第26話 カイル、かつての故郷へ「更地にして作り直そうか」

ズドォォォォォォン!!


王都の中央広場に、大地を砕くような衝撃音が響き渡った。

砂塵が舞い上がる中、二つの巨影が激突する。


『オレヲ……見下スナァァァッ!』


魔神と化したゲラルトが、城壁を取り込んだ巨大な右腕を振り回す。

その一撃は山をも砕く威力を持っていたが、目の前に立ちはだかる白亜の巨神――『グラン・カイザー』は、一歩も退かなかった。


ガギィィィン!!


「……工事現場では、安全第一だって教わらなかったかい? 兄上」


コックピットの中で、カイルは冷静に操縦桿を操作した。

グラン・カイザーの左腕が変形し、巨大な『シールド板』となってゲラルトの攻撃を完全に受け止めていた。

【万能建築】によって生成された『アダマンタイト複合装甲』は、魔神の腕力すら弾き返す。


『ナゼダ……ナゼ壊レナイ! オレノ力ハ最強ナハズダァァァッ!』


「強度の計算が甘いんだよ。基礎も固めずに上にばかり積み上げれば、崩れるのは当たり前だ」


カイルは右手のレバーを押し込んだ。


「教えてあげるよ。本当の『破壊』ってやつを」


グラン・カイザーの右腕が高速回転を始める。

手首から先が収納され、代わりに巨大なドリルが出現した。

それはただのドリルではない。対象の構造的弱点(ウィークポイント)を瞬時に解析し、振動波で分子結合を破壊する『解体用超振動ドリル』だ。


「【万能建築】・解体術式――『構造粉砕(クラッシュ・ビルド)』!」


ギュイィィィィィィン!!!!


グラン・カイザーが踏み込み、ドリルの先端をゲラルトの鳩尾に突き入れた。


『グ、ガッ……!? ア、アガガガガッ!?』


ゲラルトの巨体が激しく震える。

魔神の体表を覆っていた黒い装甲が、波紋のようにひび割れていく。

再生能力が追いつかない。

細胞レベルで分解されていく恐怖に、ゲラルトの絶叫が木霊する。


「終わりだ。その汚い魔力ごと、更地に戻れ」


ドォォォォォォォォン!!!!


