遭遇
支配の塔が遠くにぼんやりと霞む中、
リノたちは周囲を確かめながら歩き出した。
まずは——街を探す。
それが今の三人にできる最初の行動だった。
「記憶、どこまである?」
リノが問いかけると、サニーは眉を寄せた。
「研究所のことまでは覚えてる。
でもこの世界に来た瞬間は……途切れてる感じ。」
ルナも静かに頷く。
「私も同じ。意図的に“間”を切られたような……
そんな、滑らかな欠落を感じるわ。」
リノはその答えを胸に刻むと、
目の前に広がる風景を見渡した。
——草原だった。
けれど、ただの草原ではない。
草の一本一本が赤い光を帯び、
大地は燻るような“焔の息”を含んでいた。
空気は熱くも冷たくもない、
無機質な温度を持ち、
風は耳元で不吉なさざめきを残す。
さらに、
見えない“魔の気配”が
いくつも辺りを漂っていた。
しかし不思議と、誰も襲ってこない。
攻撃の気配はなく、
まるでこちらの力量を測っているように、
一定の距離を保って揺らめいていた。
「……なんか妙だな。」
サニーが周囲を見回しながら言う。
リノはふと、息をついた。
「もしかして、ここって……
RPGで例えるなら“最初の草原”とか……
“チュートリアルの手前”とか……そんな場所?」
サニーは神妙な顔で、
「そんなバカな……って言いたいけど、
この世界なら否定できないのが怖いよね。」
ルナもまた同じ表情で、
「世界の構造が明らかに異質ね。
普通ならありえない事象が、
“当たり前の景色”として存在してるわ。」
三人は慎重に歩を進める。
しばらくして、
焔の草原の向こう側に
大きな"街"のような影が見えた。
木造の家々が並び、
ところどころ灯りが揺れている。
煙は上がっておらず、
人の気配がほんの少し漏れ出していた。
「あそこだ——。」
とリノが声を上げた瞬間、
「——たすけてーーー!!!」
空気を裂くような叫び声が
草原に響き渡った。
三人は同時に声の方を向き、
距離を計るように構えを取る。
サニーの目が鋭く光り、
ルナの呼吸が静かに深く沈む。
リノは胸の鼓動を確かめ、
二人と波長を合わせるために
意識のラインを整えた。
「……行こう。」
三人の影が、
焔の草原を駆け抜けるように動き出した。
声の主がどんな存在であれ、
この世界で最初に出会う“運命”であることだけは確かだった。
三人は叫び声の方向へと駆けだした。
焔の草原が足下で揺れ、風が熱を含んで頬をかすめる。
その中でも、とりわけ速かったのは——サニーだった。
太陽の呼吸のような軽さで草原を走り抜け、
彼女は真っ先に“声の主”の元へとたどり着く。
視界に飛び込んできたのは、
怯えて地面に座り込む少女。
そして、その周囲を取り囲む——
五体のゴブリン型モンスターノイド。
“ゴブノイド”。
サニーは思わず言葉を失った。
「……ゴブノイド?
まだ、Nに生き残っていたなんて……」
本来なら遥か昔に絶滅したはずの存在。
その影が、再び目の前に現れるとは思いもしなかった。
だが、驚いている暇はない。
少女の小さな肩が震え、
涙が頬を伝って落ちたのを見て——
サニーの中で迷いは一瞬で消えた。
「この子を守らないと——」
そう強く思ったとき、
背後から二つの気配が合流する。
「サニー!」
「追いついたわ。」
リノとルナが並び立ち、
三人の影が少女を守るように広がった。
サニーは短く息を整え、
リノへ視線を向ける。
「リノ……ひとつ聞きたい。」
彼女の声は震えていない。
けれど、核心を突く静かな熱が宿っていた。
「この世界を“シミュレーション空間”に変えること……
あなたなら、できるの?」
焔の草原の風が一瞬止まり、
三人と五体のゴブノイドの間に
張り詰めた空気が生まれた。
---あとがき---
ここまで読んでくださりありがとうございます。
ここから敵が初めて出てくるのですが、この世界ではモンスターではく、"モンスターノイド"という形で出現します。
馴染みのあるゴブリンも、機械生命体ゴブノイドとして現れました。この世界の機械とはなんなのか?これも近い内に解明されるでしょう。
ではまた次回お会いしましょう。
追記、フォローやPVありがとうございます。
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