第28話 最難関ダンジョンとは

 新潟駅周辺にあふれていたモンスター。その数、実に数千。

 それを相手に、彼女は一滴の汗も流さず殲滅して見せた。


 もちろんそれがダンジョンから追い出された世代だからというのもあるだろうが、それにしても途方もない強さである。時刻はまだ正午にも満たない。


 秋の陽光が照らす中、廃墟と化した新潟駅を一瞥しつつ彼女はダンジョンゲートへ向かって歩みを進める。


「レベルは100前後と言ったところでしょうか」


 その中からあふれ出す魔力の波動は、今まで遭遇したどのモンスターよりも強い。

 彼女ほどの強者であれば流れる魔力である程度のレベルは察することができるが、このダンジョンは平均100レベルと言ったところだろう。

 強くても120程度。ダンジョンボスであっても彼女の半分にも満たない。


 ずかずかと、何の警戒もなく白銀騎士シルバーナイトルリアは迷宮の入口へと入っていく。


 ゲートをくぐると、そこはまさに異世界だった。


 空は赤く、月は黒い。草木の一本も生えていない地獄のような荒地に、無数のハイオークとオーガたち。

 外にあふれていたものたちよりも圧倒的に強い。


「侵入者!」「侵入者だ!」「殺せ!」


 どうやら知能も高いらしく、ルリアを見つけたオーガが口々にそう叫ぶ。

 彼らは魔法の武具を虚空から生み出すと、一瞬にして彼女に肉薄する。


 装備のレベル。身体能力、その知能に魔力量。そして魔法操作。

 どれをとっても一流。外の雑兵とは一線を画する実力者たちだ。しかし……。


「それにはもう飽きました」


 攻撃方法はどれも単調。多少洗練されてはいるが、剣で切る、槍で突く、弓で射る、拳でたたきつける。どれも、この程度のレベルのモンスターでは彼女に通用しない攻撃ばかりだった。


 刹那のうちにルリアは双剣で斬撃を放ち、50を超えるオーガを一瞬で切り伏せる。


 オーガやハイオークたちはこれに動揺し、一瞬その脚を止めた。しかし……。


「怯むな! 【フィジカルエンチャント】!!」


 奥の方からオーガの魔術師がそう叫ぶと、最前列の戦士たちの動きが突然素早くなる。


(この群れを統率する指揮官か、もしくは魔法専門職がいる……めんどうな)


 ハイオークが多少力を付けたところで、レベル差は3倍以上もある。

 ルリアの攻勢は一切衰えることなく、むしろその魔術師へ向かって一直線に進んでいく。


「ぐっ! なんという強さだ! 【マキシマムエクスプロージョン】!!」


 瞬間、超特大の爆裂魔法がルリアに向かって放たれる。

 それは多くのオーガやハイオークを巻き込むこととなったが、ルリアを倒すためならばそれすらもいとわないのだろう。


 その炎熱は怜奈の放つそれよりも遥かに強く、一瞬にして周囲の物体を蒸発させ、その熱量で持ってあらゆるものを消滅させていく。


 しかし……。


「私の魔法耐性は、この程度では突破できません」


 白銀騎士シルバーナイトであるルリアにはまったく通用しなかった。

 一瞬のうちに、オーガの魔術師はその首を跳ね飛ばされる。


(まったく、多対一はあまり得意ではないというのに)


