ってなんていられなかった。俺は１０００円札を回収した男性スタッフが姿を消すと早速、下半身に手をのばして、スカートをめくった。これで今日は、歩いて帰ることが確定した。だが、改めて触る女性器は、胸とは違う柔らかさがあって、パンツ越しでもわかるくらいに湿っていた。女の子は、俺の耳元で「店には内緒よ」と囁くように言った。この、「店には内緒」という背徳感が、さらに快感を増した。さすが、男を夢中にさせる術に長けている。女の子は、俺に触られて感じている素振りを見せていたが、それが演技なのは、童貞の俺でもわかった。それでも俺は、この状況が楽しかった。これが、性の快感というやつなのか…！この短い出来事だけで、俺の約１日分のバイト代が消えていた。だが背徳感はあっても、後悔はしていなかった。女の体って、こんなに柔らかくて、触り心地がいいものだったのか…。ああ、彼女のいない陰キャな俺が、こんなに可愛いギャルとイチャイチャしている！これがセクキャバか…！そんな事実に、快感と感動が入り混じった、なんとも表現しがたい感情が俺の心を支配していた。そして、この状況を楽しみながら俺は、こう思った。

問題集のページをめくることのない彼を説得すべき立場の俺は今、エロいギャルのスカートをめくっている…。

そう考えながらも俺は、女の子の体のあちこちを夢中で触り続け、女の子は俺の腕の中で、感じる演技を続けていたのだった。

その時、彼の部屋にある問題集は、新品同様のままだった…。

=つづく=