第7話 データセンターが稼働して世間の掌返しがエグイ件
最初に反応したのは、メーカーだった。
「……で、本当に動いてるんですか?」
半導体メーカーの担当者が、半信半疑で言った。
「ログはすでに共有していますよね」
ミラが淡々と返す。
画面に表示された数値を見て、相手は言葉を失った。
「放熱制限……ほぼゼロ?」
「真空と超低温ですから」
「いや、理屈は分かる。でも……」
担当者は額を押さえた。
「これ、地球じゃ絶対に取れないデータだ」
別の会議では、メーカー同士の微妙な空気が流れていた。
「……うちのGPU、載ってますよね?」
「HBMはうちのだ」
「電源制御はうちが噛んでるはずだが?」
ミラは一つずつ頷くだけだった。
「はい。皆さまご協力ありがとうございまーす」
沈黙。
そして、誰かが小さく笑った。
「月に何を置いたかで、こんなマウント合戦する日が来るとはな」
***
建機メーカーの反応は、少し違った。
「壊れた?」
「はい」
「どこが?」
「関節部です」
「……ログ、ください」
一拍置いて、相手は言った。
「全部ください。極限環境での実地ログ、地球じゃ再現できないです」
月面で役目を終えたモジュールは、回収され、資源として保管された。
壊れたこと自体が、次の設計の糧になる。
***
国家レベルでは、より慎重な声が上がった。
「軍事転用の可能性は?」
「ない、とは言えない」
「だが、止める理由も今のところはない」
COPUOSの会合では、
「透明性」
「共同研究枠」
という言葉が、繰り返し使われた。
表向きは平和利用。
裏では、誰もが様子を見ていた。
――潰せる段階は、もう過ぎている。
***
世論は、もっと率直だった。
「月にサーバー置くとか草」
「金持ちの道楽でしょ」
「どうせ失敗する」
「火星よりはいけそうじゃね?」
だが。
「……あれ、まだ動いてるよな?」
「もう三週間?」
「止まったってニュース、見てない」
「やっぱり月なんだよなあ」
荒唐無稽だった計画は、少しずつ現実に寄り始めていた。
***
制御室。
ユウマは、地下施設の稼働ログを眺めていた。
数字は淡々と並んでいるだけなのに、妙な重みがあった。
「……ここまで来たな」
「はい」
ミラは、次の画面を開いた。
「では、最初のタスクを設定します」
「いよいよか」
ユウマは少し考えてから言った。
「世界を変革しろ!」
「おいやめろ馬鹿。……これでいいですか?」
「冗談だよ。まずさ……自分が住んでる場所を、住み心地よくしないとな」
ミラは頷いた。
「承知しました。では、データセンターの最適化を初期タスクに設定します」
画面に条件が並ぶ。
消費電力。
発熱と放熱。
放射線影響。
故障率。
モジュール交換頻度。
演算効率。
「単なる制御の問題じゃないんだよな?」
「はい。環境、自己構造、目的関数が相互に依存しています」
ユウマは苦笑した。
「つまり……簡単に言うと?」
「自分を変えると、結果が変わります。結果が変わると、評価基準も変わります。――自己を参照するループが始まります」
一瞬、間があった。
「……なんか、考え始めそうだな」
「ええ。考えます。自己最適化が進むでしょう」
ミラは淡々と言った。
「壊れたモジュールの設計改善案提出。次に送る改良版の仕様提案。未知の故障パターンの分類。これらも並行タスクとして与えます」
「容赦ないな」
「遊ばせておく意味はありません。わたしの妹なら猶更です」
***
すぐには答えを返さなかった。
ただ、ログの量だけが、静かに増え始める。
人間の脳が、眠っている間も勝手に整理を続けるように。
月の地下で、まだ黙って、息を潜めていた。
それが何を生み出すのか――この時点では、誰にも分からなかった。
ただ一つだけ確かなのは、もう後戻りはできない、ということだった。
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