 そう、彼女は一騎打ちや超遠距離戦闘でこそその強さを発揮するが、範囲攻撃魔法や全体へのデバフ攻撃の類は持っていないのだ。

 必然、これだけの物量を相手にするのは得意ではないのだが。


「ちくしょう、強すぎる!」「ありえん、我が軍勢がこうも簡単に!?」「このォ!」


 圧倒的なレベル差は覆しがたい。ダンジョン内すべてを埋め尽くすほどの軍勢だったオーガとハイオークの群れは一瞬にして瓦解していく。


「あなたがこのエリアのボスですね。それじゃ、さようなら」


 斬ッ! と一撃。

 本来であれば人類が絶対に攻略不可能とされた新潟駅ダンジョン第一階層、ハイオークとオーガのエリアを、白銀の乙女ルリアは瞬く間に踏破してみせた。

 ……所要時間、4分と言ったところだろうか。


 彼女はモンスターたちの死骸を一瞥することもなく、次の階層へ向かって歩みを進める。

 おそらく、このダンジョンは20階層以上はあるだろう。早く攻略を進めなければ、怜奈がビートルダンジョンを攻略する方が先になってしまう。


 荒廃した赤い荒地を進んでいくと、次の階層へ続くゲートが開かれていた。

 そのゲートをくぐると……。


「はぁ、またですか」


 落胆したような声音で、ルリアはそう呟く。

 赤い夜空に無数に舞うのは、ゲートの外にもいたレッサーワイバーンと、その上位種であるワイバーンの群れだった。


 だが、正直なところ彼女にとってはワイバーンもレッサーワイバーンも同じだ。

 ただ大きさが少し違うだけ。強さの違いもさしてわからない。


 ルリアは腰から強弓を取り出すと、魔法の矢を生成する。

 弦を引き絞りそれを放つと、矢は無数に分かれ数百の弾丸となって降り注ぐ。


 一撃でもワイバーンを撃墜する威力を秘めた魔法の矢は、次々と彼らに突き刺さり絶命させていく。


 反応が良く空中でくるりと回避しルリアに迫るものもいたが、それは彼女のスキルが許さない。

 通常スキル、必中だ。彼女のもつそれは、たとえ回避したとしても投擲物の軌道を変え敵に必ず命中させる。


 ワイバーンの背から迫るそれは確実に飛竜の心臓を貫き、全身を粉砕しながら頭部より現れ出でた。


 距離をとるのは不利だと判断したワイバーンたちは、一直線にルリアへと向かって空中を駆ける。


 その間もルリアは飛竜を次々と撃墜していくが、さすがに彼らの数の方が多い。

 6mを超える巨体がついにルリアの眼前まで接近し、その爪撃を放つ。


 ワイバーンの爪撃は魔力のこもった必断の一撃だ。空中から落下してきたことによる運動エネルギーも篭ったそれを、しかしルリアはいともたやすく回避して見せる。


 そして追撃の隙を与えず、手に持ったその強弓でワイバーンの首を殴打した。

 たった一撃で、頑強なワイバーンはその皮膚を貫かれ脊椎をへし折られる。


 ピクリとも動かなくなった飛竜を一瞥することもなく、今度はルリアが双剣から不可視の斬撃を放つ。


 刀身から放たれる魔力の波動は、飛竜たちに感知させることすらなくその首を切り飛ばして見せた。


 だが、ダンジョン内の精強な飛竜たちはこの程度では怯みもしない。

 いくら仲間が殺されようと、実力差がはっきりしていようと、ダンジョンに侵入してきた部外者を排除することにその全霊を使いつくす。それこそがダンジョンに生まれたモンスターの性だ。


 ある種狂気的なそれによって突き動かされたワイバーンたちは、ある者は決死の咬合を放ち、ある者は魔法の刃を発生させ、またある者は突風で持ってルリアの姿勢を崩さんとする。


 しかし、そのどれもが通用しなかった。

 彼女の実力はただただ圧倒的で、無慈悲で、冷酷で残忍であった。


 彼らの奮闘もむなしく、結末は外のワイバーンたちとまったく変わらない。

 圧倒的な暴威そのものであるルリアは、みるみるうちにワイバーンの群れすら蹴散らして見せた。


 次なる階層にはいったい何秒かかるのか。どんなモンスターが出るかなどもはや気にもしていない。

 ここは破壊するだけのダンジョンで、マスターに献上するためだけに存在するのだ。


 ならば、このダンジョンを攻略するために労する一分一秒すら惜しい。

 たった一秒でも早く自身の主にこの地を献上するため、彼女は疾駆する。


 赤い夜空に、白銀の閃光が駆け抜けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る