デスゲームで死んだら平和な来世が待ってると思った?残念、バグった執着を見せてくるヒロインたちと溺愛地獄が待ってました……。
桜祭
1、デスゲームで死んだら平和な来世が待ってると思った?
4月。
桜の花びらが舞う大学の門をくぐりながら、俺――真田政宗は深呼吸をした。
「……よし!大学生活を頑張る!」
自分に言い聞かせるように、門を見上げる。
前世?
浄化ゲーム?
七日間の地獄?
……覚えてるに決まってる。
忘れられるわけがない。
だけど今世はもう、あんな地獄のようなデスゲームとは無縁な人生を送りたい。
というか送る!
「大学デビューってやつだな。人間、過去には囚われすぎちゃいけない。いつの間にか俺も前世よりも今世の方が長く生きちゃったなー」
そうだ。
前世の恋愛関係とか、殺し合いとか、誰が誰を殺したとか――全部終わったことだ。
『きひっ!君たちの魂はこれから転生していくよ』
そんな前世の神様みたいな奴の言葉を思い出す。
死後の霊体としての記憶まで残っているのもまたなんというか変な感じだ……。
転生して両親が違うのに同じ名前、同じ顔で生まれてくるってなんなんだよ……。
せめて生まれ変わったら真田政宗とかいう武将の名前を合体させた変な名前だけは辞めて欲しかった……。
転生したといってもほとんど何も変わらない世界だ。
文化で言うなら他重婚が許されている程度だろう。
どうせならいっそ昔にプレイしたギャルゲーみたいなギフトと呼ばれる特殊能力がありふれた世界とかファンタジーなところとかに行ってみたかった感はある。
とかまぁ、なんやかんやで俺は生きて今世に来た。
だから前だけを向く。
――はずだった。
「……政宗?」
振り返る前に、声だけで誰かわかった。
如月真美。
前世で最も俺を絶望に叩き落とし、最も俺を愛し、最も俺を泣かせて、そして――。
浄化ゲームの7日目で、絵麻を……。
いや、これは今は考えない方がいい。
ただ、これは前世で折り合いの付けた話だ。
これは本当だ。
それに、あれは真美だけが悪いんじゃない。
環境も、俺も、全てが彼女を苦しませる選択をさせてしまったのだ。
だから、今世はもう、普通の友達として――。
「……やっぱり政宗だぁああっ!!」
「うおあっ!!?」
全身に飛びつかれ、初日から心臓が止まりかけた。
ゆるめのウェーブが掛かった綺麗な金髪が揺れる。
左目の下にある黒子の位置も全く変わらない。
懐かしくて、でも今世仕様で少し大人びた。
真美が俺の胸に顔をぎゅうっと押しつけてきた。
「やっっっと会えた……!ずっと探してたんだよ!?ねぇ政宗、ほんとに政宗だよね!?ちゃんと覚えてるよね!?前世!」
「お、おい……。大学の門前で抱きつくな!みんな見てる……」
「え? なんで? 久しぶりなんだからこれくらい普通でしょ?それに見せびらかしてるの!『真美の政宗だよー』って」
「普通じゃないよ!?」
周囲の新入生たちの視線が刺さる。
あーもう、大学デビュー計画が初日で潰れそうだ……。
真美はぱっと離れ、にこりと笑った。
その笑顔は……前世のどんな瞬間よりも柔らかい気がした。
「ねぇ政宗……今日は一緒に回ろ?履修登録の仕方とか手伝うよ。真美、めちゃくちゃ調べてきたから」
「え?そこまで?」
「当たり前じゃん。政宗が行きそうな大学、ずっと前から狙ってたし。前世で行きたそうな進路から割り出したんだよ。やっぱり政宗いた!」
(いや、怖っ……!)
