使い捨て才能(ギフト)を拾うたび、人生がバグるんだが?
てててんぐ
第1話 落ちていたのは才能でした
放課後の帰り道、荷物は軽いのに足取りだけが重かった。
スケッチブックを抱えたまま、俺――落合ユウマは、ため息を三回ほどつく。
「はぁ……今日もダメだったな」
美術部の顧問に見せた絵は、またしても微妙な顔をされた。
部に入って一年半。努力はしている……つもりだ。でも、同級生たちはどんどん上達していくのに、俺の画力だけは、どうにも伸びない。
そんな自己嫌悪の渦に沈みながら、側道の端に視線を落とした瞬間――それは、そこに“落ちていた”。
「ん?」
青白く光沢のあるカード。名刺くらいの大きさで、表面にはただ一語。
〈GIFT〉
「……ギフト?」
拾い上げた途端、カードの裏面に文字が浮かび上がった。
〈一回だけ、画力が神になる〉
「いや、そんな……ガチャの説明文かよ」
思わずカードをくるくる回しながら呆れ半分、興味半分で眺める。
妙に手触りがよくて、プラスチックというより金属めいている。
だが、正気に戻ればツッコミどころしかない。
「絶対、誰かのいたずら……だよな?」
そう思っていた。
――この瞬間までは。
カードが突然、指先で光った。
「うわっ!?」
反射的に手を離したが、カードは空中でふわりと回転し、霧のようになって消えた。
「な、なんだ今の……?」
心臓が跳ね上がる。
でも、次の瞬間、頭の中に言葉が直接流れ込んできた。
〈ギフト発動。画力:神レベル〉
「…………え?」
ぞくり、と背筋に電気が走る。
なんだよ、それ。
だが衝撃は続いた。
右手が勝手に動き出したのだ。まるで誰かに操られているように。
「ちょ、え、なにこれ、怖っ」
カバンからスケッチブックを取り出し、勝手に開き、鉛筆をつまんで――。
俺の意思とは関係なく、線が踊り出す。
「うわ、待て、止まれって……!?」
だが手は止まらない。
いや、止まらなくてもよかった。
描かれる線はあまりに滑らかで、迷いがなく、そして――美しかった。
「……嘘だろ」
五分ほどで描きあがったイラストを見たとき、言葉を失った。
そこにあるのは、プロでも描けないレベルの神絵だった。
陰影、構図、表情、衣装の質感、空気感に至るまで完璧だ。
自分で描いたという実感がまったくない。
「これ……本当に俺が?」
震える手でページをめくる。
が、そこでさらに異常が起こった。
「……あれ?」
スケッチブックの過去の絵が、全部うまくなっている。
今まで下手だったはずの一年分の絵が、すべて“上達した実力で描いたもの”に置き換わっていた。
「ちょ、待て、これは……」
俺がベンチで固まっていると、横から声が飛んできた。
「ユウマじゃん。何してんの?」
同級生のサキが覗き込んできた。
クラスの女子で美術部のエース。俺とは真逆の天才肌。
「それ、新作? 見せて?」
「あ、いや、これは……」
止める暇もなくサキはスケッチブックを手に取る。
「わぁ……また上手くなってるじゃん。最近ほんと調子いいよね、ユウマ」
「えっ……?」
“また”?
“最近調子いい”?
薄気味悪さが急激に増す。
「これ、昨日描いてた途中のやつでしょ? 修正したんだ?」
「い、いや。昨日は……全然描けなくて……」
「え? 何言ってんの? 昨日めっちゃ褒められてたし。先生からも『ユウマ君、急に才能開花したな』って言われてたのに」
「……嘘だろ」
俺は昨日、先生に『個性は感じるよ』と曖昧にフォローされただけだ。
褒められた覚えなんて一切ない。
「ねぇ、本当にどうしたの? なんか変だよ?」
「いや……俺の方が聞きたいくらい」
その瞬間。
カンッ
金属が落ちたような小さな音がした。
「ん?」
足元を見ると、また一枚のカードが落ちていた。
〈GIFT〉
〈一回だけ絶対モテる〉
「……は?」
「なにそれ?」とサキがのぞき込む。
俺は慌てて拾い上げ、ポケットにねじ込む。
「なんでもない!」
「怪しすぎるよ、それ……」
サキは眉を寄せたが、俺はそれどころじゃなかった。
息が浅くなっていく。
“またギフトが落ちている”
“さっき使った瞬間、世界の評価が書き換わった”
もしこれが本当に“世界を書き換える力”なら――。
「……うわ、どうしよう」
「ユウマ?」
「いや、なんでもない……帰る」
逃げるように歩き出した俺の背で、サキがぽつりと言った。
「……ユウマ、なんか変だよ。ほんとに大丈夫?」
その優しさが妙に怖く感じた。
だって、サキは――
俺の“過去の絵”が書き換わったことを疑っていない。
彼女の中の記憶まで改変されているのだ。
背中に冷たい汗が流れる。
逃げ帰るように家へ走りながら、心の中で繰り返す。
「これ……絶対にマズいだろ……」
ギフトによって得た“神のような絵の才能”。
それは同時に、世界の評価、記憶、過去を――
バグらせている。
その夜、部屋に閉じこもって震えていると、ポケットのカードが再び光った。
〈ギフトがあなたを選びました〉
〈次の才能を拾ってください〉
勝手に、メッセージが浮かぶ。
「ふざけんなよ……!」
叫んだところで返事はない。
ただ、遠くから聞こえるような気がした。
――カコン。
また、何かが“落ちた音”。
ゆっくりと窓を開け、外を見る。
街灯の下に、一枚のカードがひらりと落ちていた。
この瞬間、俺は理解する。
これは偶然でも遊びでも、誰かの悪戯でもない。
“ギフトを拾う体質”になってしまった――。
そして。
それを拾うたび、俺の人生は、世界は――
バグっていく。
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