出逢いは突然に

 日光異世界村……二十一世紀初頭、栃木県日光市に建てられたテーマパークである。地元の実業家、海星慶かいせいけいが建設した。日本に異世界を現出させるというコンセプトだったが、出来上がったものはどこか、中世ヨーロッパを思わせるような街並みであり、企画倒れなのではないかと危惧する声も多く聞かれたが、建設直後から沸き起こった異世界転生・転移ブームに乗って、予想を遥かに超える来場者数を数える一大人気テーマパークとなった。

 ……しかし、それもわずか数年のことで、ブームが過ぎ去ると、テーマパークには閑古鳥が鳴くようになった。創業者の慶は病で亡くなり、テーマパークの所有権は、慶の孫娘である天が継承した。これは慶の遺言であった。

 まだ学生であった天が後を継ぐことに周囲は猛反対したが、愛した祖父が並々ならぬ愛情を注いでいた異世界村を、自らが守ってみせると天は力強く決意した。

 ……だが、所詮は素人。テーマパークの経営状況がそう簡単に上向くはずもなく、数年が経過。日光異世界村は廃村寸前まで追い込まれていた……。

「……どうするんすか? あのインフルエンサーが頼みの綱だったんでしょ?」

 少年が天に問う。

「ま、まだよ! まだ打つ手はあるわ!」

「へえ、どんな手すか?」

「そ、それはこれから考える!」

「駄目だこりゃ……」

 少年が両手を広げる。

「……うん?」

「どうしたんすか?」

「あれは……」

 天が指差した先には、テーマパークの前の道路に倒れ込む青年の姿があった。

「人!?」

「大変だわ! ……だ、大丈夫ですか!?」

 天と少年が駆け寄り、青年に声をかける。青年がうめく。

「うっ……」

「ど、どうしたの?」

「ト、トラックに……」

「トラックに轢かれたんすか!?」

「トラック会社に、『お前はもう用なしだ』と追放されて……」

「ええっ!?」

「つ、追放!?」

 予想外の答えに少年と天が驚く。

「そこから三日間、道をさまよい……」

「そ、そんな……」

「せ、せっかく、あの会社の業績を立て直したのに……」

 青年が顔をしかめる。よく見ると涼やかな容姿だ。

「立て直した? アナタ、ご職業は?」

「し、しがない経営コンサルタントです……」

「!」

「自分でしがないとか言っちゃうんすか……」

「……決めた」

「? お嬢様?」

「アナタ、お名前は?」

「う、唸呂景うなろけいです……」

「! そう、景……お爺様と同じ名前……やはりこれは運命……」

 天が目を閉じる。

「お、お嬢様?」

 少年が怪訝な表情を天に向ける。天がパッと目を見開き、景と名乗った青年に視線を戻して告げる。

「景! アナタをこの日光異世界村の経営コンサルタントに任命するわ!」

「お、お嬢様!? い、いきなり何を言ってるんすか!?」

「トラック、追放……これだけの要素が揃ったのなら、異世界村に迎え入れるしかないでしょう!」

「たった二つしか揃ってないでしょう!」

「景、いいわね!?」

「グウ~」

 景の腹の音が鳴る。

「ふっ、まずは腹ごしらえね」

 天は笑みを浮かべる。その後、天は景に食事をさせてあげた。

「……ごちそうさまでした。ありがとうございます」

「礼には及ばないわ」

「……コンサルタントの件、謹んでお受けいたします」

「本当に!?」

「ええ、一宿一飯のご恩……きちんとお返ししないといけませんから」

「そう! ありがとう! 助かるわ!」

「……いや、一宿って……ちゃっかり泊まる気だし……大丈夫かよ……」

 景と天がガッチリと握手をかわす様を少年が冷ややかな目で見つめる。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る