「今日も描いてる?」



また絡んできた。



急いで絵を鞄にしまう。


毎朝毎朝、

こいつはこっちが無視しても懲りずに話しかけてくる。



「、、、描いてるよ。」



ぶっきらぼうに応える。



「そうか。ほいなら良かった。で、どんなの描いてんの。見せて。」



イラッとくる。



「やだよ。いつも言ってるでしょ。人に見せたくない。」


「良いじゃんかぁ。」



「ちぇ」



引き際は良いんだよコイツ。



「見せてくれたっていいのにぃ。」



言いながら隣の席に座る。



「こんな朝から、よぅ来るね。」


「アンタが言うか?それ。

わざわざ毎朝人の絵を見に来てるアンタが。」


「それもそうか。」



引き際はそれで良いんだよ。


喋りかけてくるんじゃない。



「、、、」


「、、、」



無言が続く。


それでいい。




描いているのは、明け方の空の絵。

太陽と月と一番星。それと街。


急いで鞄にしまったせいで、角が曲がってしまってはいないか。


少しカバンを開けて、曲がってないか確認する。



(うん。大丈夫だ。)



その隙に、隣のヤツが覗き見て来ようとしたので、バッと急いでカバンを閉じる。


、、、その顔腹立つからやめろ。



(はぁ、、、)



毎朝コイツが来るせいで、全然筆が進まない。





====================





絵は良い。



自分の目で見たもの、感じた心をそのまま残しておける。


絵を描く理由はただそれだけ。


ただ残しておきたいだけ。


確実に正しく残せるように、相当な努力と時間を絵につぎ込んだ。


めっちゃ練習した。


そこそこ上手くなったとは自分でも思うけど、絵を描いて食っていこうとは思わない。



絵は人に見せたくない。


自分の見たものを他人に共有したくない。


自分の心の中身を見せつけてるのと同じだ。


それをするのは嫌だ。



自分だけのものになるから、絵は良いのだ。


を損なってしまっては、ではなくなってしまう。



そう感じてしまうから、人には見せない。


見せられない。





====================





「はーい。席に着けー。出席とるぞー。」



先生の声に意識が引き戻される。


気づけば、始業の時間だ。



「きりーっ!れい!」


「はい。今日も元気でよろしい。」



高校生になり、2ヶ月とちょっと


友達は、、、出来てない。


隣のヤツとは喋るけど、友達ではない。


断じてない。



、、、


無性にイライラする。



特に隣のヤツに思いっきり文句を言ってやりたい。


絵が完成寸前のところを邪魔されたのだ。

誰だって怒りたい。




朝は筆がよく進む。


脳みそが勉強に汚染されてない、クリアな時間帯だから。


でも、家で描き始めてしまうと絵に没頭して、学校に遅刻してしまう。


だから、この始業前の時間は絵を描くのにうってつけだったのだ。


人がまだ来ていない、朝の時間。


1ヶ月前までは、この1時間弱の積み重ねで順調に筆を進められていた。


しかし、

隣のうるさいヤツが朝偶然早く来て、見つかった。


そして毎朝粘着され、今に至る。



普通に、迷惑である。


だが、"絵を他人に見せない"というのは私の勝手な信条であるため、怒るに怒りづらいのだ。



(ああ!もう!イライラする!)



机をぶん殴りたい。

やらないけど。



以前、一度強めに言ってみたのだが、今朝のようにのらりくらりとかわされ、再び見せろと言ってくる。


隣の席なんだからしょうがない。だの

朝早く来るかどうかは自由。だの


言い訳ばかりでしつこいのだ。


言い返せない自分も自分だが。



(それはそうだとしても、顔もうっとおしい!)



しかもこいつは喋りながら顔芸をする。


表情が豊かといえば聞こえがいいが、言い訳されながらだとウザイだけだ。



どうしたものかと思案するが、一向に対処法が思い浮かばない。


美術部の顧問にお願いして朝から美術室を開けてもらおうか。


いやでもあの先生、威圧感すごいんだよなぁ。

あんま喋ったことないし、お願い出来るかどうか。



(真面目に検討しないと。)



今朝のような完成寸前を邪魔されるのは、もうごめんだ。


覚悟を決めて放課後に顧問の先生のところに行こう、、、



「はぁ」



思わずため息が漏れ、ハッとする。



「どしたん? 話聞こか。(小声)」



隣のヤツがさも話題が出来たかのように、

したり顔で言ってきた。



「黙れ。」



思わず大きく飛び出してしまった。

教室中の目がこちらに向く。






私は悪くない。

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