​『追放されたレベル1の荷物持ち、実は【経験値蓄積】で最強への階段を登る 〜10年分の封印を解いたら、勇者パーティが霞むほどの力が溢れ出しました〜』

さんたな

プロローグ 『10年目の解放(リリース)』

​ 「クライブ。お前、今日でクビな」

​ 焚き火の爆ぜる音が、荒野の静寂を切り裂いた。

 魔王城へと続く街道の途中。野営の準備をしていた俺、クライブに向けられたのは、勇者グランの冷淡な通告だった。

​ 俺は持っていた薪を地面に置き、ゆっくりと顔を上げた。

​ 「……クビ、ですか」

 「ああ。悪いけど、もう限界なんだわ。お前みたいな寄生虫を連れて歩くのは」

​ グランは金色の髪をかき上げ、汚いものを見るような目で俺を見下ろした。

 その後ろでは、聖女マリアと、魔導師レインもまた、同意するように冷ややかな視線を送ってくる。

​ 「クライブ、あなたは人が良すぎます。でも、優しさだけでは魔王は倒せません」

 「そうそう。ていうかさー、ぶっちゃけ邪魔? こっちはレベル50超えてんのに、アンタいつまでレベル1なの?」

​ 魔導師レインの言葉が、事実として突き刺さる。

​ そう。俺のステータスは、10年前――このパーティが結成された日から、ピクリとも動いていない。

 レベル1。

 HPも、攻撃力も、防御力も、すべてが初期値のまま。

 だから俺は、戦闘には参加できず、ひたすら荷物を運び、飯を作り、装備の手入れをする「荷物持ち」として同行してきた。

​ 「……10年だぞ、10年」

​ グランが呆れたように吐き捨てた。

​ 「俺たちは数々の修羅場をくぐり抜け、英雄になった。だがお前は、スライム一匹倒せない雑魚のままだ。……これ以上、経験値の分配を減らされるのは御免なんだよ」

​ この世界では、パーティで魔物を倒すと経験値が分配される。

 彼らは、俺がいるせいで自分たちの取り分が減っていると信じているのだ。

​ ……違う。

 俺には経験値は一滴も入っていない。

 俺の固有スキルが、すべてを吸い上げ、別の場所へ送っているからだ。

​ 「……分かりました」

​ 俺は静かに頷いた。

 怒りはなかった。むしろ、肩の荷が下りたような安堵感があった。

 彼らの足手まといだと言われ続ける日々に、俺自身も疲れていたのかもしれない。

​ 「今までお世話になりました。……ここで、お別れですね」

 「おう。手切れ金代わりに、その安っぽい装備と数日分の食料はやるよ。……野垂れ死ぬなよ、一般人」

​ 勇者たちは嘲笑を残し、馬車に乗り込んで去っていった。

 土埃が舞う。

 遠ざかる背中が見えなくなるまで見送り、俺は深く息を吐いた。

​ 「……やっと、自由か」

​ 一人残された荒野。

 俺は周囲に誰もいないことを確認して、虚空に指を走らせた。

​ 「ステータス・オープン」

​ 目の前に、半透明の青いウィンドウが現れる。

​ 名前:クライブ

 職業:サポーター

 レベル:1

​ ここまでは、勇者たちが見ていたものと同じだ。

 だが、俺にしか開けない『深層タブ』がある。

 俺のユニークスキル【経験値蓄積】の管理画面だ。

​ 俺は震える指で、【蓄積総量】の項目をタップした。

​ スキル:【経験値蓄積(エクスペリエンス・プール)】

 概要:獲得した経験値を肉体の深淵に蓄積し、循環・練り上げさせるスキル。

 増幅特性:循環加速(年間50%増)

​ そう。俺は10年間、自分に入ってくるはずの微々たる経験値を、すべてこのスキルで体内の「器」に溜め込んでいた。

 一度も解放(リリース)せず、レベル1の屈辱に耐えながら。

 体内で魔力を循環させ、雪だるま式に膨れ上がるのを待ち続けていたのだ。

​ 「……10年前の元手は、スライム数匹分だったけどな」

​ だが、勇者パーティに同行したおかげで、近くで倒される魔物は強力なものばかりだった。

 ドラゴン、キマイラ、アークデーモン。

 それらの莫大な経験値が、10年という歳月の中で練り上げられ、圧縮されているはずだ。

​ 画面に、数字が表示される。

​ 【蓄積総量:9,876,543,210 EXP】

​ 「……は?」

​ 俺は目を疑った。

 桁がおかしい。

 一般的な冒険者がレベル100(達人級)になるのに必要な経験値が、だいたい100万くらいだと言われている。

 ここは……98億?

​ 「あいつら……どんだけハイペースで狩りをしてたんだよ。いや、循環加速のせいか」

​ 国家戦力を賄えるほどのエネルギーが、俺という一人の人間の内側に眠っている。

 背筋が震えた。

​ 「……よし」

​ 俺は操作パネルの【解放(リリース)】ボタンに手をかけた。

 全てを解き放つのは危険すぎる。体が破裂して、この辺り一帯が消し飛ぶかもしれない。

 とりあえず、溢れた雫の一滴分。

 全体の0.01%くらいを解放してみよう。

​ 「解放量指定……100万EXP」

​ 決定ボタンを押す。

 その瞬間。

​ ドクンッ!!

​ 心臓が早鐘を打ち、全身の血管に星の奔流が流し込まれたような熱さが駆け巡った。

 骨が軋み、筋肉が細胞レベルで作り変えられていく。

 10年間せき止められていたダムが決壊し、乾いた大地を潤していく感覚。

​ 「ぐ、うぅぅ……ッ!」

​ 俺は地面に膝をついた。

 金色の光が体を包み込む。

 10年分の成長が一瞬で訪れた衝撃に、意識が飛びそうになる。

​ やがて、光が収まると、体が羽のように軽くなっていた。

 夜だというのに、視界がクリアだ。遠くの草葉の露までが見える。

 手には力が漲り、軽く握っただけで空気が爆ぜる音がした。

​ 再度、ステータスを確認する。

​ 名前:クライブ

 レベル:1 → 98

​ 「……たった一回の解放で、これかよ」

​ 勇者グランのレベルは50代。

 俺は今、指先一つで彼を追い抜いてしまった。

 しかも、内なる器にはまだ「98億」以上の経験値が渦巻いている。

​ 俺は立ち上がり、街道の先を見た。

 勇者たちが去っていった方向とは、逆の道。

 まだ見ぬ世界が広がる、東の地平線。

​ 「さて……行くか」

​ 俺は一歩を踏み出した。

 もう、誰かの荷物持ちはしない。

 この規格外の力を使って、俺は俺の人生を歩き始める。

 まずは、近くの街で美味い飯でも食おう。

​ こうして、世界最強の「元・レベル1」による、果てしない旅が始まった。

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