第6話 【畑作成】機能解放、最高級食材が採れ放題

「……おいしい。おいしいのだが、さすがに三食連続でステーキは胃に来るな」


拠点のダイニングで、僕はフォークを置きながらぼやいた。

目の前には、自動調理器が完璧な焼き加減で仕上げたキング・ベヒーモスのサーロインステーキ。

肉汁が溢れ、噛めば魔力が身体中を駆け巡る至高の一品だ。


しかし、人間とは贅沢な生き物で、同じご馳走が続くと飽きてくる。


「そうですか? 私はあと十皿はいけますが」


対面に座るセリアは、上品な仕草ながら猛烈な勢いで肉を頬張っている。

エルフといえば野菜中心の食生活というイメージがあったが、彼女に関しては違うらしい。

昨日の貧相な体つきから一転、肌はツヤツヤと輝き、騎士としての筋肉も戻りつつある。ベヒーモス肉の滋養強壮効果は凄まじい。


「若いっていいなあ。……いや、僕もまだ十五歳なんだけど」


前世の記憶があるせいか、味覚がおっさん化しているのかもしれない。

とにかく、今の僕が欲しているのは、脂の乗った肉ではない。

シャキシャキとした瑞々しい野菜だ。


「セリア、今日は農作業をするぞ」

「ノウサギョウ、ですか? しかし、畑を作るには森を開墾し、土を耕し、種を蒔いて……収穫できるのは数ヶ月先では?」

「普通のやり方ならね。でも僕には【万能建築】がある。家が建つなら、畑だって一瞬さ」


僕はナプキンで口を拭い、立ち上がった。


   ◇


僕たちは家の裏手、日当たりの良い平原へと移動した。

現在は腰の高さまで雑草が生い茂っている荒れ地だ。


「まずは整地だ。スキル発動――『領域整地(ランド・クリア)』」


僕が右手を薙ぎ払うように動かすと、ザァァァッ! という音と共に、視界いっぱいの雑草が一瞬で消滅した。

ただ消えただけではない。それらは魔力変換され、地面の養分へと還元されたのだ。


「相変わらず、魔法の理(ことわり)を無視した御業ですね……」


セリアが呆れたように呟く。

続いて、地面の土壌改良だ。

この島の土は魔素を多く含んでいるが、作物を育てるには少し荒すぎる。


「【万能建築】派生――『神の農地(ゴッド・ファーム)』作成」


ズズズズ……。

地面が脈動し、土の色が変化していく。

乾燥してパサついていた土が、黒々とした湿り気のある、栄養満点の培養土へと変わった。

さらに、畝(うね)が自動的に隆起し、美しい畑の形が形成される。

広さは学校のグラウンドほどもあるだろうか。


「土作りは完了。次は種まきだ」


僕はウィンドウの『農業』タブを開く。

そこには建築物と同じように、多種多様な作物のリストが並んでいた。


『キャベツ』『トマト』『ジャガイモ』『トウモロコシ』……

さらには『薬草』や『果樹』まである。

これらはMPを消費して「種」を生成し、それを畑に植える仕組みだ。


「とりあえず、サラダに必要な野菜と、主食になりそうな芋類。あとは果物も欲しいな」


僕はポンポンとタッチパネルを操作していく。

すると、畑の畝に光の粒が降り注ぎ、自動的に種が蒔かれていく。


「種は蒔けましたが……やはり、育つのを待つ必要がありますよね?」

「いや、待たない」


僕はニヤリと笑い、最後の仕上げとなるスキルを発動した。


「【万能建築】奥義――『強制成長(タイム・アクセラレーション)』!」


カッッッ!!!!


