春 百群 7
指輪は泣きそうな顔をしていた。口のガムテープをそっと剥がしてくれる。
「ご両親も待ってますから、早く帰りましょうね。」
優しく背中をさすってくれる。鈴蘭は、堪えていた涙が溢れてくるのを感じた。
「ごめんなさい。指輪に嘘ついてこんなことになって。みひろのこと、女の子だと思ってたから。友達だと思ってたし。まさかあんなこと考えてるなんて思わなかったの。ごめんなさい。」
しゃくりあげながら鈴蘭が謝ると、指輪は安心させるように手を握り、ハンカチで涙を拭いた。
「知っていますよ。聞いていましたから。」
「えっ?」
「私も鈴蘭さまに謝らなくてはなりません。鈴蘭さまの様子がおかしかったので、今朝差し上げたアロマストーンの中にGPS発信器と録音器を入れておいたのです。鈴蘭さまのお父様の指示とはいえ、鈴蘭さまを騙したのは事実です。本当に申し訳ありません。」
鈴蘭は全身の力が抜けていった。へなへなと指輪に寄りかかる。すべて父と指輪の手のひらの上だったということか。
「怖いことをたくさん言われていたでしょう。でももう大丈夫ですよ。鈴蘭さまは僕が守りますから。」
「…本当に?私なんて友達もいないし、いっつも素直になれないのに、なんでそばにいてくれるの?お父様に言われたから?」
みひろに傷つけられたからか、鈴蘭はいつになく弱気になっていた。
「僕が鈴蘭さまのお側にいるのは、僕がそうしたいからですよ。でも、今はひとまずここから出て、温かいものでも飲みましょう。」
鈴蘭は、移動させようとしてくる指輪にしがみついた。
「ちゃんと答えてよ。私、指輪は絶対に助けに来てくれると思ってたよ。」
鈴蘭にしがみつかれた指輪は、嬉しさのあまりふるふるっと震えたあと、抱き締め返した。
「鈴蘭さまは、本来、僕なんかの手が届く方じゃありません。でもずっとお側にいるうちに、僕にとって特別な方になったのです。鈴蘭さまさえ許してくださるなら、ずっとお仕えしたいと思っています。」
指輪に抱き締められながら、耳元で彼の声を聞いていると、鈴蘭の胸のなかは温かいものに満たされていった。ようやく、助かったのだと実感する。
二人は、警官にとまどいがちに声をかけられるまで、そのままだった。
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