第27話 静寂を望む者、戦の中心へ
生徒会室の扉をノックすると、
いつになく張り詰めた空気がこちらまで漏れ出てきた。
「どうぞ!」
中から聞こえた声は、茉莉のもの。
しかしその声はピアノ線のように張りつめていた。
静麻はゆっくり扉を開けた。
生徒会役員の数名が地図と探知図を囲み、
教師の姿まで見える。
普段は明るいはずの部屋が、
戦略司令室のようになっていた。
静麻が入ると、ざわめきが走った。
「あ……御影くん?」
「どうしてここに……?」
茉莉はすぐに態度を整えた。
「御影くん……状況は知っているわね?」
「まぁ、学院が揺れてるのは感じるよ」
静麻は壁にもたれながら淡々と言った。
玲花が隣に立ち、緊張した表情で静麻の袖を握る。
茉莉は深刻な表情で言った。
「ルキフェルの再侵入の兆候はある。
でも――“次がどの手か”が読めないのよ」
静麻はため息をついた。
「あー……それな。
ちょっと、言っておいた方がいいことがあって」
生徒会室の空気が一瞬で凍る。
茉莉は身を乗り出した。
「“言っておいた方がいいこと”……?」
静麻は後頭部を掻いた。
「ルキフェルは、結界を壊す部隊を動かしてる。
たぶん、学院そのものを戦場に変えるつもりだ」
一瞬、生徒会室が無音になった。
教師の一人が声を失ったように呟く。
「……戦場……?」
茉莉の瞳が揺れる。
「どうして……そんな情報を……?」
「まぁ……ちょっと。
聞いたんだよ。
信じるかどうかは任せる」
本当は観察者から聞いたとは言えない。
そんな存在を説明すれば、学院は混乱するだけだからだ。
玲花は横で静麻を見つめ、
“はぐらかしには慣れている”顔で静かに息をついた。
静麻は続けた。
「もし備えるなら……
もう“第五警戒体制”に上げておくべきだと思う」
この言葉に、生徒会室はざわつきを隠せなかった。
第五警戒体制――
それは学院が過去に一度も実行しなかった、“戦時学院動員”級の状態。
学院そのものを要塞として扱い、
全教師・上級生が対魔法戦闘配置につくレベル。
それはつまり――
学院がもう「平時ではない」という宣言だった。
茉莉は静麻をじっと見つめた。
「御影くん……あなたは……
何者なの?」
静麻は目を逸らし、ぼそっと呟いた。
「何者でもないよ。
ただの……静かに暮らしたい一般生徒だ」
生徒会役員の何人かが苦笑する。
(いや、絶対一般生徒じゃない……!)
だが、誰も口にはしなかった。
静麻はまたぼやく。
「はぁ……
俺の静かなひとときはいつになったら来るんだ……
入学してからずっと休まらないんだけど」
玲花は小さく笑ってしまい、すぐに顔を引き締めた。
茉莉は静麻の言葉を吟味するように目を閉じ、
意を決して宣言した。
「全員、準備して。
学院防衛戦に入るわ。
――第五警戒体制へ移行する!」
その瞬間、生徒会室に緊張が爆発した。
「第五警戒体制……!?」
「ついに……学院全体の戦闘布陣……」
「戦時学院動員と同レベルだぞ……!」
教師たちが即座に魔力通信を展開し、
校内の結界強化、避難区画の再設定、
上級生への戦闘指示が走り始める。
茉莉は静麻へ向き直る。
「助言……感謝するわ。
あなたの言葉がなければ、
私たちは“遅れた対応”をしていたと思う」
静麻は首を振った。
「俺はただ……
巻き込まれたくないだけ。
だったら、早めに言っておく方が得だ」
玲花はその言葉に胸が締め付けられた。
(巻き込まれたくないのに……
それでも動くのが御影なんだ)
茉莉は静麻に最後の確認をする。
「御影くん。
あなたは……学院を守る側に立ってくれるの?」
静麻は少しだけ目を細めた。
「守るなんて大層なことはできない。
でも……見逃せないことはあるだろ」
その一言が、生徒会室全体の胸に重く響いた。
学院は――
すでに戦の幕が開かれ始めていた。
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