コンダクター
花城このか
第1話 一目惚れ
この頃は、暗くなるのが早いから、一帯はすっかり夜めいている。スタイリッシュな街並みには、大人しい色味のネオンだけが光っていた。中でもこじんまりとして、清潔感こそあるものの年代不詳な建物の高い椅子に腰かけている。社長時代の友人の伝手で仲良くなったこのカフェの店主は、普段はないバーのような営業に心を躍らせているらしく、鼻歌混じりだ。ずっと年上だけれど、僕とは話のテンポが合う。今日は、ほとんど冗談で言ったような無理を快諾して、この場を専用に用意してくれたくらいなのだ。改めて短く礼を言って、コーヒーを啜った。すると、今日僕が招待した客の一人目、所属するVRワールド制作サークルのメンバーが扉を潜って現れた。
「ごめんください。路久さんに紹介していただいた、九鬼です」
僕_
(僕が声を出したら、この子は喜んでくれるだろうか)
サプライズは好きだ。だから、圧倒的な期待感と共に、立ち上がって、暗闇側の彼に手を振った。
「僕が朝長路久だよ。蒼佑くんが一人目だ」
いつもの通話と同じ声で、あえてシンプルに言ってみる。蒼佑は瞬きをしてじっと路久のことを見てから、やはりいつも通りの芯の通った声を出した。
「わあ、糸文が騒ぐのもわかるイケメンだ。なんて、失礼しました。今日は用意からしていただいてすみません」
近づいてくると、青年にふさわしい爽やかな容姿に、言葉遣いに反してラフな格好が目に入る。
「いいんだ。来てくれてありがとう。糸文は僕のことを知っているんだったね」
それでは、サプライズが少し薄れてしまうなんて考えながら、適当な言葉を交わして時間を潰す。メンバーの一人、
「こんばんは」
「どうも、姫崎です」
口ぐちに言う声はトーンこそ違うものの同じ声。今この瞬間だけではどちらがどちらなのかわからない瓜二つ。サークルが誇る双子だった。路久と蒼佑は目を輝かせて二人に近づいた。髪を軽く結っている向き以外には、本当に違いがわからない。礼儀を欠いてまじまじ見つめる二人に、顔を合わせた双子が
「こっちが立都で」
「こっちが立季」
と無表情にうっすら笑みを浮かべて、順に手を挙げてみせる。
(これでは、僕の方がよっぽど不誠実みたいになってしまうな)
こんな体験は、これまでにしたことがない。だから、これでいいのだろうかとふと足を止めてしまった。
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