天命の核(てんめいのコア)

三条 南雲

プロローグ

帝国歴34681年7月14日

天河帝国ソ-21星系第63恒星系外縁部アステロイドベルト

岩田宇宙興業合資会社コア採掘現場


「あークソ暑い…。絶対冷房ぶっ壊れてるだろ、このポッド」

 骨董品並みに古い宇宙作業ポッドの狭いコクピットには、ジャボの人並外れた大きな体が無理矢理押し込まれていた。

「それは冷房の問題ではない。お前の図体の問題だ」

 隣のポッドから返ってきたセイルの声は涼やかだ。

 がっしりとした長身のわりに動きは小さく、後ろに結った長髪が揺れることもほとんどない。

 少し離れた場所では、シュウが黙々とコアを研磨していた。

 中肉中背で無造作な短髪も平凡だが、人の目を引くような不思議な存在感がある。

「おいシュウ、またピッカピカの上物じゃねえか。

 俺の目を潰す気かっ!」

 いつもはボケているジャボが下手くそなツッコミを入れるが、シュウは軽く首をかしげただけだ。

 直径5センチほどの球体はまるで水晶のように輝き、辺境のアステロイドから発掘されたものとは到底思えない品質だった。

 作業が終わり、宇宙作業ポッドから簡易軌道エレベーターに乗り換えて事務所に戻った三人。

 日当を受け取ったその時、ジャボが叫ぶ。

「はぁ!? 今日の給料もたったのこれっぽっちだと!?

 俺たちがどんだけ上物を掘り当ててるかわかってんだろ、このバカ会社が!

 おいセイル、転職だ! 支度しろ!」

 コーンロウに編み込んだ髪が今にも天をいてしまいそうなジャボをなだめながら、セイルは淡々と言う。

「言うだけ無駄だ、ジャボ。

 俺達が他所よそに行ったところで、ここと同じに搾り取られるのがオチだ。

 …なあ、シュウ」

「うん…?

 ああ、今のところはまだちょっとな…。

 俺達にも飛躍の時が必ず来る。それまでは辛抱だぞ、ジャボ」

「最後はいっつもそれだよシュウはよ。

 その飛躍の時ってのはいつになったら来るんだよ? 夢や絵空事じゃ腹は膨れねえよ…」

 ジャボの物言いは辛辣しんらつだが、顔つきに人の良さがにじみ出ている。

 だからこそ、シュウとセイルもジャボを憎めない。

 そして自分達が帝国市民権を持たない賤民せんみんである以上、どれほど過酷で低賃金でも、仕事を貰えるだけマシだということも理解している。

 それでも自分達の未来を、今ここで諦める訳にはいかない。

 そして、三人が大きく飛躍するその時は、彼らが思うよりもずっと早く訪れようとしていた。

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