黄泉紀行もしくは異界散文
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序章
1/4 12/09作成
子どもの頃の夢は強くてカッコいい正義の味方だった。
罪のない人々を襲い破壊の限りを尽くす悪者を倒すため、平和を守る使者は街を奔走する。助けを求める声があれば、すぐに駆け付けてなんとかする! そして、かたわらには、共に使命を全うする個性豊かな仲間たちがついている。みんなで協力して、一人ではできない事でも力を重ね合わせ、どんな困難にも立ち向かえる! ときにすれ違い、ときにぶつかり合い、敵の攻撃にくじけそうになっても、きっと仲間たちが来て手を差し伸べくれる。すぐ仲直りして、また五人で走り出せる。
そういう“赤と青、緑、黄色、桃色の五色のヒーロー”を観て育った。“赤”は司令塔で皆のリーダー的存在だ。正義感が強く一番目立っている。“青”は冷静で頭が良くて何事にも気が付く頭脳役を担当する。冷淡に見えて意外に優しい。“緑”は手先が器用で道具の扱い方が上手で技術者のようだ。気弱で怖がりだけど皆が困った時に解決策を出してくれる。“黄色”は細かい事に囚われず、問題には体当たりでまっすぐぶつかっていく肉体派だ。考えるよりもまず行動で示す力強さが頼もしい。“桃色”は芯の強さを秘めた華やかさがあり、チームの紅一点となる。男性陣とは違った心の強さが垣間見えつつも、おしとやかな可憐さに癒される。
観ているみんなは赤が好きだった。五人全員が横に並ぶと大体真ん中で、戦う時は先陣切って立ち向かい、すごく強くてカッコいいからだ。幼心に、ヒーローの鑑みたいな“レッド”が大好きという気持ちには覚えがある。しかし、他四人が一人のための引き立て役なのではなくて、五人がちゃんと揃っていなければ、しっくりこなかった。
朝の日差しが窓の外を色鮮やかに照らしていた。休日は楽しいことが起こるような気がして、どこかに出掛けたくなった。戦隊ヒーローのテレビ番組を見終わったら、友達の家に遊びに行く。買ってもらったおもちゃを見せ合ったり、買ってもらえなかったやつを見てうらやましかったりした。お気に入りは、変形合体するロボットのおもちゃだ。
やがて月日が過ぎ、一年が経つと、違う戦隊ヒーローが結成されているのだった。思えば、無常だった。見始めた一作目、二作目くらいまでは夢中になって観ていたけれど、小学校に入学してから段々と離れていった。その番組が対象としている年齢層を踏まえれば、卒業して当然だった。おもちゃだって、そのうち買ってもらわなくなり、欲しいとも思わなくなった。
成長していくと、小さい子どもでは気付けなかった事が解るようになる。たとえば、戦隊ヒーローのレッドに向いているのはどんな人なのか考えたとする。集団の先頭に立ち、自分の考えをはっきりと発言して、積極的に行動できる人だったらぴったりだ。みんなが好きだった“レッド”は簡単じゃなかった。
物語の主役になれない事がはっきりしてくると、現実における自分の立ち位置を少しずつ理解する。それはテレビの中のヒーローたちみたいにカッコよくはなくて、他の人に比べたら見劣りしてしまう情けない姿だった。
学校で困っている人が居ても、見ない振りをしてしまった。何かがおかしいと思っても口に出すことができなかった。こんな自分をレッドが見たなら、期待通りの言葉をかけてくれるかもしれない。「なぜ、助けようとしない!?」「ちゃんと言わないとわからないぞ!!」でも、自分自身の平穏は守られるべきなんだと言い聞かせていた。すると、足は固まり、唇は閉ざされた。そうして大人に近付くほど、憧れを忘れ去り、レッドは遠ざかっていた。
大人になって勤め始める頃にはもう、あのカッコよかったレッドになれはしない事を受け入れてごく当たり前に過ごしていた。生まれ育った環境からして、素質はなかったのだ。特別な教育を施されたわけじゃない。
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