第二話 デートしよう
「聖女様、デートしよう!!」
次の日、私はまだネタバラシされないなら今がチャンスとこんなことを言っていた。
嘘でも何でも、今の私は聖女様の恋人なんだ。
お付き合いしてるならデートのお誘いをしても何の問題もないはず。
ふっふっふう。
まだ嘘告だとネタバラシする気がないなら、拒否できないよね、聖女様?
「デート、ですか?」
「そうそうそうだよデートだよっ。何せ付き合ってるからね私たちは恋人同士なんだもんねだったらデートするのは普通だよね、ねっ、ねっ!!」
「そっそんなに顔を近づけないでくださいな!」
ちょっと近づいただけで拒絶されるのがこの関係が嘘だという証明だった。
わかってたけどね、ちくしょう。
「……そんなに顔を近づけられたらどうにかなってしまいそうですから」
「どうにかって?」
「どうにかはどうにかです!!」
あまりにも嫌いな奴の顔が近くにあるから殴りたくなるとか? いつのまにか嫌われたもんだけど、まあ相手は公爵令嬢だし歴代のどんな魔法使いよりも治癒魔法を極めた天才だしね。私のようなお荷物に思うところがないわけがない。
まあいいや。
今更何をどうやっても嘘告されたという事実は変わらないし、どうせ嘘なら束の間の幻想でしかないとしても全力で楽しまないと損だよね。
……ネタバラシの後が怖いけど、こちとら後先考えるような人間ならそもそもどこにでもいる平民でありながら公爵令嬢に惚れるだなんて身の程知らずな感情は早々に捨てていた。
未来のことは未来の私がどうにかする。
だから今を後先考えずに楽しもう!!
「ねえ聖女様。私とデート、してくれるよね?」
「も、もちろんです!!」
了承は得られた。
後は嘘に塗れたイチャラブデートを楽しむだけだぜ!!
ーーー☆ーーー
私たち勇者パーティーは昼過ぎには街に着いていた。
ここからは自由行動ということで勇者ちゃんはお昼寝、剣帝の幼馴染みは女を漁りにどこかにいった。
というわけで私と聖女様は街を散策デート。
嘘告だったってネタバラシされるまでとはいえ今はまだ私たちは付き合ってる。つまりどれだけイチャラブしてもいい。
ふははーっ!! 開き直った人間の恐ろしさを思い知るがいい!!
「せいっせいっ聖女っさまあ!! あっちから美味しそうな匂いがするよさあさあレッツゴーだよっ!!」
「ちょっアリスさっ手を繋いで……っ!?」
もちろんただ手を繋ぐんじゃなくて指と指を絡めての恋人繋ぎだけど、ふっふっふう。拒むなんてそんなことは許さない。
「付き合ってるんだから、これくらい普通だよ」
嘘告だろうが何だろうが今の私たちは恋人同士、付き合ってるという免罪符でいくらイチャラブしてもいいんだから。
……ぶっちゃけ嘘告で色々と吹っ切れたというかヤケクソというか、普段の私だったら聖女様にこんな大胆な真似はできなかった。もしも本当の本気で告白されて両想いで付き合えてたとしたら、それこそガチガチに緊張してたと思う。
だけどこの関係は嘘、近いうちに絶対にネタバラシされて終わる。
だったら少しでも後悔しないようやりたいことやりまくらないと。
ねえ聖女様?
嘘告の破壊力を上げるためにあえて一度付き合ったんだろうけど、それこそ悪手だったね。
すぐに嘘告だと暴露していたら嫌いな私とイチャラブデートしなくて済んだのに。
「……う……ぅう」
その真っ赤な顔もどうにも照れてるとしか思えないけど、嘘告という事実を考慮すれば怒りに震えてるって感じかな。
まあ逃がさないけど。
今日は一生分の思い出を無理矢理にでも搾取してやるんだから!! ふははーっ!!
