見えない竜

光結

【第1章 学生時代】第1話 鮮明な夢

 白い夢を見ていた。まあるい額縁に閉じ込められた、遠い異国の絵本の世界。原っぱに、昔のヨーロッパを思わせる服装をした人々の姿。静かでどこか懐かしい感覚に包まれていた。

 と、いきなり静寂を突き破って誰かの金切り声が耳をつんざいた。


 「もうやめて!私は私の人生を生きるの!もう誰の犠牲にもならないんだから!」


 誰の声かわからないそのパニックにも似た叫びが伝染し、恐怖という塊が急速に膨れ上がるのを感じる。何なの、これ。いやだ、ここから逃げなきゃ。

 混乱の中で足をもつれさせながら、どこに逃げたらいいかも皆目わからぬまま、むやみに手足を動かす。

 その瞬間、視界が急旋回して場面が後ろに引っ張られるようにズームアウトした。



 こぽこぽこぽ、ザァ~。どこからか水の音が聞こえる。ふと気づいたら、透明感のある綺麗な青い川の中に、足を付けて立っていた。見渡す限り川が続いている。じゃり、と足に触れた砂の感触に、(確かに自分はここにいる)、と思わされる。(ここはどこ?)答えを求めるように、おぼろげな意識の中考える。

 後ろを振り向くと、森と岩壁。しかもそれだけしかない。つまりほぼ行き止まりだ。原始的、という言葉が頭に浮かぶ。(古代にタイムスリップでもしたの?)その時背後にふいに不穏な気配を感じ取り、急いで前を向く。

 数メーター先にあったのは、いつの間にか黄土色と黄色が混ざり合ったような奇妙な2つの棒、、、いやアンテナ?(何だろこれ。こんなのあったっけ?)

 アンテナの元を探ろうと、考えるより先に体が動いていた。水の中に潜った。

 目の前に――いや目の前になんてもんじゃない、顔からわずか数センチのところにあったのは、なんとゴルフボール大のサイズの目の竜!

 その瞳には白目も黒目がなく、川の青緑に溶け込むように一様な色をしている。表面だけが反射してきらりと光る。あまりの畏怖に圧倒され、動けない。自分は何か明らかにただならぬものに対峙している。じわっと脂汗がにじむのを感じる。

 竜を刺激しないよう少しずつ目を竜の体に移していく。体が地平線まで続いているのを確認し、底知れない圧力に戦慄する。竜の鼻息が水を通して振動し、体にあたる。ぶくぶくと自分の吐いた泡が視界の端に漂い、水草がゆらゆら揺れているのが見えた。だがそんな些末な景色に気を払う余裕はない。射すくめられたかのように、その場に存在するだけで精いっぱいだ。全身にぞわっと鳥肌が立つ。声も出せない、視線ですら自由に動かせない。少しでも動いて竜が動けば問答無用ですべてが終わると直感した。竜の目は、こちらのすべてを見透かすように深い。神様、、いや、神のような神々しいだけの存在ではない、かといって悪魔でもない。その目は圧倒的な存在感と無機質さで、ただただ瞬きもせず私を見つめていた。

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