弾丸のコピーライト
小迫宗平
I-1
樋口 宏美
空欄を、どうしても埋めたかった。
私の性というだけでは説明の効かない情動が、目の前にあった。西側の窓にもうすぐ太陽光が浸食する、特別校舎3階中央のギャラリースペースで、私は打ちのめされていた。
ひとつの絵の前に土下座をするような格好になり、周りも気にせず廊下にノートを広げた。一心不乱に自分の語彙の引き出しを漁るように、紙を叩く勢いでできる限りの単語を敷き詰めた。
気づけば20分そうしていた。ようやく自分の答えに辿り着いた頃、窓から刺す太陽が、絵の下に添えられたプレートを照らした。そこは本来、作品名が記されるべき場所。ただ1行だけが空欄で、優しく暖かな温度をもって私を見ていた。
マジックペンの蓋が開いて、私の手から落ちる無機質な音は、廊下に反響した後、聖歌のように私の胸を昂らせる音楽となって返ってくる。それに私は、インクが擦れる音で丁寧に応えた。
夕方は好きだった。いつもよりも色が少なくて済むからだ。
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