拝啓、人間様。あなたの書く小説が一番面白かった時代は終わりました。AI小説による検索汚染の沼で、AIスペシャリストが教える「生存戦略としてのAI活用論」
第3章:歴史に学ぶ道具論 ~フェルメールの青と電動バイク~
第3章:歴史に学ぶ道具論 ~フェルメールの青と電動バイク~
■ 前提の整理:どこまでがセーフか?
少し冷静になりましょう。「資料調査」「壁打ち(アイデア相談)」「校正」「感想出し」にAIを使うことを否定する人は、今や少数派でしょう。
議論の主戦場は、あくまで「本文生成(Writing)」をAIに任せることの是非にあります。
■ 移動手段の進化論
ここで、人類の執筆の歴史を「移動手段」に例えてみましょう。
・徒歩 = 筆と紙で書く人
・自転車 = パソコン(ワープロ)で書く人
・電動バイク = 生成AIを使って書く人
パソコンが普及した時も、「手書きの温かみが失われる」「漢字を書けなくなる」という議論がありました。しかし今、キーボードで小説を書く人を「手抜きだ」と批判する人はいません。
小説の目的は「面白い物語を読者に届けること(目的地への到達)」であり、「インクで指を汚すこと(移動の苦労)」ではないからです。
もちろん、徒歩で山を登る行為そのもの(書道や趣味の執筆)の尊さは否定しません。しかし、ビジネスや商業出版として「より遠くの読者へ、より速く作品を届ける」ことを目指すなら、電動バイク(AI)は最強のモビリティです。AIは目的地へ早く辿り着くための「道具」にすぎません。
■ フェルメールの青とチューブ絵の具
芸術の世界でも同じことが起きました。
17世紀の画家フェルメールは、「真珠の耳飾りの少女」のあの美しい青(ウルトラマリン)を出すために、ラピスラズリという宝石を砕いて絵の具を自作していました。
しかし現在、画家たちは画材屋でチューブに入った絵の具を買います。
では、絵の具を自作する工程が省略されたことで、芸術の価値は下がったでしょうか?
否です。作家は「色の調合」という重労働から解放され、「何を描くか」という本質的な創作にエネルギーを注げるようになりました。
AIは現代の「チューブ入り絵の具」であり、プログラマにおける「ライブラリ」です。面倒な工程をショートカットし、本質へ迫るためのツールなのです。
■ 【思考実験】大富豪とゴーストライター
ここで一つ、新しい視点を提供します。
「AIとは、人類の集合知を低コストで民主化したもの」であるという視点です。
想像してください。ある大富豪が小説を書こうとしました。彼は文章を書くのが面倒なので、膨大な資金を使って次のような方法をとりました。
1. 大富豪が「こんな話が読みたい」と詳細に語る。(プロンプト)
2. 1,000人のライターを雇って、その案を元に下書きを書かせる。(生成)
3. 1,000人の読者を雇って、どの下書きが面白いか投票させる。(評価)
4. 優秀な編集者を雇って、上位の案を合体させ、整えさせる。(編集・統合)
5. 最後に大富豪が確認し、「よし、これは私の作品だ」として発表する。
さて、この作品は誰のものでしょうか?
ライターのものでしょうか? いいえ、企画し、資金を出し、最終決定を下したのは大富豪です。世間はこれを「大富豪のプロデュース作品」あるいは「大富豪の著作(制作:スタジオ〇〇)」と認めるでしょう。
AIは、この「大富豪の遊び」を、誰もが月額数千円(あるいは無料)で実行できるようにした革命です。
1,000人のライターと読者の代わりを、AIが務めてくれるのです。
単に「面白い話書いて」と投げるだけなら、それはゴーストライターへの丸投げです。しかし、詳細な設定、執拗なリテイク、構成の指示を行っていれば、それは「大富豪の著作」と同じく、立派な創作活動ではないでしょうか?
小説における「執筆(Writing)」の価値は相対的に下がり、「企画・監督・編集(Directing)」の価値が爆発的に上がっている。これがAI時代の真実です。
AIの無い時代ですら、お金さえかければ、今日のAI小説と同じような取り組みかたで小説を生成することが出来たのです。今、「AI小説」が改めて問題になっている理由は、AI小説そのものが理由ではありません。それがあまりにも格安で大衆的に実施できるようになったために、大量の粗悪品の量産が出来るようになってしまったこと、なのです。一回AI小説を作るのに、API利用料金が100万円かかってしまうとしたら、AI小説は特に問題にならなかったはずです。
まとめると、
AIはあくまでも「道具」であり、誰もが思考実験中の「大富豪」のように、「大富豪のプロデュース作品」を簡単に作れるようになるツールです。小説における「執筆(Writing)」の価値を下げ、「企画・監督・編集(Directing)」の価値を上げます。人類が、真に面白い小説を書くという、より本質的な作業にエネルギーを注げるようにする「道具」なのです。
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