第3話:「雑草だと思ったので」スコップを一振りしたら、王国の最強騎士団が半壊した「雑草だと思ったので」スコップを一振りしたら、王国の最強騎士団が半壊した

「おやおや、カイザー君。手こずっているようですねぇ」


 ヌメッとした声と共に現れたのは、高級そうな法衣に身を包んだ肥満体の男だった。

 指には宝石のついた指輪をジャラジャラとつけ、脂ぎった顔で俺を見下している。


「財務大臣のドルグ様……ッ!?」


 腰を抜かしたカイザーが悲鳴のような声を上げる。

 ドルグと呼ばれた男は、ハンカチで額の汗を拭いながら、不愉快そうに鼻を鳴らした。


「たかが農民一人に何を怯えているのです。近衛騎士団も連れてきたのですよ? さあ、さっさとその不敬な男を捕らえ、宝を没収しなさい」


 ドルグの背後から、ガチャガチャと音を立てて、数十人の完全武装した騎士たちが現れた。

 彼らは一様に殺気立っており、手には槍や魔法の杖が握られている。


「あ、あの、ドルグ様! やめたほうがいいです! こいつはヤバい! そのスコップはただの農具じゃ……」


「ええい、黙りなさい敗北者! S級の名折れですぞ!」


 ドルグはカイザーを蹴り飛ばすと、騎士たちに命令を下した。


「やれ! 抵抗するなら殺しても構わん! その後で、この汚らしい道の駅ごと焼き払ってしまえ!」


「はっ!!」


 騎士たちが一斉に詠唱を始める。

 直売所の中に、真っ赤な魔法陣がいくつも展開された。


『燃え盛れ、紅蓮の炎よ!』

『穿て、爆炎の槍!』


 四方八方から放たれたのは、軍事用の上級火炎魔法だった。

 一般人なら骨も残らない火力が、俺――と、俺の大事な野菜たちに殺到する。


「……あーあ」


 俺はため息をついた。

 畑仕事において、「害虫」や「悪天候」への対策は必須スキルだ。

 特に、作物を傷つけようとする外敵に対しては、迅速かつ適切に対処しなければならない。


「直売所で火遊びは危ないだろ」


 俺は手に持ったスコップ(神話級:ヒヒイロカネ製)を、ハエ叩きのように軽く横に薙いだ。


 ――ブンッ。


 ただ、それだけだ。

 魔力も込めていない、ただの素振り。

 しかし、毎日ドラゴンすら一撃で埋葬する硬い土を耕し続けた俺の筋力と、このスコップの性能が合わさった時、それは「自然災害」へと昇華する。


 ドォォォォォォォォォォン!!


 スコップが空気を切り裂いた瞬間、暴風が発生した。

 いや、暴風なんて生易しいものではない。

 局地的な衝撃波(ソニックブーム)だ。


 迫りくる数十発の火炎魔法は、一瞬でかき消された。

 それどころか、衝撃波はそのまま騎士団とドルグを直撃する。


「は……? ぎゃあああああああああッ!?」


 鎧が紙くずのようにひしゃげ、騎士たちがボウリングのピンのように吹き飛んでいく。

 道の駅の自動ドア(強化ガラス)が粉砕し、彼らはそのまま遥か彼方の空へときりもみ回転しながら射出された。


 キラーン。

 空の彼方で、星がいくつか光った気がする。


「……あ」


 俺はスコップを止めて、静まり返った直売所を見渡した。

 目の前にいたはずの太ったおじさんと騎士団が、綺麗さっぱり消えている。

 残っているのは、壁際にへばりついてガタガタ震えているカイザーと、口をあんぐりと開けた一般客だけだ。


「やっべ、ちょっと強く振りすぎたか? 最近、裏山の土が硬いから力が入りすぎちゃうんだよな」


 俺は「てへっ」と頭をかく。

 そして、唯一残っているカイザーの方へ歩み寄った。


「ヒッ……! く、来るな! 命だけは! 命だけは助けてくれぇぇぇ!!」


 カイザーは涙と鼻水を流しながら土下座をした。

 さっきまでの威勢はどこへやら、完全に縮み上がっている。


「いや、助けるも何も……。お客さんですよね?」


「へ?」


「ジャガイモ、買うんですか? 買わないんですか?」


 俺がにっこりと営業スマイルを向けると、カイザーは白目を剥きかけながら、懐から震える手で財布を取り出した。


「か、買いますぅぅぅぅ!! あるだけ全部!! 言い値で買わせていただきますぅぅぅ!!」


「毎度あり! いやー、都会の人は気前がいいなぁ」


 俺はホクホク顔で、真っ黒な『重力星核(グラビティ・ポテト)』をビニール袋に詰めて渡してやった。

 カイザーはその重さに腕を脱臼しそうになりながらも、「ありがとうございます、ありがとうございます……!」と泣きながら受け取っている。


 こうして、俺の直売所デビューは(多少のトラブルはあったものの)大成功に終わった。

 後日、なぜか道の駅の店長が「あなた様専用の特別ブースを作らせてください!」と泣きついてきたり、国から「最高栄誉騎士勲章」が送られてきたりしたが、それはまた別の話である。


 俺は今日も、平和に実家の裏山(ラストダンジョン)を耕し続ける。


「さて、次はニンジン(マンドラゴラ)でも植えるかな!」


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

あとがき

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