夜猫屋
tokky
Series 其の壱 自己紹介
まずは自己紹介からしよう。
自己紹介など、この電脳世界で、意味があるのか不明であるが、ここの
夜猫屋とでも呼んで欲しい。
名前が必要であれば、つけてくれて良い。しかし屋号だと思ってくれ。
ハンドルでも良い。
とにかく私は夜猫屋以外の何者でもない。骨董品・夜猫屋だ。
私の店の中を紹介したい。
裏通りの細道にはガラクタが積み上げられ、目立たぬ看板がひっそりと掛かっている。再生硝子の向こうには小物が所狭しと並んでいる。
日の当たらない北向きの高窓、夏は蘭の咲く温室、冬は蘭の肥料が備蓄されている物置がある。
あかり射すときは無人であり、別珍のソファーは来客を待っている。
疲れて重くなった手足を投げ出した人は、がたついたクレセント錠を押し上げることも忘れ、ただ宙を凝視している。暗闇をも畏れずに。
目が慣れてきたのか、うすぼんやりと彩りを感じる。それが私の隻眼だ。
漆黒の闇に溶ける毛並み。二日月のように細められた瞳。銀の取っ手かと見まがう光は、「私そのもの」であり、あなた方の感性に行間を付けたもの。
ああ、望月が窓から昇ってきた。僅かに赤みのかかった
私は黒い翼の
あるとき、十七歳の少年が父親を刺した。蒸した夜であった。腹部に刺さったサバイバルナイフの柄を握りしめた瞬間の、彼の爆発を黒い羽で包み込む。すると、彼のなかで、やるせなく解き放たれた怒りが、私の商品になる。
怒りを喪失した少年は何を思っているのか。後悔。保身。蘇ってくる父親への思慕。憎しみ。そして放心。
どうしていいかわからない!
わたしは少年の「手助け」をする。罪の意識が消えるように。
父親は虫の息で、刃を抜いた瞬間に、鮮血が噴き出すだろう。返り血が、少年のきめ細やかな肌にまだらの模様をつけてはじける。この場にあるのは彼の心の静寂と、死、つまり無である。確実にしっかりと、その不幸を授ける。
大丈夫、これは私の仕業だ。
全ては私が仕立てる。
あとからやってくるに違いない喧噪に、私は興味を持たない。ひとりの人間が「無」という肉塊になる。「無」という「永遠」を、少年は
このようにして集められた、ありとあらゆる刹那の爆発たちが、夜猫屋には陳列されて、商売にいそしんでいる。……そろそろ開店の時間だ。お客様はあなた方。
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