ジジイ、1分だけ最強になります〜ジジイすぎて追放されたので、魔法少女(26)・見習い勇者とともに異世界ギャップ無双〜
@kakokakko
第1話 追放のジジイ
「突然だが、アンタは今日でクビだ」
よく晴れた爽やかな朝のギルド前、リーダーは第一声でとんでもないことを言い出した。
リーダーの視線からするとどうやら自分に向けて言っているらしい。
念のため自分を指さすと、「そうそう、アンタだよ」と言わんばかりにウンウン頷く。
「ど、どうしてじゃぁ!今まで上手くやってきたじゃないかぁ!」
「どうしてもクソもあるか!何度も言ってきたじゃねーか!」
「り、理由は?理由を教えてくれぇ!」
「んなもん見りゃ分かるだろ!アンタは…」
リーダーは大きく息を吸い込み、
「ジジイすぎるんだよ!さっさと引退して穏やかな余生を送りやがれ!」
この物語の主人公である彼は御年89歳のヨボヨボのジジイだった。
多分街で一番ジジイだ。常にプルプルしてるし。
持っている杖は魔術師風だが実際のただの歩行補助だった。
「た、確かにワシはジジイじゃが、ワシのアドバイスで窮地を切り抜けたことも一度や二度じゃないじゃろ?」
「それについては感謝してる。でも、それを差し引いてもマイナス部分がデカすぎるんだよ。」
「1時間に500mしか進めないんじゃ遠方のクエストは受けられないものねぇ。」
おっとりした美人賢者が口を挟む。
今日もおっぱいがでかい。
「かといっておぶっていたら戦闘もままならん。」
むくつけき巨漢の戦士が冷静に指摘する。
「私達も成長してきたからこれからどんどん高難易度に挑んでいくことになったの。
流石にジイちゃんの面倒見ながらだと厳しいのよ。」
小柄なスカウトの少女も同調する。
今日もおっぱいが小さい。
失礼な視線に気づいたスカウトがジジイに無言で全力の腹パンを見舞った。
「ぐほぉっ……! しょ、しょんなぁ。結果にコミットするから考え直してくれぇ。」
「絶対意味わかって使ってないだろ、その単語…
まあ、納得はできねーかもしれんが決定事項だ。諦めてくれ。
くれぐれも1人でクエストに出たりするんじゃねーぞ?」
パーティメンバーそれぞれ名残惜しさはありながらもショボくれるジジイを置いて去っていった。
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仕方なく家へ帰ることにしたジジイ。
トボトボ歩きながらもすれ違う女性の尻や胸をチラ見することは忘れない。
割と元気そうだった。
「す、すみませんっ! 妹を見ませんでしたか!?」
突然、慌てた様子の青年が駆け寄ってきた。
「なんじゃい、ワシは今カナシミブルーの最中なんじゃ…
まあ、よい。何があったんじゃ?」
「母ちゃんが病気で、薬草を摘みに行くって行ったきり全然戻ってこなくて…」
「ふむ……。妹さんの年齢は?」
「12歳です。」
「薬草知識はあるのかね?」
「結構あると思います。薬師になるって結構勉強してるんで。」
「母親の病状は?」
「熱が続いて……特に肺が……」
「うむ、それなら“森の東側の岩棚”じゃな」
「今の情報でなんで分かるんですか!?」
「肺系の熱病に効く薬草は生える場所が限られとる。
12歳の子供なら、その行動範囲で大体絞り込めるんじゃ。」
「はぇー、何かすごいですね!助かりました!すぐにそこに行ってみます!」
「まあ、待ちんしゃい。ワシも一緒に行くから。」
「行くって……歩けるんですか?」
「歩くのは無理じゃな」
「ですよね!」
「というわけで、おぶってくれい。」
「えっ」
素直に背負った。良い子である。
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森に入ると、魔物がやたら多い。
「多すぎじゃな……何かから逃げておる」
ウルフ1匹が立ち塞がる。
「そういえば、お主名前は?」
「リオルです!」
「では、リオルよ。戦闘経験はあるか?」
「あります!」
「そうか。とりあえずこちらに2mほどゆっくり移動しなさい。」
ジジイは右斜め後ろを指差す。
「ん?分かりました。」
「2秒後に突進が来るから右にかわしなさい。」
「え?」
ゴウッ!!