前世より軽くなってると思った俺がバカだった。
けれど――嫌じゃない。
むしろ、胸がちょっと熱くなるくらいには懐かしい。
俺の人生がようやく再スタートしたかのように心臓が動いている。
「……まあ、助かるけどさ。ありがとな」
そう言うと真美は一瞬固まり、顔を赤くした。
「ッ!?政宗、そういう優しいとこ、ずるいっ……!」
また抱きつこうとした瞬間。
「ま、政宗くんっ!!?」
別の方向から小柄な影が飛んできた。
小さな靴音。
ショートのツインテール。
小動物のような涙ぐんだ瞳。
桐島絵麻。
よく泣く天使。
前世での俺の幼馴染で恋人だった子。
そして、デスゲームの7日目に真美に殺害されていた……。
まだ、たまにあの光景がフラッシュバックする。
絵麻が目の前で死んでいた時の光景はそれこそ死んでも忘れられなかった。
もちろん俺は真美を恨んでいない。
あれには理由があったし、前世で全部話して、全部終わってる。
でも絵麻がどう思っているかは……まだわからない。
絵麻は全力で走ってきてそのまま俺に抱きついた。
「会いたかった……政宗くん……っ!」
「ちょ、絵麻!?門の前で2連続ハグはやめろ!!」
「え?ダメなの……?」
「ダメじゃないけど、でもダメなんだよ!」
混乱する俺をよそに、絵麻は顔を上げて微笑む。
その笑顔は間違いなく絵麻だった。
「政宗くん……ちゃんと覚えてるんだよね? 前世のこと」
「覚えてるよ。全部」
「よかった……。だって、また会えたんだよ?今度は……今度こそ、幸せになりたいなって……」
絵麻が赤くなりながら言う。
その言葉は、前世の最後の瞬間を思い出させた。
胸の奥が締め付けられる。
(絵麻……)
そこに真美がすっと割り込む。
「ちょっと絵麻、政宗に抱きつくのやめてくれる?」
「な、なんで?政宗くんとは……こ、恋人だったんだよ!?前世では!」
「前世は前世。今世は今世。今の絵麻は政宗とは初対面でしょ」
「真美ちゃんだって政宗くんに抱きついてたよね!?さっき!?その理論なら真美ちゃんも政宗くんとは初対面になると思うの!」
「あたしは特別だから」
「わ、わたしも特別だもん!!」
え?なにこのやり取り……。
真美のマウント取りみたいな態度も、積極的な絵麻の態度も初見過ぎるんだが……。
「二人とも落ち着」
「政宗は黙ってて!!」
「政宗くんは黙ってて!!」
「同時に言うなよ……」
大学の門で三人が言い合いしている光景は、周囲からしたら完全にラブコメの主人公に見えるだろうか……?
そんな甘い仲じゃない。
わりと絵麻が真美に殺害された過去があるだけに水と油じゃない?と内心ハラハラである。
ナイフでも取り出そうものなら、前世に逆戻りしたと勘違いしそうだ。
とにかく、初日からこれでは胃が痛くなる。
「二人とも、まずは大学の案内を」
「あ、政宗!学食どこ行く!?やっぱりラーメン?」
「政宗くん、サークル見て回ろ?」
「政宗はまず真美と一緒に行くの!」
「わたしだよ!」
「真美!」
「わたし!」
「やめてくれー!!」
門前で叫んだ瞬間、二人がぴたっと止まった。
真美が小首をかしげて言う。
「……政宗、怒った?」
「怒ってない。ただ、落ち着けって言ってるだけ。いきなりはしゃぎ過ぎだろ……」
「……そっか。よかった」
ふぅ、と真美が胸を撫で下ろす。
その横で絵麻はくすっと笑った。
「政宗くんって、前世より優しくなった気がする」
「前世の俺よりは成長してるからな」
「じゃあ……また好きになってもいい?」
「えっ!?」
俺が爆発しそうになったところで、真美が絵麻の頭にぺしっと手を伸ばす。
「ちょっと!政宗のこと口説くの早くない!?今は真美のターンでしょ?」
「いいでしょ!?わたしだってずっと好きだったんだから!」
「真美の方がずっと好きだし!」
「わたしが先に泣いた!」
「泣いた回数の勝負じゃないし!」
また言い合いが始まる。
(……大学生活。心臓持つよな……?)
さっきから数分間、ドキドキが止まらない。
だけど、不思議と嫌じゃない。
前世で失って、今世でまた戻ってきた温度がある。
2人の声を聞いて、胸がすこし温かくなった。
「……とりあえず、案内行こうぜ。三人で」
二人は一瞬固まり。
そして同時に顔を真っ赤にして頷いた。
「そうね!」
「うん!」
こうして俺の大学生活は始まった。
そしてまだ知らない。
もう一人。
誰よりも重いあの子が。
桜川千冬が、日を改めて俺の前に現れることを。
その時、この『平和で明るいキャンパス』がもっと騒がしくなるということも――。
――これは前世で理不尽なデスゲームに巻き込まれて死んでいったみんなが祝福されて、幸せになっていく物語である。
デスゲームで死んだら平和な来世が待ってると思った?
残念、バグった執着を見せてくるヒロインたちと溺愛地獄が待ってました……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます