第一章 花婿の両親、挨拶に行くが……
俺はタカシ。クサカベ絵の具という油絵具の会社から独立した画材会社に勤める独身だ。
歳は30。そろそろ両親や職場の先輩達から結婚について心配される年齢になった俺に気を利かせて仲人になってくれた御局さんから、ある一人の女性を紹介された。
名前は『ヨシコ』さん。聞いた話では、現在は埼玉県在住の、東京都荒川区の下町生まれの女性で都内の第一勧業銀行本店で働く『銀行員』だ。
仲人さんの調べによると彼女は俺より七つ下らしい。でもそんな事は俺にはどうでも良い。
俺ももう30で、何よりもお袋をそろそろ安心させなければならない。オヤジからもお小言がたまに来る。職場の人間からも、まだなの? と尋ねられ、正直焦っていた。
そこで取り敢えず、その仲人さんを介してその女に会ってみた。
痩せぎすで、青白い美しい肌にほんのり薔薇色の紅をさした美人さんだった……。
俺はなんとなくその女性を気に入り、結婚前提で三回デートした。
最初はまず、食事。二回目は映画。三回目は東京ディズニーランド。いずれもお互い楽しみながら、お互いがどんな人なのかを探り合う為のデートだ。当然、身体の関係は持たなかった。俺はそういうことをする人間を軽蔑していたから……。
最後のデートのあと、
『良さげだね』
ということだったから、俺は後日両親と一緒にヨシコさんの実家に挨拶に行くことになった……。
挨拶の日当日、俺はきちんとした普段は着慣れない礼服に身を包み、半ば緊張していた。親父は、この日のためにわざわざ『モーニング』で身を包んだ。お袋も礼儀をわきまえた派手すぎない他所行きの上品な服を身に着け、真珠のついたブローチを左胸に添えた。
三人とも半ば緊張した、改まった気持ちで電車に乗り込んだ。
埼玉県南浦和駅からタクシーに乗り込み、ヨシコさんの実家近くで降ろしてもらう。
……いよいよだ!!
三人は襟を正し、互いに頷くと俺が玄関の呼び鈴を鳴らす。
……ピンポーン。
「は~い」
中から出てきたのはヨシコさんだった。彼女はその、成程小綺麗な格好はしていたが我々の認識とは違う、普段着に近いような服装をしていた。……でも、まぁ良い。今日は我々が客なんだから……。
中に通された我々は、まず彼女の父に『挨拶』をしようとしたが、その父親が、ちょっと理解に苦しむ人だった……。
俺達はこの日の為に、然るべき服装でしかも親父に至っては『モーニング』まで着てきたのに、相手の父親はまるきりの普段着で、煙草をのみ、飲酒までして胡座をかいている……。
ヨシコさんの母も、お茶こそはだしてくれたものの何故か対応が冷淡。
更に、ヨシコさんの兄も家にいることが分かったが顔を見せに来る気配もない。
ヨシコさんは笑って挨拶してくれたが、その他は少なくとも客人を歓迎する姿勢は微塵も見られなかった……。
「遠いところをご足労様です」
「まぁ座って」
ヨシコさんの母に促される……。
向かいに座る彼女の父が一言。
「娘はやりません」
……え!?
突然の言葉に俺たちは凍りついた。
それでも必死に取り繕い、何とかしてお嬢さんをくださいと懇願した。あのプライドの高い親父とお袋に至ってはわざわざ頭まで下げたのに相手の両親は俺達を受け入れる素振りも見せない……。
「私達は、あなた方の家が気に入りません」
「あなた達とは合いません」
「多分後に絶縁するのが見えています」
「だから諦めてください」
相手の両親はこちらの家のことをよく調べてから物を言っているらしい。だけど、ここまで来たんだ! 諦めてたまるか!!
俺は必死になってヨシコさんは最後まで私が守ります! と申し上げた。両親も散々頭を下げる。どうか頼む!!
それはもはやお願いというよりも懇願というのに近い挨拶だった。
度重なる懇願の甲斐あってか、相手もめんどくさいと折れたのか、取り敢えずはまぁ一応は婚約の許可は降りた。しかし、この日の出来事が、実はこの家の人間と俺の家の人達が絶縁するまでの間に、様々なトラブルが起こる予兆になっていた事に早く気付くべきだった……。
帰りの電車の中、親父はムッツリして、
「失礼な人達だ!!」
と、憤慨していた……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます