念のため石橋を叩いておくが、できればなるべく迂回したい

@study-v

第一話

1-1 ぷるんとした未知数

 スライ厶という存在は、分類の段階でつまずきやすい。

 玩具おもちゃとして扱われるものは柔らかく、癒しのために設計されたもの。一方で架空生物かくうせいぶつとしてのスライムは、溶解性ようかいせいや攻撃性など、作品ごとに危険度が天と地ほど違う。


 つまり“見た目が似ているだけで、実態は千差万別せんさばんべつ”。そのことは、頭で理解しているつもりだった。……つもりだったのだが。



 その日、仕事を終えてアパートに帰り、玄関の扉を開けたら、青くて丸い“何か”がぷるぷるしていた。

「…………」

 声が出なかったのは、驚きというより“情報処理が追いつかなかった”からだ。


 半透明。直径約20センチ。弾力のある表面。温度不明。質量しつりょう不明。意図いとも不明。


 玄関の電気をつけると、光を受けて透き通るようなツヤが浮かび上がる。


(……これは……未知だな……)


 脳が高速で状況を整理し始める。


 周辺への影響は――ゼロ。床は溶けていない。家具も無傷。匂いも異常なし。可動かどうもなし。


(危険性……現時点で判断不可……)


 結論が出せなかった。理屈では見当がつかない。頭より身体のほうが一足先に反応した。


 俺はそっと玄関の扉を閉めた。


(……これは……今じゃないな)


 判断を避けた、というより、“判断できる状態まで自分を持っていけない”というのが近い。


 視界の端からぷるぷるの像が消えた瞬間、空腹を思い出した。


(……とりあえず、外行ってくるか)


 俺はアパートの外へ出た。

 部屋には未知の物体を残したまま。


 その事実に対しての不安よりも、「腹が減っている状態で未知の物体を観察しても誤差ごさが大きい」という、自分だけの妙な理屈が勝ったのだ。


 自分でも「それはどうなんだ」と思わないわけではないが、考えたところで行動は変わらなかった。


(まずは……買い物だな……)


 そうして俺は、静かな夜のスーパーへ向かった。

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