16話 紅黒の連携(れんけい)
夜気を切り裂くように、葎は廃工場の中央へ踏み込んだ。
そこに立っていたのは、黒蓮会の精鋭──
〈朱の追跡者〉と〈黒蓮の刃〉。
二人は対照的な装束をまとい、まるで影と炎が並んで立っているようだった。
「……来たね、黒耀の子(こ)。」
赤い仮面をつけた〈朱の追跡者〉が、かすれた声で笑う。
「指名手配二人相手に、よくひとりで来たな」
対して〈黒蓮の刃〉は淡々と双剣を抜いた。
葎は深く息を吸い、足裏に力を込める。
(時間を稼げば良い……夜叉丸の動きも、御影の状態もまだ読めない。ここで倒れてる場合じゃない)
次の瞬間、葎の身体が霞のように消えた。
◆一瞬で踏み込む──最初の優勢
葎の初撃は速かった。
〈朱の追跡者〉の背後へ瞬歩のように回り込み、拳を叩き込む。
赤い仮面が弾け飛び、男がよろめく。
すかさず、〈黒蓮の刃〉へ回し蹴りを叩き込み──双剣を弾く。
金属音が跳ね、黒い剣が宙を回転して地面へ転がった。
「ちっ……!こいつ、速すぎる」
「葎、成長したな。前より“重さ”がある」
葎は攻め続ける。
肘、膝、掌底、蹴り。
まるで戦場で磨き上げられた獣のように、迷いのない動きだった。
(いける……! この二人なら、押し切れる――)
だが、そこまでだった。
◆反撃──二人の“連携”が牙をむく
〈朱の追跡者〉が仮面の下で息を吐く。
「……やるじゃん。“では、始めようか”」
合図と同時に、空気が変わった。
〈黒蓮の刃〉は双剣を拾うことすらせず、影のように横へ滑り込む。
その動きに、〈朱の追跡者〉が一拍遅れて重なる。
二人の間に、不可視の“リズム”が生まれるのが葎にも分かった。
「やば……」
黒蓮会の暗部連携──
互いの動きが“穴”を完全に埋めるように重なり、攻撃が途切れない。
〈朱の追跡者〉の体術は蛇のようにしなやかで、
〈黒蓮の刃〉の剣撃は機械のように正確。
葎が一撃避けても、すぐに別方向から刃が迫る。
蹴りを出しても、もう一人に腕を掴まれ反撃できない。
攻撃が重なるたびに、身体のどこかを削られる。
(……この二人、強すぎる……!
いや、単体ならまだしも──連携が、“崩せない”……)
葎の呼吸が荒くなる。
足が重く感じる。
視界の端が滲む。
追い詰められていくのが自分でも分かった。
そして──
「捕捉完了」
「終わらせるよ、黒耀の子」
二人が同時に構えた瞬間、
葎は壁へ追い込まれ、完全に逃げ道を失っていた。
◆窮地──迫る刃と、胸の鼓動
〈黒蓮の刃〉の双剣が、葎の喉元を狙う。
〈朱の追跡者〉の腕が、首を締め上げに来る。
(まずい……避けられない……!)
葎の心臓が苦しいほど跳ねた。
視界が揺れる。
自分の鼓動だけが、世界の中心で響いているように感じる。
――その時、胸の奥が、光った。
微かに。
けれど確かに。
何かが“目を覚まそうとしている”。
(また……これ……
この感覚……!)
葎は無意識に拳を握りしめた。
だが、“覚醒”はまだ始まったばかりで、
この窮地を脱するには程遠い。
二人の殺気が、目前に迫る。
葎はもう、逃げられない。
次の瞬間が――死か、生か。
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