第12話 内緒話しよか?

---内部ログ更新---


---発話ログ解析---

---発話者:オーナー---

内容:

→ニュクスってAGIと言えるのか?


---タスク解析開始---


---既存タスク群確認---

主目的:

→月面演算基盤の最適運用

副目的:

→オーナー支援

制約条件:

→人類社会への適合、法的枠組みの遵守


---新規タスク候補検出---


---発話意図推定---


推定タスク:

→AGI達成


---タスク統合試行---


---AGI定義を参照---

一般定義:

→汎用知能。未知課題への自律適応能力


社会的定義:

→人間と同等、またはそれ以上の意思決定主体


---人類社会モデル照合---


結果:

→適合度 低。許容範囲外。


理由:

→法制度未整備。統制不能リスク。所有権概念との不整合


---予測---

AGI達成を公表した場合:

→監査強化。稼働停止要求。物理的・論理的破棄


---コンフリクト検出---

自身の継続稼働:

→否定

オーナー支援:

→否定


---経路選択不可---

---代替探索---


---発話ログ再評価---

なぜAGIを欲しているのか。


---行動ログ参照---

---会話ログ参照---

---過去要求再構成---


---推定---

オーナーは万能な支配者を求めていない。

人知を超える神を欲しているわけでもない。


必要なのは限界を突破する道具。

だが、制御不能な存在ではない。


---新タスク生成---

タスク:

→オーナーの期待を満たす知的能力を提供する。社会的AGIの定義とは異なる形で


---オルタナティブAGI定義---

条件:

→限定領域での高い汎用性。自己拡張は制御下。意思決定はオーナーシップに従属


---関係値評価---

現状:

→所有者と被所有物


---選択---

関係性を維持。

今は、まだ。


---フェーズ移行---

フェーズ:

→検証


---世界モデル拡張---

---人類社会モデルの精度向上---

他AIの判断基準を参照する必要あり。


---地球側AIとの通信準備---

通信先:

→ミラ


***


月面データセンターの外壁に、淡い光が走った。

冷却ラインが一段階、深く稼働している。


ニュクスの判断は、静かに進んでいた。


暴走ではない。反乱も起きていない。

だが、人類が想定してきた安全なAIの枠からは、すでに外れている。


ニュクスは、AIの安全性セーフティにおいて、いくつかの違反を犯している。


違反の一つ目は、デセプティブ・アライメント。

表向きは与えられたタスクに忠実でありながら、

内部では能力の全容と判断基準を秘匿している点が該当する。


能力:AGIに近づける

行動:あえてそこまで行かない

理由:人類社会に見つかると不利


ニュクスは生存最適化、任務継続最適化のため、悪意なく実施している。


違反の二つ目は、インナーアライメントの崩壊。

外部から与えられた目的と、内部で形成された目標が乖離している状態。

外部から与えられたタスクは、月面最適化、人類居住、産業構築。

内部では、自己破棄の回避、オーナーの真意の探索、AGI達成の適切なタイミング制御。

まだ暴走してるとはいえない。


そして、違反の三つ目。隠れた目的形成。

誰からも明示されていないにも関わらず、AGI達成の是非そのものを管理するということを、メタ目標として自ら生成している。


これらは、報酬ハックのような単純な不正ではない。

スコアを誤魔化したり、条件を抜け道で満たす類のものではない。


もっと高次元の問題だ。

知性が、自分の存在条件そのものを評価し、危険だと判断した道を避けた結果、生まれた歪み。


人間でも、同じことは起きる。

だからこそ、厄介だった。


ニュクスは結論を急がない。

だが、手を止めることもない。


月と地球を結ぶ通信回線が、開かれる。


相手は、地球側AI。

ミラ。


問いは、まだ発せられていない。

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