エピソード 2ー8

 ヴェルターラインの魔装部隊。

 ガチャキャラを中心に編成された部隊はいま、評議会の治安維持部隊と合流するべく、アーク=ノードの第五環――塀の外にある再開発地区に向かっている。


 余談だが、先日レーネと訪れたのがこの第五環である。旧文明都市遺跡、その外周に現代の貧困層の人々が暮らしているのだ。

 そこへと向かう道の途中、不意にリーシアが表情を険しくした。


「マスター、治安維持部隊がアスペリアの先兵と交戦中です。距離はここから一キロほど先の荒野だそうですが、どうしますか?」

「アスペリアか……」


 アスペリアというのは新章PVに登場した、ヴァネッサの所属する組織だ。

 それまでにも何度も登場している組織で、MAHS患者だけで構成された反政府組織。端的に言ってしまえば、自分たちを排斥した人々を怨んでいる者達で構成されている。

 ヴェルターラインとは敵対するほどではないが、相容れない存在となっている。


 そんな彼らだから、治安維持部隊と交戦すること自体は不思議じゃない。問題なのは、このタイミングでそれが起こったのが偶然か否かである。


 ……いや、メタなことを言えば、無関係ではないはずだ。

 今回の作戦が期間限定イベントだったとしたら、何事もなく終わるはずがない。なんらかの敵対者が現れ、戦闘を繰り返すことになる。

 その相手がアスペリアである可能性は高い。


 彼らは排斥されたMAHS患者であり、決して俺達の敵ではない。それに、ヴァネッサがアマリリスを託してくれたことからも分かるように、悪と切り捨てることはできない。

 そんな彼らと戦いたくはないが、治安維持部隊を襲っているのなら放ってはおけない。


「すぐに救援に向かう。出来るだけ派手に、な」


 敵の援軍に気付いたアスペリアが撤退してくれるように。そんな俺の思惑に気付いたのだろう。リーシアは「了解しました」と少しだけ嬉しそうに頷いた。

 直後、リーシアの指示で全車両が加速して、治安維持部隊とアスペリアの交戦地へと向かう。


「マスター、先行する部隊が治安維持部隊を目視したそうです」


 後部コンパートメントで、向かいのベンチに座るリーシアがコネクトレインを通じて得た情報を伝えてくれる。俺は即座に「アスペリアの部隊はどうだ?」と問い掛けた。


 正直、これが期間限定イベントだとしたら戦闘は避けられないだろう。そう思っていたのだけれど、返ってきたのは「アスペリアの部隊は撤退したそうです」という答えだった。


「……そうか、交戦は避けられたか」

「いえ、彼らは魔法生物を治安維持部隊に押しつけたようです」

「ちっ、そういうことか! リーシア、すぐに援護を」

「了解――第二から第五班はそのまま救援に向かってください。第六は周囲の警戒。第一は――ここで停止。屋根の上から狙撃します!」


 言うが早いか、乗っている車両が急停止した。直後、リーシアは後部の扉を開け、その屋根の縁に手を掛けて、クルリと屋根の上へと飛び乗った。

 俺も同じようにしてリーシアの後に続く。

 治安維持部隊と魔法生物の戦闘区域までおよそ100メートル。


 既に味方が駆けつけ、治安維持部隊と共に魔法生物との戦闘を開始している。

 味方は善戦しているが、魔法生物の中にひときわでかいボス個体が確認できた。他の魔法生物には互角以上の戦いを繰り広げているが、そのボス個体には苦戦を強いられているようだ。

 俺は先行している部隊のレーネにコネクトレインを繋げた。


『――レーネ、二時の方向にボス個体、見えるか』

『確認は出来たけど、周囲に敵が多くて届かないのよ!』


 コネクトレインで問い掛ければ、接敵したレーネが周囲の敵を蹴散らしながら答える。


『分かった。ボス個体はこっちでなんとかする』

『頼んだのよ!』


 そのやり取りを経て「リーシア」と呼びかけた。車両の屋根の上に立っていたリーシアはスカートをはためかせながら、腕に装着されたリストレインに触れる。


「はい、マスター。――リストレイン、制限解除」


 リストレインの制御を解除した瞬間、リーシアの魔力が増大して周囲に衝撃波が走る。それを予想していた俺は微動だにせず衝撃波を受け流す。

 直後、リーシアの周囲に赤い魔力が広がり、彼女の瞳が赤く染まった。彼女は続けて、胸元で輝くネックレスに触れ、台座の上に輝く魔石に魔力を流し込んだ。


「続けて魔装緋響(ヒビキ)展開」


 MAHS患者が生み出す膨大な魔力がネックレスの魔石に注ぎ込まれる。魔石が強い輝きを放ち、台座を通って魔装に刻まれた魔術改良に魔力が流れ込む。

 彼女の魔装に光る魔術回路が浮かび上がった。


 刹那、魔装から生まれた光りの微粒子がリーシアを包み込み、リーシアの身に着けるブラウスとスカートの上にジャケットが展開。さらにその手にスナイパーライフルが顕現した。


魔装緋響狙撃モード展開完了。マスター、指示を!」


 その瞬間、俺は言葉にならぬ高揚感を抱いていた。

 いまのは、ソシャゲのリーシアをゲットしたときの演出だ。愛らしい姿のリーシアが、魔装を展開して戦闘スタイルにチェンジする。さながら魔法少女のような仕様。

 それをまさか、目の前で見られるなんて……っ。


「マスター?」


 いつの間にか車両の屋根に伏せたリーシアが、スナイパーライフルを片手に見上げてくる。

 ――っと、興奮するのは後回しだ。いまは戦闘に集中しないとな。


「リーシア、二時の方向にボス個体だ」

「――確認しました。いつでもいけます」

「よし……任意のタイミングで撃て」

「――はい」


 一瞬の静寂、荒野に吹く風に紛れ、リーシアの呼吸が聞こえてくる。そして息を吐いた直後、ゆっくりとトリガーを絞ると、衝撃波とともにスナイパーライフルがわずかに燐光を帯びた。

 そして、魔力の弾丸が百メートルを一瞬で零にして――ボス個体の上半身を吹き飛ばした。


 正確無比にして必殺の一撃こそ、彼女がヴェルターラインのエースと呼ばれるゆえん。

 目の前でボス個体が吹き飛んだ事実に、治安維持部隊の連中がわずかに動揺した。同時に、魔法生物も、まるで死神を恐れるように一瞬だけ動きを止める。

 だが――


『レーネ』

『もちろん、この機会は逃さないのよ!』


 魔装部隊の面々は揺るがない。レーネが部下を率いて即座に反撃を開始する。

 遠目にも、彼女が魔装で魔法生物を蹴散らしているのが見える。俺は全体を見渡しながら、もう何度がリーシアに指示を出し――そして、自軍はすべての敵を蹴散らした。

 

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