畑全体が緑色の光に包まれた。

生命の息吹が爆発的に活性化する。


「なっ、なんだ!? 土が……植物が!?」


セリアが目を見開く。

黒い土からニョキニョキと緑の芽が顔を出したかと思うと、それは見る見るうちに茎を伸ばし、葉を広げ、花を咲かせ、そして実を結んでいく。

早送り映像を見ているような光景だ。

わずか十秒足らず。

光が収まると、そこには収穫の時を迎えた見事な野菜たちが、太陽の光を浴びて輝いていた。


「かん、せい……?」


セリアが言葉を失っている。

僕も正直驚いた。ただ育っただけじゃない。


トマトはルビーのように赤く輝き、大人の拳ほどの大きさがある。

キャベツは魔力を含んで微かに発光し、一枚一枚が鋼のようにハリがあるのに柔らかそう。

トウモロコシに至っては、粒が黄金(ゴールド)そのもののような輝きを放っている。


「鑑定スキルで確認……」


【奇跡のトマト(Sランク)】

・説明:神の農地で育ったトマト。一口食べれば寿命が延びると言われる。

・効果:美肌効果(特大)、魔力回復(中)、病気治癒


【黄金コーン(Sランク)】

・説明:糖度50度越えの超甘味種。生で食べられる。

・効果:体力回復(大)、精神安定


「……なんか、とんでもないものが出来ちゃったな」


スーパーで売っている野菜とは次元が違う。

これ一本で、城が買えるんじゃないかというレベルの代物だ。


「セリア、ちょっと味見してみよう」


僕はトマトをもぎ取り、セリアに手渡した。

服で軽く拭いて、そのままかぶりつく。


「んっ!?」


皮がプチッと弾けた瞬間、口の中に甘酸っぱい爆弾が炸裂した。

濃厚なジュースが溢れ出し、喉を潤す。

青臭さは一切ない。フルーツよりも甘く、それでいて野菜特有の爽やかさがある。


「う、うまいっ! なんだこれ!?」


「あぁぁ……! なんて瑞々しい……! これは、エルフの里にある世界樹の実にも匹敵する味です!」


セリアも夢中でトマトを食べている。

一口食べるごとに、彼女の肌がさらに白く輝き、髪のツヤが増していくのが目に見えてわかった。

美肌効果(特大)は伊達じゃないらしい。


「ジャガイモも試し掘りだ」


土を掘り返すと、ラグビーボール大の巨大なジャガイモがゴロゴロと出てきた。

これを蒸かしてバターを乗せたら……想像しただけで涎が出る。


「よし、今夜は野菜パーティーだ! 収穫祭をするぞ!」

「はい、主! 私はトウモロコシを全部収穫します!」


僕たちは童心に帰って、畑の中を駆け回った。

平和だ。

魔物がうろつく死の島で、こんなに平和な農作業ができるなんて。


   ◇


一方その頃。

海を隔てたグランベル王国では、平和とは程遠い事態が起きていた。


「どういうことだ! 王都の下水道が詰まっただと!?」


王城の執務室で、国王の怒声が響き渡る。

目の前には、青ざめた顔の大臣と、苛立ちを隠せない第一王子ゲラルトがいた。


「は、はい……。今朝から王都の各所で汚水が溢れ出し、市民から苦情が殺到しております。さらに、城壁の一部に亀裂が見つかり、いつ崩落してもおかしくない状態で……」

「ええい、修理させろ! 魔導師団は何をしている!」


「それが……魔導師団の報告によれば、王都のインフラ設備は極めて高度な『複合魔法術式』で管理されており、解析不能とのことです。下手にいじれば爆発する恐れがあると」


「解析不能だと!? 我が国の魔導師は無能ばかりか!」


ゲラルトがバンッと机を叩く。

だが、大臣は震えながら、さらに絶望的な報告を続けた。


「そ、それが……記録を調べたところ、これらの設備の維持管理を行っていたのは、たった一人の人物だったのです」


「誰だ、その優秀な魔導師は! すぐに連れてこい!」


「は、はい。それが……」


大臣は言い淀み、意を決してその名を口にした。


「……先日追放された、第三王子カイル様です」


シンッ、と部屋が静まり返った。


「……は?」


ゲラルトが間の抜けた声を出す。


「カイルだと? あの【建築】しか能のない無能か? 馬鹿を言うな。あいつにそんな真似ができるはずがない」


「しかし事実なのです! カイル様は夜な夜な城を抜け出し、人知れず老朽化した配管を修復し、城壁に防護魔法を掛け直していたようなのです! 彼がいなくなった途端、全ての術式が崩壊を始めました!」