ジジイの予想通りきっかり2秒後に猛烈な突進が来る!
その迫力にリオルは圧されて身体が一瞬動かなくなる。
「今じゃ!」
ジジイの声に反射的にリオルの身体が動く!
ギリギリのタイミングで何とかかわすことができた。
ドウっ!!
重い衝突音が響く。
突進をかわされ、勢いあまったウルフが樹に衝突したのだ。
「思い切り蹴り上げるんじゃ!」
「うおおぉぉお!!」
ドムっ!!
きゃいんと悲鳴のような鳴き声を漏らしながら数m吹っ飛んでいき、そのまま動かなくなった。
「はぁっはぁっはぁっ」
「お主なかなかやるではないか。」
「あ、あり…がとう…ございます。」
「そういえば、戦闘経験があると言っておったな。今までどんなものと戦ってきたんじゃ?」
「えーと… 家の中に出たゴキブリです!」
流石に白目で言葉を失ったジジイであった。
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「見えたぞ。……む、あれは」
木の根本で震える少女と、その前にそびえる巨大な熊が同時に目に入る。
熊の全身が木の皮のように分厚い装甲で覆われている。
「樹皮熊“バークリングル”じゃな。厄介な相手じゃ」
「アイナ!今助け… うぐぐぐぅ。苦しい苦しい!」
「あれが妹のアイナちゃんか。まあ、少し落ち着きんしゃい。」
無策で飛び出そうとするリオルの首を容赦なく絞めていた。
「で、でも!」
「任せい。」
うんしょうんしょとモタモタ背中から降りるジジイ。
緊張感なさすぎである。
そのままヨボヨボと樹皮熊の方へ歩いていく。
「ちょ、ちょっと!大丈夫なんですか!?」
「まあ、見とれ。」
突然現れたジジイに標的を変えた樹皮熊が不意に両手を振り上げ、思いっきり地面に叩きつけた!
ドォン!!
「ひっ」
地面が揺れる錯覚を覚えるほどの轟音にアイナは思わず悲鳴を上げて縮こまる。
「おじいさん!」
避けられるようなタイミングではなかった。
グチャグチャに潰されたジジイを想像してしまったリオルは大声で叫ぶ。
「こっちじゃ。」
あらぬ方向から唐突に声が聞こえた。
樹皮熊からは10mほどの距離、そこに上半身裸の筋骨隆々の若い男が立っていた。
その体つきはひと目で一流の武人だと分かるものだった。
「だ、誰…?」
困惑の声を上げるリオル。
「グォウ!!」
男が大声で威嚇する。
「ゴワァアアァ!!!」
咆哮の後一瞬の間を空けて樹皮熊が猛烈な突進を開始!
男はニヤリと笑う。
威嚇をすることで意図的に突進行動を誘発させたのだ。
次の瞬間――
「そこじゃ。」
紙一重で横にずれ、そのまま拳を腹に叩き込んだ。
ドゴウッ!!
樹皮が割れ、巨大な体が吹き飛んで木にめり込む。
「あの巨体を一撃!?」
男はふーっと長く息を吐いたあと、ゆっくりとリオルに向かってサムズアップをする。
鍛え抜かれた鋼の肉体を持つ男の顔は…
あのジジイだった。
シワだらけのまぎれもないジジイが爽やかに微笑んでいた。
「えーー!色々えーーー!!
こういうのって顔もカッコいい感じになるんじゃないの!?
なんでそこは据え置きなの!?」
「そろそろ1分かの。」
ボフンッ
筋肉がしぼみ、一瞬でヨボヨボの元の姿に戻る。
プルプルプルプルプルプルプル……!!
「な、なんですかその震え!? 命の危険とか!?」
通常の3倍プルプルしていた。
「毎度のことじゃよ……ふぉぉぉ首と肩と腕と腰と脚が痛いぃ……!」
「え、あの……
これ、わたし助かったんでしょうか……?
新しい魔物とかじゃ…ないんですよね…?」
もはや人類なのかどうかさえ怪しい謎の生物に少女は大いに困惑した。
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