ダンジョン突入前

「ほら行くぞー」

「待てやコラァ! 流石にギリギリまで弱くなった状態で重機は洒落にならねえって!」

「キャー⁉」

「大丈夫大丈夫。死なないラインは実体験でよーく分かってるから」


「命綱はないんですの⁉」

「あ? ねえよんなもん」


「ゴボボボボボボボ⁉」


「グエエエエエエ⁉」

 ボカアアアアアアアアーーーーーーーーン!


『待つんだワン! その車でどうするんだワン⁉』

「生存本能を刺激して野生の力を取り戻すんだ!」

『ニャアアアアア⁉』


 廃墟と化した採石場で悲鳴が迸る。

 ダンジョン破壊が急務となり、一週間で素の力を上げなければならない令和世代は、様々な方法で死の淵に突き落とされている。

 だがヒーローの生存本能を刺激すれば感覚が鋭敏となり、生き延びるために今まで以上の力を発揮できるのは、特訓の考案者真紅が自身と後輩に行い効果を実証し続けている。


「同年代が最近の若者はー……なんて言ってたら、おでんの卵を冷まさず口に突っ込むことにするよ」

「真紅兄さん。多分、なにかしらの条約違反っす」

「あいつらもヒーロー名乗ってますからねえ」


 詳細は省くが明らかにコンプライアンス違反な特訓を見ていた真紅は、傍にいた平成ヒーローと共に新たな後輩達を称賛する。

 力を常人まで落としている令和ヒーローたちは泣き言こそ叫んでいるが誰も脱落しておらず、石に齧りつくような様相で特訓を成し遂げていた。


「ヒーロー局の上は騒がしい?」

「なし崩し的に長引かせたら利益が……みたないな感じでしたから、強行軍でダンジョンをぶっ壊す予定に大反対してますよ」

「ははは。まあ、俺の方も無理したくはないから安全マージンが欲しいけど、大幹部級が復活する場所なんて許容できないわ。正気を失ってたからまだマシだったけど、前線出て腹括れるタイプは本当に死闘になる。俺らの世代はほぼ確実に、大幹部に一回は殺されてるし」

「ですねえ」


 真紅がどうせそうだろうなと思っていることを尋ねると、平成ヒーローから案の定な答えがあった。

 怪人の脅威を実体験で知らない者達は願望を優先させており、ダンジョン破壊を企む真紅とは水と油だ。


「サトルには悪いけど、政治面はぶん投げる」

「前から聞こうと思ったんですけど、サトルさんとは最初、どんな関係だったんです?」

「大学時代の後輩さ。二つ年が離れてる。そんでアホ連中の企みにお互い巻き込まれて、長い付き合いのスタート」

「そうだったんですね」

「兄貴、怪人倒しました! なんて言われた時は心底ぶったまげたよ。生身で戦車を攻略する方がまだ可能性が高いのに……なんの強化もされてない人間が、誰かを守るために命を懸けられるんだ。新兵器、新技術、新武装も大事だ。でも心も同じかそれ以上に重要さ」


 そんな政治的面倒だったが、真紅には頼れる弟分がいたので言葉通りぶん投げることにした。


「さて、どうなるか……」


 真紅は呟きと共に、万が一のために心の種火に燃料をくべ始めた。



名無しの平成ヒーローさん

悲報・正義のヒーロ真紅兄さん、スマートフォンとアプリのゲームに苦戦する。


名無しの平成ヒーローさん

半べそかいてたぞ……。


名無しの平成ヒーローさん

昭和の悪の組織にアンケート取ったら、戦いたくないヒーローナンバーワンに輝くのが確定している男なのに……。


名無しの平成ヒーローさん

古代マヤ文明のあれこれで生活を成立させてて、ほぼ浦島太郎状態なんだよな。


名無しの平成ヒーローさん

真紅兄さん「え? レジ袋は……適当にお願いします。えええ⁉ レジ袋って今有料なんですか⁉」


名無しの平成ヒーローさん

レジ袋必要ですかの質問に首を傾げ、有料と知って心底驚く正義のヒーロー。


名無しの平成ヒーローさん

真紅兄さん「マイバッグか……でもゴミ箱用だったりでなんだかんだ使うんだよなあ……」


名無しの平成ヒーローさん

なんとか現代社会に適応しようとしているヒーロー!


名無しの平成ヒーローさん

それにしても珍しいな。ガラケー使ってた時も、別にゲームとかしてなかっただろ?


名無しの平成ヒーローさん

地獄の訓練を終えて休憩中の若い子の話に合わそうとしてます……。


名無しの平成ヒーローさん

に、兄さんのコミュニケーション能力は底なしやでぇ。


名無しの平成ヒーローさん

砂浜で殴り合ったら意思疎通が出来ると思ってる昭和世代の特異点的存在。


名無しの平成ヒーローさん

マジで兄さんいなかったら、昭和世代の先輩方と連絡取れないレベル。


名無しの平成ヒーローさん

でもコントローラー握ったことない人間にゲームやらせるようなもんだろ。


名無しの平成ヒーローさん

だから苦戦してるんだわ。


名無しの平成ヒーローさん

真紅兄さん「相性? タイプ? 周回? ガチャ? レイド?」


名無しの平成ヒーローさん

異星人と話した方がまだ理解出来そう。


名無しの平成ヒーローさん

これは兄さんも地獄のサブカルチャー訓練中ですわ……


名無しの平成ヒーローさん

俺もあんまり今のゲーム詳しくねえんだよなあ。


名無しの平成ヒーローさん

んだ。三十歳過ぎてくるとゲームする根気が湧いてこなくなる。


名無しの平成ヒーローさん

令和世代「はあ。仕方ありませんね」


名無しの平成ヒーローさん

見かねた若い世代が真紅兄さんをレクチャー!


名無しの平成ヒーローさん

まんま困り果てた爺さんを助けてる孫たちの図。


名無しの平成ヒーローさん

善意で突っ走ってない時はすげえ話しかけやすそうな人だし。


名無しの平成ヒーローさん

真紅兄さん「やんのかゴラ? おうゴラ? ああゴラ?」


名無しの平成ヒーローさん

昭和秘密結社残党「ひっ。や、止めてください!」


名無しの平成ヒーローさん

昭和の秘密結社見つけた時の真紅兄さんは一味違う。


名無しの平成ヒーローさん

ヤンキー漫画とか任侠映画から迷い込んだ形相するからね。


名無しの平成ヒーローさん

青筋浮かべて目がキマってる。


名無しの平成ヒーローさん

殺すか殺されるかの関係だからしゃあない。


名無しの平成ヒーローさん

若い子に教えを受けてる真紅兄さん「ふえええ。ボスが倒せなよおぉぉ」


名無しの平成ヒーローさん

昭和の残党見つけた真紅兄さん「死ね。つか殺す」


名無しの平成ヒーローさん

常時核戦争企んでた勢力なら塩対応になりますわ。


名無しの平成ヒーローさん

令和世代「本当にゲームとかされてないんですね」


名無しの平成ヒーローさん

兄さん「ビンゴゲームくらいならしたことあるよ!」


名無しの平成ヒーローさん

令和世代「……知識としてなら知ってます」


名無しの平成ヒーローさん

兄さん「え?」


名無しの平成ヒーローさん

兄さん、ビンゴゲームは流石に古いっすね。


名無しの平成ヒーローさん

最後にやったのいつだろ……


名無しの平成ヒーローさん

十年くらいやった覚えがない。


名無しの平成ヒーローさん

多分それこそ、兄さん主催のクリスマスイベントが最後だ。


名無しの平成ヒーローさん

景品なんだっけ?


名無しの平成ヒーローさん

現金。一等が十万だったかな?


名無しの平成ヒーローさん

ああそうだそうだ。変な景品を腐らせるより、現金の方がいいでしょ。みたいなことを兄さん言ってたわ。


名無しの平成ヒーローさん

五万くらい貰ってぱっと使った覚えがある。


名無しの平成ヒーローさん

やっぱ妙なのより現金が嬉しいんだわ。


名無しの平成ヒーローさん

しかし兄さんも令和世代との交流が増え始めてよかったわ。


名無しの平成ヒーローさん

だなー。




「どうしてそんなに強くなれた? かあ……正義の心を宿して悪に負けない気高さを持つっていう答えは……お望みじゃないよね」

「はい」

「まあ、うん。そうだね。四六時中命を狙われて、しくじったら間違いなく周りの人間が皆殺しにされて、負けたら世界が核戦争で終わる。そういう環境とプレッシャーで生き残ったら自然とさ」

「それは……」

「そうとも。君達には必要ないものさ。昔はよかった。なんてことを偶に聞くけど、少なくともこの点に関しちゃ、昔の方がクソだ」

「……」

「だから頑張れ令和世代。昭和はなんとか平成に託せた。平成も頑張って令和に繋げた。次の元号が何になるか分からないけど、それは君達次第さ」

「はい」

「よし。じゃあダンジョン攻略が終わったら、クリスマスパーティーでビンゴゲームだ。丁度12月25日で昭和百周年だから、昭和の先輩として景品は奮発するよ」



「先輩、俺らは準備出来ました」

「真紅さん。僕達令和もです」

「よし、じゃあ行こうか」


その日、ダンジョンの入り口には五十人程の人間が集まっていた。

平成ヒーローと、急遽集まった相棒たち。

令和ヒーローとマスコット。

そして昭和ヒーロー。


今の日本が用意できる最強の戦力だ。


『変身!』


令和ヒーローが異口同音に言葉を発すると光り輝き、各々の服を纏って武装を握り締める。


「変身じゃい!」

「変身する!」

「いよっしゃあ!変身!」

「変身だ!」

『ヘイヘイヘイヘイヘイセイヘンシーーーーーン!』


平成ヒーローが様々な道具を手にして叫ぶと、装甲服を纏い様々な武器を持つ。


へぇんん……」


武器などない。誰かの加護もない。

だがそれでも戦い続けてきた昭和の男が、心のエンジンを轟かせる。


しんっ!」


昭和・平成・令和ヒーロー。

ダンジョンアタック開始。

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