ーーー☆ーーー
私はこのデートで聖女様と恋人らしいことをすると決めていた。
「んうーっ! これめっちゃ美味しいよ聖女様っ。というわけで、はいあーんっ」
「ええっ!? それは、その、間接きっきききっ!?」
「付き合ってるんだから、これくらい普通だよ」
「で、ですか?」
「ですよ。だから、ほらあーん☆」
「あ、あーんっ」
「どう? おいしい?」
「は、はい……」
「じゃあ、聖女様のもちょうだい」
「え?」
「あーん」
「ええええっ!?」
たとえば、屋台で買ったスイーツを食べさせ合いっこしたり。
「バニーガール、ビキニアーマー、踊り子ひらひらスタイル……聖女様にはどうせなら普段着ないようなの着てもらいたいよねっ」
「全部肌の露出が激しいのはどういうことですか!?」
「だから普段着ないようなのなんじゃん。聖女様は勇者パーティーの一員として民衆に向けたプロパガンダのために『それっぽい』格好させられてるからね。もちろん普段の格好も素敵だけど、全体的に露出が皆無だからこそ色々と見えちゃってる格好もしてほしいんだよ!!」
「少しは下心を隠してくれませんか!?」
「で、まずはどれからにする?」
「本気、ですか?」
「付き合ってるんだから、これくらい普通だよ」
「本当に世のカップルにとってはこれが普通なのですか!? 嘘ではなくてですか!?」
「うんうん普通だよ貴族世界ではどうか知らないけど平民の間では普通だよそういうことにしようだからほらほら聖女様お着替えの時間だよっ!!」
「……、わかりました」
「本当っ!? やったやった何事も言ってみるもん──」
「ですが、わたくしだけが着替えるのは筋が通りません。アリスさんも着替えてもらいますから!! 魔女として『それらしい』格好をしているアリスさんも露出は少ないのですから!!」
「な、ん!? 私みたいな地味な女に何を求めてるわけ!? 見苦しいだけだよっ」
「そんなことありません。本当にアリスさんは自己評価がおかしいですよねっ。ですから、さあ、共に着替えましょう!! そもそも付き合っているならばこれくらい『普通』であればわたくしだけではなくアリスさんも着替えるべきですから!!」
「くうっ! こんなことなら聖女様だけが着替えないといけない嘘を考えるべきだったぁーっ!!」
「やはり嘘だったのですね」
「あ、やば」
「ふふふ嘘をついたアリスさんには相応の罰が必要ですねうふふふふ」
「まってまってちょっとまって聖女様ならばともかく私のような地味なのにそんな大胆な服は似合わないよおーっ!!」
たとえば、色々な服を着せあってみたり。
「魔法道具……。炎水風土の属性魔法や治癒魔法などを含めた身体強化の無属性魔法を加工済みの魔石に封じ込め、魔法が使えない者でも超常を出力できる道具。ですが、現状ではどうしても封じ込められる魔法の上限が低いがゆえに日常生活に役立てるならまだしも、魔獣に対する防衛手段としては心許ないです。魔法道具がもう少し発展すれば──」
「あ、それなら魔法道具に封じ込められる上限を十倍くらいアップできそうだったから図面を魔法省に送っておいたよ」
「…………、え?」
「まあ今の十倍でも下級の魔獣くらいしか倒せないし、魔法道具に魔法を込める魔法使いの数の問題もあるし、他にも色々と課題はあるから自慢するようなことでもないけど」
「あの、どう考えても凄いことだと思うのですけれど?」
「またまたーお世辞はいいってー。私は既存の技術を応用するのがうまい器用貧乏なだけだし。他人の成果におんぶに抱っこだぜ☆」
「…………、」
「ん? どうかした???」
「いいえ。……本気でそう言えるのがアリスさんですからね」
たとえば、色々なお店を回って買い物をしたり。
うん、これぞデートだよね。
いやあ、楽しかった。
思い出は十分にできた。
だから、いつでもいいんだよ?
嘘告だとネタバラシして、聖女様と付き合えて浮かれてるバカな私を踏み躙ってくれても、さ。
いつか必ず終わる。
そんなのわかってるから。
ーーー☆ーーー
嘘告だとネタバラシされることなく冒険は続いた。
色々あって世界を滅ぼす根源である魔王を倒すまで、ね。
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