第31話 崩れゆく迎撃線
廊下に響く音が、変わった。
それまでの爆発音や魔法衝突音とは違う。
重く、鈍く、確実に押し潰してくる音。
上級兵士が動いた合図だった。
「散開しろ!」
茉莉の指示が飛ぶと同時に、
黒衣の兵士が片腕を掲げる。
空気が一気に沈み、
廊下全体が“下へ引きずられる”感覚に包まれる。
「くっ……!」
上級生の一人が膝をつく。
魔力が強制的に圧縮され、詠唱が乱される。
玲花は歯を食いしばった。
(動け……止まるな……!)
紫電が迸り、
先頭の上級兵士を貫く――はずだった。
しかし。
雷は透明な壁に阻まれ、
散るように弾かれる。
上級兵士が、無感情に告げる。
「観測完了。
雷属性、直線型、高出力。
対処可能」
玲花の背筋が冷えた。
(……読まれてる)
別の兵士が前に出る。
黒い炎が床を這い、
生徒会の迎撃陣を分断する。
「後退しすぎないで!」
茉莉が叫ぶが、
防衛線は確実に押されていた。
一歩。
また一歩。
避難区画との距離が、目に見えて縮まっていく。
玲花は息を荒くしながら、再び前へ出る。
「――まだ、やれる!」
氷刃が舞い、
上級兵士の動きを鈍らせる。
だが――
兵士は足を止めない。
氷を踏み砕き、
淡々と前進する。
「抵抗は良好。
だが、出力不足だ」
その一言が、玲花の胸を刺した。
(足りない……
まだ……足りない……!)
茉莉は歯を噛みしめる。
(このままでは……
迎撃線が、崩れる)
指示を出し続ける声にも、
わずかな疲労が滲み始めていた。
――その頃。
校舎の影、戦場から少し離れた場所。
静麻は、遠くで起きている“魔力の歪み”を感じ取っていた。
(……まずいな)
上級兵士の魔力は、
明らかに通常の団員とは違う。
戦術的。
冷静。
そして――長期戦を前提にしている。
「このままだと……
玲花たちが削られる」
静麻は舌打ちした。
「……静かに暮らしたいって言ってるのに」
だが、ぼやいている場合ではない。
静麻は壁に手を当て、目を閉じた。
魔力が静かに広がり、
学院内部の“輪郭”が浮かび上がる。
敵影――十数。
上級兵士――三。
指揮系統は明確。
(……完全に、崩しに来てる)
上級兵士たちは、
防衛線の“弱点”を的確に突いていた。
玲花の位置。
茉莉の指揮地点。
避難区画への導線。
(全部、見られてる)
静麻の眉がわずかに寄る。
「……これは、見過ごせないな」
動かなければ、
防衛線は数分で破られる。
動けば――
また余計なものを見せることになる。
だが。
静麻は小さく息を吐いた。
「……まずい時は、まずいって認めるか」
目を開き、
戦場の方向を見据える。
その視線は、
“静かな一般生徒”のものではなかった。
学院の迎撃線は、
今まさに限界点を迎えようとしていた。
そして――
災禍は、再び動く準備を整えた。
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