ドリルが貫通し、背中側へと衝撃波が突き抜けた。

ゲラルトの巨体が内側から崩壊を始める。

取り込んでいた瓦礫や土塊がボロボロと剥がれ落ち、核となっていた『古代の闇』の魔力が霧散していく。


『オレハ……王ニ……王ニナリタカッタダケナノニィィィ……』


断末魔と共に、魔神の体は砂のように崩れ去った。

後に残されたのは、ボロ雑巾のように地面に転がる、全裸のやせ細った男――ゲラルトの本体だけだった。


   ◇


静寂が戻った広場。

グラン・カイザーはゆっくりと蒸気を噴き出し、その動きを止めた。

胸部のハッチが開き、カイルが姿を現す。


「カイル様!」

「カイル様が勝ったぞぉぉぉ!」


リリスの結界の中で守られていた民衆から、爆発的な歓声が上がった。

獣人たちが抱き合い、ガルムが斧を掲げて吼える。

それは恐怖からの解放と、新たな英雄の誕生を祝う叫びだった。


カイルは【飛行】魔法でふわりと地面に降り立った。

そこへ、セリアとリリスが駆け寄ってくる。


「お見事です、主よ。あの怪物を、街への被害を最小限に抑えて鎮圧するとは」

「カイルさん、怪我はありませんか? 魔力の消費は?」


「平気だよ。グラン・カイザーの動力は天空城と直結してるからね」


カイルは二人に微笑みかけ、倒れているゲラルトのもとへ歩み寄った。

彼は生きていた。だが、その精神は完全に崩壊していた。

虚ろな目で空を見上げ、口から泡を吹いている。

もはや嫉妬する気力も、恨み言を言う知能も残っていないだろう。


「……あ、あぁ……カイル……」


近くの瓦礫の陰から、ボロボロになったアルマン国王が這い出してきた。

彼は息子の無惨な姿と、圧倒的な勝者であるカイルを交互に見て、ガタガタと震え出した。


「わ、わしは……どうなるのじゃ? 殺すのか? それとも牢屋か?」


カイルは父親を見下ろした。

そこに湧いた感情は、怒りですらなかった。

ただの「処理すべきタスク」を見るような、事務的な冷徹さ。


「殺しはしないよ。死んで楽になろうなんて、虫が良すぎる」


カイルは冷たく告げた。


「あなたたちには、一生かけて償ってもらう。……ガルム!」


「へい!」


「この二人を拘束しろ。天空城の『最下層(リサイクルセンター)』へ連行だ。死ぬまで、資源ごみの分別作業に従事させる」


「了解であります! おい、元国王様と元王子様をご案内しろ!」


獣人たちがアルマンとゲラルトを引きずっていく。

かつて獣人を奴隷として扱っていた彼らが、今度は獣人に顎で使われる立場になる。

それがカイルの与えた罰――『身分剥奪と永劫の労働』だった。


「いやじゃぁぁぁ! わしは王じゃぞ! ゴミ拾いなどできるかぁぁぁ!」


アルマンの情けない悲鳴が遠ざかっていくのを、誰も同情の目で見ようとはしなかった。


   ◇


元凶は去った。

だが、問題は山積みだった。


カイルは広場の中央に立ち、周囲を見渡した。

惨憺たる有様だった。

魔神ゲラルトの暴走により、王城は跡形もなく消滅し、その周辺の貴族街や商業区も瓦礫の山と化している。

下水道は破裂し、道路は陥没し、かつての美しい王都の面影はどこにもない。


「……ひどいな」

「はい。復旧には数十年はかかるでしょう」


セリアが痛ましげに眉を寄せる。

家を失った民衆たちが、呆然と焼け跡を見つめていた。

勝った喜びは束の間、彼らに突きつけられたのは「明日からどう生きるか」という絶望的な現実だった。


「カイル様……俺たち、どうすれば……」

「家も店も、全部なくなっちまった……」


一人の男が泣き崩れると、連鎖するように悲嘆の声が広がっていく。

カイル皇国の民になることを望んだとはいえ、生まれ育った故郷が瓦礫になるのを見るのは辛いものだ。


カイルは、そんな民衆たちの姿を静かに見つめ、そして一つ大きく息を吸い込んだ。


「嘆く必要はない!」


凛とした声が、瓦礫の山に響き渡った。

人々が顔を上げる。


「確かに、グランベル王国は滅んだ。この街も死んだ。……だったら、新しく作ればいいだけだ」


カイルは右手を広げ、荒れ果てた王都全体を指し示した。


「汚くて、不便で、カビ臭い王都なんて、元々ガタが来ていたんだ。ちょうどいい機会だよ」


カイルの瞳に、職人(ビルダー)としての強烈な光が宿る。

彼は、破壊された廃墟を見ているのではない。

その先にある、未来の完成予想図(ブループリント)を見ていた。


「僕がやる。……ここを更地にして、一から作り直そうか」


カイルが両手を地面に叩きつけた。


「【万能建築】・広域発動――『世界再編(ワールド・リノベーション)』!」


ズズズズズズズズッ!!!!


大地が脈動した。

民衆たちが悲鳴を上げる間もなく、信じられない光景が展開された。


崩れた瓦礫が光の粒子となって分解され、空へと舞い上がる。

ドブ臭い汚水溜まりが浄化され、陥没した道路が自動的に埋め戻されていく。

壊れた家々の残骸が、素材レベルまで還元され、新たな建材として再構築される。


「な、なんだこれは……!?」

「瓦礫が……消えていく!?」


それは魔法を超えた、奇跡の光景だった。

カイルの脳内にある設計図が、現実世界にリアルタイムで上書きされていく。


「まずはインフラだ。上下水道は完備、道路は舗装して馬車専用レーンを作る」


カイルが指を振るうたびに、地下から新しい配管が伸び、美しい石畳が敷き詰められる。


「住宅区は日当たり良好に。全戸に魔導コンロと水洗トイレを設置」


ボコッ! ボコッ!

光の中から、清潔で頑丈なレンガ造りの家々が次々と隆起する。

それも一軒や二軒ではない。数千軒の家が、まるで雨後の筍のように生えてくるのだ。


「商業区はアーケード化して雨の日も快適に。広場には公園と避難所を兼ねた大浴場を」


最後に、かつて王城があった場所に、巨大なクリスタルタワーのような庁舎が出現した。

それは権威を示すための城ではない。

行政機能と、街全体を管理する魔導システムの中枢だ。


わずか十分。

カップラーメンができる程度の時間で、廃墟だった王都は、近未来的な機能美を持つ『超・近代都市』へと生まれ変わっていた。


「…………」


誰も言葉を発せなかった。

セリアも、リリスも、そして数万の民衆も、口をあんぐりと開けて立ち尽くしていた。


「ふぅ……。とりあえず、こんなもんかな」


カイルは額の汗を拭い、満足げに頷いた。

MPは空っぽだが、心地よい疲労感だ。


「えっと……みなさん、お待たせしました」


カイルは凍りついている民衆に向かって、ニッコリと笑いかけた。


「これが新しい君たちの家だ。家賃はタダ、入居手続きはあそこのタワーでやってるから、好きな家を選んでいいよ」


シン……と静まり返る広場。

やがて、一人の少女が叫んだ。


「す、すごぉぉぉぉい!!」


その声を皮切りに、爆発的な歓喜が巻き起こった。


「魔法だ! 神様の魔法だ!」

「前の家より百倍立派だぞ!」

「トイレが! トイレが勝手に流れるぞぉぉぉ!」


人々は新しい街へとなだれ込み、壁を撫で、水を出し、その快適さに涙を流して喜んだ。

絶望は一瞬で希望へと上書きされたのだ。


「……カイル殿。貴殿は本当に、常識というものを粉砕するのがお好きですね」


セリアが呆れたように、しかし誇らしげに微笑む。


「破壊の後に、これほどの創造を見せつけられるとは。……これではもう、誰も前の王国のことなど思い出せませんね」


リリスもクスクスと笑う。


「最高の『ざまぁ』ですね、カイルさん。アルマン王たちが数百年かけて守ってきた歴史を、たった十分で、しかも遥かに良いもので塗り替えてしまうなんて」


「歴史なんて、人が幸せになるためにあるものだからね。不幸な歴史なら、リフォームしちゃえばいいんだよ」


カイルは肩をすくめた。

これでグランベル王国は名実ともに消滅した。

ここは今日から、カイル皇国の『地上首都・グランベル』となる。


「さて、街はできた。あとは……」


カイルは空を見上げた。

天空城が、地上首都の真上に浮かんでいる。

二つの拠点が揃い、カイル皇国の基盤は盤石となった。


だが、この騒動を見ていたのは、王国の民だけではない。

周辺諸国、そして同盟を破棄した帝国もまた、この奇跡の一部始終を監視していたはずだ。


「そろそろ、あっち(帝国)からもコンタクトがある頃かな」


カイルの予想通り、懐の通信機が鳴動した。

表示されている紋章は、帝国のもの。

だが、それは宣戦布告の通信ではない。

世界最強の座が入れ替わったことを悟った者からの、恭しい『招待状』だった。


物語は、カイルによる世界秩序の再編へと進んでいく。

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