第10話「祝福の夜と、永遠の誓い」

 その夜、二人は初めて結ばれた。

 アレスがリオの求愛を受け入れたその静かな夜のことだった。皇帝の寝室に灯る柔らかなランプの光が、寄り添う二人の影を壁に映し出す。

 最初は戸惑い緊張で体をこわばらせていたリオだったが、アレスが注ぐ焦がれるような熱い口づけと、宝物に触れるかのような優しい愛撫に次第に身も心も解きほぐされていった。

「怖いか?」

「……ううん。アレス様だから、怖くないです」

 氷の皇帝だと恐れられていた男が見せる自分だけに向けられた甘い表情、蕩けるような声、そして深い愛情。そのすべてがリオの心を幸福で満たしていく。アレスもまたリオのすべてを愛おしむように受け入れ、その温もりに今まで感じたことのないほどの安らぎと魂の充足を見出していた。

 孤独だった二つの魂がようやく一つになる。それはまるで長い旅路の果てに探し求めていた片割れを見つけたかのような、完璧な一体感だった。


 まるでそんな二人を祝福するかのように、城の上空で高く澄んだ鳴き声が響き渡った。

 窓の外を見るとすっかり元気を取り戻した聖獣グリフォンが、大きな黄金の翼を広げ月明かりを浴びながら雄大に夜空を旋回していた。その神々しい姿は帝国の新しい時代の幕開けと、二人の輝かしい未来を告げているようだった。

 城下に住む人々は夜空を舞う守護獣の姿を見上げ、その奇跡的な光景に希望と喜びの声を上げた。


 翌日、リオを連れ戻すことに失敗した元の王国の王子は失意のまま帰国の途についていた。

 出発の直前、彼は城のバルコニーに立つ二人の姿を遠くに見てしまった。朝の柔らかな光の中、穏やかに微笑むリオの髪をアレスが優しい手つきで梳いてやっている。その姿は誰の目にも明らかなほど、深い愛で結ばれた者同士のものだった。

 アレスの絶対的な庇護のもとで心からの幸せを享受しているリオ。その光景は王子に自分たちが犯した過ちが、どれほど取り返しのつかないものであったかを痛いほどに悟らせた。

 宝物を自らの手で捨て国を滅びへと追いやった愚かな王子。その噂はすぐに大陸中に広まることとなるだろう。

 彼の背負う後悔はあまりにも重く、そして深かった。


 一方で帝国の城では新しい朝が訪れていた。

 アレスの腕の中で目覚めたリオは、まだ夢の中にいるような気分だった。隣ですうすうと穏やかな寝息を立てる皇帝の、普段は見ることのできない無防備な寝顔を見つめる。その美しい額にそっと口づけを落とした。

「……おはよう、アレス様」

「……ん……おはよう、リオ」

 眠たげに目を開けたアレスが愛しい番の名を呼び、その体を優しく引き寄せる。

 誰にも壊すことのできない固く、そして温かい絆が確かにそこに生まれていた。二人の物語はまだ始まったばかりだった。

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