童話:「おだやかネコ🐈‍⬛と🐾ごう慢ドラゴン🐉」

月影 流詩亜

第1話 平和な島のさざ波



 ​むかしむかし、はるか東の海に、ヒノデの島という、きらきらと光る平和な島がありました。


 ​この島の主は、オダヤカネコとよばれる、とても賢く、礼儀正しいネコでした。

 オダヤカネコは、カツオやサケといった新鮮な魚を、細かな機械で丁寧に加工し、世界一おいしい魚料理やお菓子を作るのが得意でした。


 ネコが作るものは、どれもこれも質がよく、遠い国に住む動物たちも、その味に舌つづみを打ちました。

 ネコは争いを好みませんでしたが、自分の仕事には誇りを持っています。


 ​ネコのしまの近くには、シッポフリ・キツネの小さな村がありました。キツネは体こそ小さいですが、ネコと同じくらい手先が器用で、電気や通信に使う「ぴかