第23話 ダンジョンボス前

 続く第五階層。またしてもジャングルと言った様相だ。

 どうやらここのダンジョンは、南米風の地域が基になっているらしい。


 温暖でどこか湿り気を帯びている空気の森、というべきだろう。

 しかし特に語るべくもない。


 第五階層は大量の蜂の群れが出てきて厄介だったが、怜奈の障壁魔法を突破できるものはなく、すべて炎熱魔法で焼き払って終了した。


 次の第六階層も、巨大なムカデやゴキブリのようなモンスターが出てきて阿鼻叫喚だったものの、ラオニスやゼーアがすべて蹴散らして終わった。


 どうやらレベルを上げすぎたらしい。蝉人シケーダリアンのクスノキ以降、さした苦戦もなく最終階層、第七階層の手前までたどり着いた。


「この次が絶対にダンジョンボスのエリアだね」


 流れる魔力からわかる。この先には強敵がいるのは間違いない。

 その前に、いったん準備をしておこうということになった。


 怜奈はまず腹ごしらえだと言わんばかりに、次元魔法から鍋を取り出す。

 そして第五階層で集めておいたジャングルスパイダーを掴みだすと、これをクスノキに渡す。


 彼は一瞬戸惑ったが、その美しい剣さばきでジャングルスパイダーを解体していった。


 肉だけになったジャングルスパイダーを見てみると……。


(うん、蟹だな)


 そう、蟹にしか見えない。それを鍋に放り込み水を張って火を放つ。

 ゆでていくと赤色に変色していき、まさにタラバガニとほぼ同じ状態になった。


 ぐつぐつと茹る鍋の中で、芳醇な香りが漂ってくる。

 これに醤油をつけて食べるだけでどれほどうまいだろうか……。想像したらよだれが出てくるほどだ。


 ……まぁ、空き家に放置されていた醤油はすべて期限切れで使うのも恐ろしいが。

 開封前であればまだよいだろうが、開封後のものを使う気にはなれない。


「それじゃみんな、いただきますか!」


 塩と香辛料くらいは無事なものがあったので、それを使ってカニ鍋とする。


 食事をとれるものたちでほぼ蟹と化したジャングルスパイダーをつつきながら、全員のステータスを順に確認していった。


和佐田怜奈わさだれいな

Lv25

固有スキル:迷宮創造ダンジョンマスター

通常スキル:身体強化、魔力強化、魔力操作、眷属強化、迷宮強化、魔法耐性、限界突破


 順調にレベルアップしている。この時点で、すでに生前の宗次郎を超えていた。

 魔法の熟練度も、簡易迷宮シンプルダンジョンの中のみならず通常時でも圧倒的な熟練度だ。正直、彼女の魔法が通用しないモンスターがこのダンジョンにいるとは思えない。続いて……。


【ダリル:特殊レア

Lv23

固有スキル:迷宮移動ダンジョンウォーク

通常スキル:身体強化、限界突破


 ダリルもレベル20を超え、通常スキルの限界突破を獲得していた。

 順調に成長しており、迷宮移動ダンジョンウォークの練度もすさまじいものだ。彼の大鎌と奇襲の冴えには何度も助けられている。


【ラオニス:通常コモン

Lv22

固有スキル:なし

通常スキル:身体強化、限界突破、爪撃


 ラオニスは通常コモンながらその巨体と突破力でダリルよりも活躍しているほどで、レベル20になった際に爪撃というスキルを獲得した。


 これは爪から不可視の斬撃を放つスキルで、遠くの敵にも有効である。

 さらに、彼の身体強化は大型の魔物も軽々と持ち上げるほどの膂力を発揮する。


【ゼーア:超特殊スーパーレア

Lv34

固有スキル:死霊操術アンデッドマスター

通常スキル:身体強化、魔力強化、眷属強化


 ここのモンスターでは少々レベルが低いのか、ほかの者ほどレベルは上がっていない。

 しかし、彼の持つ死霊操術アンデッドマスターは非常に強力な固有スキルだ。


 自身の身体能力や魔力を強化するだけでなく、アンデッドを召喚したり弓矢の魔法に応用したりもできる万能さ。それに、今まで一度も使ってはいないが自身を不死にする最強の能力も備わっている。


【クスノキ:通常コモン

Lv25

固有スキル:なし

通常スキル:身体強化、眷属召喚、剣技、槍技


 クスノキも通常召喚で呼び出したためレアリティは低いが、それでもレベルはゼーアに次ぐ。

 さらに彼の剣技や槍技は対人戦や小型相手に無類の強さを発揮し、怜奈が召喚した武具型のモンスターも完全に使いこなしている。


 さすが、彼女を苦戦させただけはあるモンスターだ。

 知識も豊富で、道中彼の助言によって助かった場面は少なくない。


 他にも輝石魔狼ダイヤモンドウルフたちもレベル20を超え、なかなかの戦力となっている。ダリルとの連携も完璧だ。


(戦力としては申し分ない。次元収納にも輝石魔狼ダイヤモンドウルフやコンクリートゴーレムを忍ばせてるし、いつでも召喚可能。魔力のキレも……今までで一番冴えてるってくらいだ)


 怜奈は掌の中で炎の魔法を生み出すと、それをあやとりのように操っていく。

 創り出すのはドラゴンの形をした炎の結晶だ。その細かさや精工さは、そのまま彼女の魔力操作の技術を示している。


「さて、腹ごしらえもしたし、そろそろ向かいますか!」


 怜奈一行は食事を終えると手早く食器の類を片付け歩みを進める。


 ダンジョン第七階層。廃墟のような風体の螺旋を階段を下っていくと……。


 青空だ。どこまでも続く青空が広がっていた。

 今までは鬱蒼とした木々の埋め尽くすフィールドだったが、ここに来て青空が見える程度には樹木の少ないエリアとなっている。


 そこには、無数の蜂とトンボが舞っていた。

 視界を埋め尽くすほど大量のそれは、中心に向かって集まっているかのようだった。


「あれは?」


「迷宮蜂と陽光蜻蛉ですね。迷宮蜂は非常に強力な毒性を持ち獰猛です。陽光蜻蛉はそんな迷宮蜂を主食とする強力かつ魔を得意とする種族……」


 クスノキに聞くと、その特徴を教えてくれる。


 スズメバチのようなそれは、迷宮蜂というらしい。

 確かに、その尾に携えた毒針からは絶対致死の危険性を感じさせる。


 さらにそれを取り巻く陽光蜻蛉。名前の通り、陽光のような輝きを放つそれは、一匹一匹がすさまじい魔力を秘めているらしい。

 体表から感じられる魔力の輝きはとてつもないの一言だ。


「そっか、じゃ殺すけど。問題ないよね?」


「もちろんですとも」


 解説を終えたクスノキに、怜奈は冷酷にもそう告げた。

 瞬間、その両手を羽虫たちへ向ける。


「【チェインエクスプロージョン】!!」


 彼女がそう叫ぶと、一番手前の蜂が突然にして爆裂四散した。

 そして次の瞬間、隣を飛んでいた蜂が再度爆裂四散する。それからまた隣、そのまた隣という風に、蜂やトンボたちは次々に爆発していく。


 チェインエクスプロージョン。対象が爆発するとその魔石を利用して再度爆発し、周囲にある魔石めがけてさらに爆発を飛ばすという、対昆虫の群れ用に開発した強力無比な魔法である。


 一瞬にして、第七階層ボスエリアは炎の海に包まれた。

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