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週末の試合に向けてジムで一通り身体を鍛え、備え付けのシャワー室で汗を流してから、ジムを後にして流李の待つ八百万高校に向かう。
放課後の正門で流李が待っていて、俺の姿を見るとぱぁっと花開く様に、笑顔で手を降る姿が愛おしく思う。
「剛くん!」
俺は頬を緩ませながら正門に早歩きで向かい、流李と合流する。
「帰ろうか」
「うん!」
俺は流李の細くて柔らかい手を握りながら、通学路を歩き出した。
「ーーーってね、先生が言った後に一斉に私の方、見られて恥ずかしかった」
「そうか」
「皆、私と剛くんが付き合ってるの知ってるんだね」
「そりゃ行きも帰りも手を繋いで帰ってるからな」
「えへへ、そうだね」
そう言って頬を染めながら笑う流李に可愛いと思った。
「ねぇ剛くん、剛くんは私が花を渡した時に、ピンクの花を渡すのは告白って知ってたんだよね?」
「ああ」
「何で知ってたの?花人の私でも知らなかったのに」
「…中学に入った時に花人の子に、私の花を食べてって言われてな。そんなもん食えねぇよって断わったら泣かれて、後で花人の花を食べるのは告白を受ける事だって教えられた」
「そうだったんだ…剛くんモテたんだね」
「理由を知ってても流李の花しか食べたくはなかったけどな」
「そうなんだ、嬉しい」
そう言って笑い俺の手を握る力が強くなる。とは言っても格闘家の鬼人からしてみれば、それは微々たる差だったけど、弱々しくて逆に俺が守らないと駄目だと使命感に燃える。
「それでね、花人は学生の内からお見合いとかしてお嫁さんになるのは珍しい事じゃないんだって。嫌だって言ったら断れるけど…私、剛くんじゃないと嫌だから、私の事貰ってくれる?」
「流李…」
俺は立ち止まって身を屈めて、目線を流李と同じ位置に合わせる。
「…その言葉、俺の方から言いたかった」
「剛くん…」
「今週のトーナメント必ず優勝する、遊園地のデートの終わりに改めて告白をさせて貰えるか?」
「!…うん」
そう言って顔を真っ赤にさせながら流李は頷く、俺はその染まった頬を軽く撫でてから、立ち上がり流李の手を引いて再び歩き出す。
この時がずっと続けば良いと思っていたが、直ぐに俺達の家に着いちまって、俺達は互いの家に帰宅する事になる。
「じゃあな流李、また明日」
「うん、また明日」
そう言って流李は手を振って自分の家に「ただいまー」と帰っていき、俺も自分の家に帰る。そして荷物を置いて近所をひとっ走りする為に、軽く柔軟をしてから早歩きで歩き出す。
だけど今日は既に心臓がエンジン掛かってるから、直ぐに早歩きから突っ走る。
「(流李に告白された!貰って欲しいって…嬉しい!流李に俺から告白する為にも今回のトーナメント負けられねぇ!!)」
☓☓☓
俺の生まれは片田舎で人口の1割が半神で1割が花人、残りの8割は人間だった。
でも俺の両親は珍しくも親父が花人でお袋が鬼人だった、親父が農作業をやって歌と踊りで野菜を育てて、村の収入を担っていて、お袋は家事を引き受けては、たまに力仕事を手伝っていた。
だが鬼人である俺とお袋が怖いのか、腫れ物を扱う様に敬遠されては、学校で除け者にされたり、時に石を投げられたりする事があった。それを半神の子が庇う事があったが、それも半神の子の人気取りの一環だった。
酷いのは俺のお袋が近くで聞いているにも関わらず、親父の両親が早く離婚して帰って来る様に、説得しにくる事があった事だった。お袋は笑顔で何でもない様に装っていたが、俺は嫌だった。
そんな時にお袋の親友である、流李の母親から東京に来ないかと誘いがあった。流李の母親…里奈さんは身体が弱くて東京の医者に掛かる為に、上京して引っ越して体調が良くなったから働いていたが、その勤め先で3人も産休が入って事務仕事が回らなくたなったらしい。
親父も俺とお袋の状況を良く思ってなかったから、その誘いに乗って上京する事になり、丁度百川家の隣が空き家だったから引っ越す事になった。
『あなたが剛くん?この子、流李って言うの。仲良くしてくれる?』
引っ越したその日に俺は百川家の家族に挨拶する事になった。流李は小さくて里奈さんの足元で、隠れながら俺を見ていたけど里奈さんが前に出すと、笑顔で両手で角に見立てて人差し指を伸ばし、額に当てて俺の真似をしていた。
『つおしくんかっこいー!がおー!』
『流李ちゃんったら可愛いー!ほら剛、自己紹介しなさい』
母さんの言う通り可愛いなと思った。俺に初めて笑顔で接してくれた子で、今思えばこれが俺の初恋だったと思う。
『こくぶんじつよし、8歳です』
『つおしくん!あたしるいっていうのー!』
『よろしくな、るい』
それから俺は流李と家族ぐるみで付き合いをする様になった。お袋同士も下から親友で仲良くて、親父も農作業から事務仕事に変わって大変だったけど、1から学んで仕事を覚えていって、今では親父同士で晩酌をする仲になった。
流李は笑顔が可愛くて花が綺麗な子だった。なのに周りの奴等は見る目が無くて、嘗ての俺の様に酷い事をする。
だから俺は出来るだけ流李を守ってきた。流李が泣いていたら抱きしめて、苛めっ子を睨み付けて追い払った。
そんな流李が俺にピンクの花を差し出してきた。その行為に俺は愛しさで胸がいっぱいになり、一生大切にするつもりでピンクの花を取り込んだ。
俺は流李を誰にも渡さない事に決めた。
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