第6章 遺産
そもそも、私を帝国に呼び寄せた『改革』とはどんな性質だったのか。
帝国は共和国連合に競争で勝つため、広大な領域を統治するための現地の協力者を募り始めた。
そうしてできた有毛人の高官が、私のうわさを聞きつけて中央に推薦したのだ。
そうして、私は有毛人の科学者という極めて異例な存在として帝国に奉仕することになった。
ただ、帝国第一物理学研究所で働き始めてからは、苦難の連続だった。
どこに行っても嫌がらせをされ、直接暴力を振るわれたこともあった。
だが、私は耐えた。
偉くなり、故郷を取り戻すと誓っていたからだ。
それが、どれだけ虚しいことと分かっていても。
そうして、帝国物理学研究所の中でも、優秀とみなされるようになった。
その功績から、自分の家を持ち、家政婦を雇うことを許された。
そういえば聞こえはいいが、要するに監視用の檻と看守をよこされたのだ。
家政婦は、有毛人だったが、自分とは違う猫人だった。
猫人が住む砂漠のほとりは、私の故郷とは真逆の存在だった。
性格も真逆で、明るく笑顔を絶やさない女性だった。
興味がわいたので、暇つぶしに話してみることにした。
「やあ。今は話してもかまわないかな?」
少し驚いた後、彼女はうなずいた。
「はい。かまいません。」
「君の故郷はどんな場所だい?」
困ったように笑った後、彼女は答えた。
「申し訳ありませんが、故郷のことはわからないんです。赤ん坊のころに両親に奴隷として売られて、帝国の第三生物学研究所で実験体として勤務していました。」
少しうつむいた後、彼女は話を続ける。
「ワタシは比較的子供だったので、心身の発達の様子の観察に回されただけでした。ですが、研究所でできた友達は、みんないなくなってしまって…」
「いなくなった?」
「はい。ただ、みんな死んでしまっているでしょう。」
「どうしてそう言えるんだい?」
「友達の一人、アイリクがいなくなった次の日に、彼女にそっくりな標本が研究室に増えていたんです。すぐに隠されましたが、彼女は片足が短く、いつもびっこを引いていたのですぐわかりました。」
私は言葉を失った。
彼女は思い出したかのように言う。
「用がないのであれば、掃除に戻ります。では。」
私は、その背中をただ見つめることしかできなかった。
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