第8話 消えた豪邸

純也と一緒に食事をすることが、これほど安心感があることだったとは思わなかった。


叶恵「ねぇ、純也。あなたが1週間、実家にいた間に、私、何をしていたと思う?」


純也「さぁ、友達と出かけていたんじゃないの?」


叶恵「ううん。なんかね、変なおばあさんがアパートの前にいて、その人は隣の豪邸に住んでいるおばあさんでね。邪気を払うとか何とか言ってその豪邸に居たんだよ。」


純也「邪気?」


叶恵「うん。結局、私にも何かよく分からなかったんだけど、邪気が言霊に乗り移るとか何とかで、なんか大変なことになっていたの。」


純也「ハハハ。そうなんだ。でも、夢でも見ていたんだよ。」


叶恵「夢じゃないと思うよ。だって私、ここ数日の記憶がそれしかなくって。あなたが帰宅したのは、見たがっていた番組からちょうど一週間後だもの。」


純也「でもさ、アパートの隣の敷地、ずっと空き地だよ。豪邸なんか最初から建ってないよ。」


叶恵「嘘!そんなはずない!ちょっと来て!」


純也を連れて、急いで豪邸の建っていた場所へ向かった。


叶恵「そんな…。」


純也「ほら、何にも建っていないじゃないか。」


そんなはずない。じゃあ、私が経験していたことは全て夢だったというの?もう訳が分からない。


純也「叶恵、もういいじゃないか。君がこの一週間何をしていたかよりも、大切なのはこれからだ。二人で力を合わせて頑張っていこうよ。」


そうだ、もう終わった話なんだ。


夢だったか、現実だったかはもうどうでも良いことだ。純也も変わってくれたし、それで全て報われた。あれは夢だったんだ…きっと。

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