第12話 父親

帝国歴34681年7月26日

天河帝国イ-1星系 第2恒星系 第5惑星「市ヶ谷」

大気圏外 帝国軍宇宙戦闘訓練所 司令室


 ―コアの格が違うか…。いや、パートナーもか。

 ファイル送信を終えた携帯端末を片付けながら、天衝野善行は模擬戦を振り返っていた。

 今のところ、オーブファイター戦でジャボやセイルに引けを取る気はしない。しかしシュウだけは駄目だ。

 からめ手も交えて全力を出し尽くしたとしても、勝ち筋が全く浮かばない。

 そして、想像を絶する結果に静まり返る司令室に、大声が響く。

「こんな結果は断固として認めない!明らかに不正行為だ!三人とも拘束して軍法会議に掛けろ!」

 装飾過多な軍服を着た中年の小男が、口から泡を飛ばしながら司令室に入ってきた。その後ろには似たような男が二人居るが、どちらも顔色が悪い。

 少し離れたところで観戦していた壮男が立ち上がりかけるが、善行はそれを制止した。

「壮男さん、待ってください。いえ、失礼しました。権藤ごんどう予備役技術大佐殿、ここは私にお任せを」

「誰かと思えば天衝野の坊主じゃねえか。急に改まってなんだい」

「あんなやからの相手をするには、壮男さんでは勿体なさすぎます。まあ、見ていてください」

「ほう、それなら坊主のお手並みを拝見といこうじゃないか」

 善行は騒いでいる男に近寄り、声を掛けた。

「これはこれは、桑原少佐ではありませんか。こんなところで大声を出されて、一体何があったんです?」

「き、貴様は天衝野…。上官に対してその口の利き方はなんだ!?」

「いや失礼。私もつい先日、陛下から少佐に任じていただきまして。ご存じありませんでしたか?」

「そんなものは知らん!私に一体何の用だ?」

「いえ、あなたに用はありません。ただ、念のためお伝えしておきたいことがいくつかありまして」

「私は忙しい。後にしろ!」

「まあそう言わずに聞いてください。

 まず先ほどの模擬戦についてですが、シュウ、セイル、ジャボの三名には不正行為や規則違反は一切認められませんでした。

 模擬戦の結果についても疑いの余地はないものとして、私の名前で公式記録済みです。

 また、これらについては参謀本部と技術研究局に、動画を添えて報告してあります。

 模擬戦について何かあれば、そちらとお話された方がよろしいかと。

 それと、彼ら三名は軍籍がありませんので、軍法会議に掛けることはそもそも無理ですね。

 ただし訓練生の桑原なにがしについては、対戦相手の生命を脅かし兼ねない、重大な規則違反が認められました。それこそ軍法会議ものの大失態です。

 桑原少佐にとっては、そちらの後始末の方が余程大事とお見受けしますが、如何いかがですか?」

「な…に…。くっ、失礼する」

 きびすを返した桑原は、取り巻きの二人を連れて、逃げるように司令室から出て行った。

「ほう、鮮やかなもんだ。坊主も修羅場をくぐって大人になったってことかい」

 壮男が笑顔で善行を労う。

「いえ。帰ったら親父の説教が待ってますから、まだまだ大人にはなれませんね」

「そうかい。まあ、俺の代わりに矢面に立ってもらったんだ。親父さんへの援護射撃は任せな。

 一つ借りにしといてもいいとこだが、ここはうちの小僧に支払いを任せようか。

 今晩、お前さんのコアと一緒に俺の部屋に来るといい。磯漫遊いそまんゆうの純米吟醸も手に入ったことだしな」

「えっ?壮男さんと酒ですか?

 いやあ、情けは人の為ならずとは、まさにこのことですね。何があっても伺いますよ」

 善行は破顔一笑しながら、陛下への土産話がまた増えるな、と思った。

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