国王の顔色が、怒りの赤から恐怖の青へと変わっていく。

彼らは知らなかったのだ。

カイルが【万能建築】のスキルレベルを上げるため、密かに国中の設備をメンテナンスし、経験値を稼いでいたことを。

そして、その恩恵によって、この国のインフラがギリギリ保たれていたことを。


「そ、そんな……。では、城壁の亀裂はどうするのだ? 隣国の帝国が攻めてきたら……」

「今の城壁では、投石機の一撃にも耐えられません」


絶望的な沈黙が場を支配する。


「くそっ、くそっ! あいつめ、こんな置き土産を残していきおって!」


ゲラルトは忌々しそうに吐き捨てたが、その顔には明らかな焦燥が浮かんでいた。

弟を見下し、追放した結果がこれだ。

自分たちの足元が、あんなにも脆いものだったとは。


「捜せ! カイルを連れ戻せ!」

「し、しかし陛下。カイル様は『魔の島』へ……今頃はもう、魔物の餌食に……」


「死体でもいい! 何か、奴の残した魔道具や手記があるかもしれん! 調査団を派遣しろ!」


王国の崩壊へのカウントダウンは、既に始まっていた。

だが、彼らが失ったものの大きさ気付くには、あまりにも遅すぎたのだ。


   ◇


そんな王国のパニックなど露知らず。

僕たちの食卓は、かつてないほどの彩りに満ちていた。


「乾杯!」


グラスを合わせる。

中身は、先ほど収穫したブドウを【発酵樽】で即席熟成させた最高級ワインだ。


テーブルには、Sランク食材のオンパレード。

『奇跡のトマトとモッツァレラチーズのカプレーゼ』

『黄金コーンのバター醤油焼き』

『巨大ジャガイモのポテトサラダ』

『キャベツとベヒーモス肉の回鍋肉(ホイコーロー)風』


「んん~っ! 野菜が甘い! シャキシャキしてて、噛むたびに命の味がします!」


セリアはフォークが止まらない様子だ。

野菜嫌いの子供でも、これなら無限に食べるだろう。

僕も一口食べるごとに、体の底から力が湧いてくるのを感じた。

ステータスの魔力値も、心なしか上限が増えている気がする。


「肉もいいけど、やっぱり野菜だな。これで栄養バランスも完璧だ」


食後のデザートに『完熟メロン』を食べながら、僕は満足げに頷いた。


衣食住、全てが揃った。

防衛も完璧。

かわいい居候(元女騎士)もいる。


「これぞスローライフ。もう王族に戻れって言われても絶対お断りだな」


「同感です。私も、騎士団長時代より今の方が百倍幸せです」


セリアが赤ワインで少し頬を染めながら微笑む。

窓の外には満天の星空。

虫の声と、波の音がBGMだ。


この穏やかな時間が、永遠に続けばいい。

そう思っていた。


だが、異世界の神様というのは、なかなか退屈させてくれないらしい。


『ピピピッ! 警報。上空より巨大な熱源接近。識別信号……ドラゴン』


静寂を切り裂くように、室内のモニターから無機質な警告音が響いた。


「……ドラゴン?」


僕とセリアは顔を見合わせた。

この島にはベヒーモスのような陸上の王者はいたが、空の王者までいるとは聞いていない。


「グルルルァァァァァァッ!!!!」


直後。

家全体が震えるほどの、凄まじい咆哮が頭上から降り注いだ。

窓ガラスがビリビリと共鳴する。

外を見ると、星空を遮るように広げられた、巨大な翼のシルエットが見えた。


「ワイバーンか? いや、あれは……!」


セリアが剣を手に取り、窓へ駆け寄る。

月明かりに照らされたその姿は、ワイバーンごときではない。

全身を輝く黄金の鱗で覆い、威厳に満ちた瞳を持つ、伝説の『古龍(エンシェント・ドラゴン)』だった。


「なんで古龍がこんなところに……!?」


ドラゴンはゆっくりと、僕たちが作ったばかりの畑の真ん中に着地した。

せっかくのトマト畑が踏み荒らされる!

……いや、そうじゃない。

ドラゴンは畑を踏むことなく、器用に空いたスペースへ降り立つと、長い首を伸ばして――


「……くんくん」


鼻を鳴らして、黄金コーンの匂いを嗅いでいる?


「もしかして……お腹が空いてるのか?」


僕の呟きに、セリアが信じられないという顔をした。

最強の防衛システムを持つ僕の要塞に、新たな、そして最強の来訪者が現れた瞬間だった。

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