第27話:帝都の夜、鬼なぶりの晩餐会

帝都の夜は、眩(まぶ)しいほどに明るい。 大通りにはガス灯が並び、貴族たちの馬車が行き交う。 だが、一歩路地裏に入れば、そこは汚物と死臭が漂うスラム街だ。


「……綺麗なのは皮だけか」


迅(ジン)は繁華街を歩きながら、冷めた目で周囲を観察していた。 すれ違う貴族たちは、皆、高価な着物やドレスを纏(まと)っているが、その目はどこか狂っている。


「あら、見てあの子。角が生えてるわ」 「汚らわしい。殺処分するべきね」


貴族の婦人たちが、テツを見て扇子で口元を隠す。 テツは不安そうに、ボロボロのフードを目深に被り直した。


「ジン……ここ、嫌な匂い。鉄の匂いじゃなくて、腐った脂(あぶら)の匂いがする」


「ああ。中身が腐ってる奴らばかりだからな」


二人が広場に差し掛かった時、人だかりが出来ていた。 見世物小屋だ。 ステージの上で、一人の「鬼の少女」が鎖に繋がれている。


「さあさあ! 本日のメインディッシュだ!」


太った興行主が声を張り上げる。


「この鬼の角を切り落とし、その悲鳴を肴(さかな)に酒を飲む! 一回金貨一枚! 誰かやりたい方は!?」


「私だ! 私がやる!」 「いや、俺にやらせろ!」


貴族たちが我先にと手を挙げる。 彼らにとって、鬼への拷問は「高尚な娯楽」なのだ。


少女が泣き叫ぶ。 「やめて……痛い……助けて……」


だが、観客はそれを聞いてゲラゲラと笑っている。 狂気。 魔都の混沌とは違う、洗練された悪意。


「……胸糞悪(ワリ)ィな」


迅の足が止まった。 彼は別に正義の味方ではない。鬼を助ける義理もない。 だが、この「弱者を嬲(なぶ)って喜ぶツラ」が、生理的に気に入らない。


「テツ」


「ん?」


「あのステージの鎖、美味そうか?」


テツが目を輝かせる。 鎖は「ミスリル銀」を含んだ高級品だ。


「うん! すっごく美味しそう!」


「なら食え。……ついでに、あの豚どもも掃除してこい」


「やったー! いただきまーす!」


テツが群衆をかき分けて飛び出した。 次の瞬間、興行主の悲鳴と、鎖が噛み砕かれる音が夜の帝都に響き渡る。


「な、何だ貴様らは!?」 「ひ、警備兵を呼べ!」


パニックになる貴族たち。 迅はあくびを噛み殺しながら、騒ぎの中心へと歩き出した。


「晩餐会は中止だ。……代わりに、俺がテメェらを料理してやるよ」


帝都の夜に、最初の悲鳴が上がる。 それは、腐りきった秩序への、迅なりの宣戦布告だった。


(続く)

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