終点まで寝過ごしたバスで100パーセントの女の子に出会うことについて

@eNu_318_

目覚め

 微かに揺れる振動と、乾いたエンジンの停止音が、僕の薄い眠りを破った。

 重い瞼をこじ開けると、視界はまだぼやけ、自分がどこにいるのかすぐに理解できなかった。窓ガラスに映った自分の顔の跡の冷たい感触と、首の嫌な角度だけが現実だった。

「あの、終点ですよ」

 その声は、驚くほど近く、そして驚くほど澄んでいた。まるで早春の雪解け水が音を立てずに流れ出すような、静かで、それでいて芯のある音色。

 慌てて顔を上げると、僕の隣、通路を挟んだ席に、一人の女の子が座っていた。冬の制服、紺のブレザーはシワ一つなく、膝の上に綺麗に畳まれた濃いグレーのスカート。彼女は窓の外をぼんやりと見つめている。横顔に反射する光が、まつげの先を銀色に縁取っていた。

 僕が彼女を見て固まっていると、彼女はゆっくりと僕の方を向いた。整いすぎているくらい整った顔立ちで、少し疲れたような、しかしどこか諦念を含んだ大きな瞳が、僕を射抜く。

「もう、みんな降りちゃいました。運転手さんも休憩に入るみたいで」

 ああ、そうか。僕は寝過ごしたのだ。いつものバスで、いつもの席で、いつものようにうとうとして、気づけば終点。車内には僕たちの他には誰もいない。薄暗いバス停のロータリーに、一台の路線バスだけがポツンと停車している。時計を確認すると、夜の帳がすっかり降りた午後八時を過ぎていた。

「わ、すみません。完全に寝てました」

 僕は慌てて立ち上がり、よろめきながら荷物を掴んだ。その時、バスの扉が開く音と共に、運転手が降りていくのが見えた。

「私も、です。気づいたら、この景色でした」

 彼女はそう言って、少し自嘲気味に口元を緩めた。その微笑みは一瞬で消えたが、僕の心臓は一拍、不規則なリズムを刻んだ。

 終点のバス停は、閑散としていた。名前も知らない、郊外の、何もない場所。街灯の光が、湿ったアスファルトに反射して滲んでいる。

「次のバス、いつですかね」

 僕がポケットからスマホを取り出すと、彼女もまたバッグからスマホを取り出した。

「たぶん、三十分後くらい……ですかね。本当に、何もないところですね」

 時刻表アプリが示す次発の時刻は、約三十分後。この時間帯、本数は極端に少ない。吐き出す息が白く、冬の冷たい空気が肌を刺す。この場に二人きり。しかも、同じバスで終点まで寝過ごすという、共通の、そして少し滑稽な体験を共有している。

 気まずい沈黙が、重い毛布のように二人を包み込んだ。僕は足を組み替える。彼女はバッグのストラップを握りしめている。

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