第5話 追放した人達視点 重たい長男、ちょっと重たい部下(世界最強)

◇◇◇◇


 ~ウェールズ・フォン・ソルロンド(長男)視点~


 オレは天才や。


 物心ついた時から、魔術も剣術も何やらせても大人以上に出来た。


 周りの人間はなんで、こんな簡単な事も出来んのやと見下してた。


 スキルすら生まれた瞬間に、覚醒した。


 それも、オレのスキルは”剣聖”や

 大陸中探しても10人もおらん超レアスキル。


 歴史に名を残す剣士のほとんどがこのスキルを持ってたんやって。


 オレは、選ばれた側や。

 帝国最強の剣士、円卓に数えられるのも時間の問題やろって。


 おまけに顔もよおてな、なんもせんでも女の子にモテた。10歳の頃には夜会に出れば貴族のご令嬢、はたまた各領地の夫人にまで寝室に誘われる始末。


 人生が簡単やった。

 周囲の人間で、そこそこやなって思えたのは妹のジャンヌくらい。


 他の兄弟は全員ボンクラ、両親でさえ、オレから見れば無能や。


 周囲の人間は、晴らせもせん恨みや妬みの目を向けるだけのしょーもない負け犬ばかり。


 オレはそんな連中とは違う。

 

 オレは王になる為に生まれてきたんやって思ってた。


 そんな感じですくすく育って、性根の腐ったクソガキから根性が捻じ曲がったイケメンに成長した頃合いや。


 あの子と、出会った。

 親父が妾に産ませた10番目の兄弟。


 どんなしょーもない子なんやろ、アホみたいにしょぼくれた顔しとるんやろな。


 黒髪で妾の子ってほんま哀れでしゃーない。


 でも、暇つぶしのおもちゃくらいにはしたろ、素直な子なら将来、オレが家督を継いで領主になった後も、小間使い程度で使ったろって――。


 安い布の服に、手入れされていない黒い髪、オレらと違う大した事ない顔、普通の人。


 その子を見た瞬間――全身の毛穴から魂が抜けるかと思った。


 スキル”剣聖”が再覚醒した瞬間やった。


 スキルが判断したんや。


 今、この瞬間進化せな――死ぬって。


 あの子は――出来が違う。

 オレの本能が、あの子を、オレの弟、アラン・フォン・ソルロンドをそう評価した。


 それに気づいたのは、家族ではオレとジャンヌだけや。


 そして、オレの勘は当たってた。


 その子は賢く、そして強かやった。

 決して己の能力をひけらかさず、でも、確実に実績を残す。


 オレら貴族が苦手な下々のモンの心をつかむのが異常に上手い。


 そして、決定的やったのが――オレがゴブリンの巣穴で死にかけた時の事や。


 焦ってた。

 あの頃のオレはアラン君が怖くて怖くてな。結果を出さんとこの家の家督、オレの全てを君に奪われるなんてしょーもない心配してたんや。


 冒険者としての結果を残す為、ギルドに無理言って単独で山ゴブリンの部族の駆除を受注。


 この部族は、既に何人もの冒険者パーティーを食いつぶし、騎士にすら手を掛けていた危険なモンスターやった。


 結果は、負けや。

 亜人剣聖ちゅーごつい強いモンスターに剣を叩き折られて、戦利品として巣に連れて帰られた。


 スキル剣聖も剣がなければなんにもならん。

 折られた剣、骨折、傷による毒。


 こら、死ぬな、そう思った時やった。


「ご無事ですか、兄上」


 あの子が、来た。

 煙と炎と毒、そしてよお分からん力。


 オレには思いつきもせんような方法で、アラン君はゴブリンの巣を突破。助けに来てくれた。


 オレはバカでゴミカスや。助けに来てくれた君に酷い事をたくさん言うた。


 でも、キミはそんなガキみたいに喚くオレに、どこからか取り出した剣を差し出して。


「兄上、この場にゴブリン達が殺到してまいります」

「生きて家に帰る為には、ソルロンドの剣聖たる兄上が必要にございます」

「大陸にこれより響く新たな剣聖の腕、存分に振るい候へば」


 格が、違った。


 喚き散らして当たり散らかしたオレに剣を差し出すその子の姿は輝いていた。


 キミは恨みも妬みも全部超越した存在なんや。


自分の小ささと、キミの器の大きさに笑いすら込み上げたなあ。


生まれて初めて他人を尊敬したのはこの瞬間や。


 この瞬間、オレは気付いた。

 

 オレに君主の、王たる器はないんやって。


 オレの剣は、キミ《王》の為にあったんやって。


 キミの為に鍛える。


 女も名誉ももういらん。

 力や。力が欲しい。


 キミを王にする為の剣、それがオレの生きる意味。


 気恥ずかして、キミの顔を見たらオレはあんま話せんかったけども。


 優秀な君の事や、、いや、こんなしょーもない


 オレはとんでもないド無能のゴミカスや。

 王たる君を、家から追い出すのを止められんかった。


 何が、剣や。

 何が、長男や。

 父親を叩き斬ってでも、キミの追放を止めなならんかったのに。


 無能無能無能無能、このままじゃオレに生きてる価値はない。


 オレはオレの王を迎えにいかなならんねん。


 そのためには――力が必要や。


 父親を殺しても、この領地を、いずれ君のものになる全てを維持する為の力が。


「アラン君、オレは――」


 領内に蔓延る山賊を斬る。

 キミはいつもこの領地の民の為に力を振り絞ってたな。


 キミがいない間は、オレがキミの代わりをする。

 キミを迎えに行く力、キミを王にする力。


 オレは――王に相応しい剣にならなあかん。そして、オレは。


「君を絶対、王にするで」


 ◇◇◇◇


 人類最強の騎士は、語る。


「伯爵家の騎士を辞める理由? 決まってるでしょ? あの方が追放されたから。誰って……決まってるでしょ?」


白髪青眼の飄々とした美青年。

さらりとした肉体、しなやかな長身、肉食獣のような天然の筋肉の鎧を纏う。


「十男のアラン・フォン・エルロンド様だよ」


「まあ、元々伯爵家との契約は数年前に切れてますし、良いきっかけにはなったかな。契約期間を延ばしてた理由がいなくなった、彼が不当に追い出されたとあらば、ここにいる理由もないでしょ?」


「え? ああ、アラン様がそんなに素晴らしい貴族だったのかって? う~ん、それはどうだろ」


「正直、貴族としては落第生じゃない? 礼節や教養、それに青い血を持つ者の自覚があの人にはあまりにもなさすぎる。普通に貴族としてはバカでしょ、汚い流れの傭兵崩れや冒険者連中と平気で一緒に飯食ったり、酒飲んだり、水浴びまでしちまう子だったし」


 言葉とは裏腹に、騎士は楽しそうにその男を語る。


「でもね、僕はあの方以上に――君主の、王の器を感じた事はないかな」


 彼が王の器を語る。

 これは、彼の立場を考えると――非常に重たい言葉だった。


「本人は自分の事を冷徹とか思ってんでしょうけど、全然違う。あのお方は情が深く、感情的で、即物的で――アホだ。でもね」


 やはり、騎士はうれしそうな顔で語る。


「一緒にね、戦ってくれるんだよ、あの老け顔の坊ちゃんは」


「死に行く者と共に死に行ってくれる。戦いにしか居場所がない者と共に戦ってくれる。そして――敗れ、死んでいった者の為に、涙を流してくれる。あの方の根幹には、他者への慈しみと敬意がどっしりと存在している」


「だから、皆思っちゃうんだよねえ。生まれも正義も違う傭兵でもさ」


「絶対に、この方を死なせたら駄目だって」


「共に戦ってくれる王のなんと心強い事か」


「ああ、伯爵家? さあ。長男様と長姉様は間違いなく傑物だろうけど、それ以外がひどすぎる。伯爵様自身の器も小さいし、これから先、少ししんどうだろうね、ああ、うん、早い話、没落すると思うよ、この領地は」


「多分これから伯爵家を離れる者は多いでしょ。伯爵様は1つ大きな勘違いをしてるしね。あの領にあれほどの人材が揃っていたのは、伯爵様の手腕でも、長男殿や長姉殿の名声でもない。あのお方の人柄だったのにさ」


「みいんな、あの方が何に成るのか。何を為すのか、それが見たかっただけなのにねえ……」


「僕? そうだね、帝都に戻って、友達や仲間とちょっと遊んで、少し休暇でも楽しむよ。それで休むにも飽きたら、う~ん」


「ユグドラシル無限森林に観光でも行こうかなって」


「実際、僕以外も多いんじゃない? ここだけの話、宮廷魔術師達からメイド達も、お暇を頂こうとしてるって」


 帝国最強の7人の騎士、その首席――“王剣のルドヴィグ“はそう言って、酒を飲み干し、部屋を後にした。

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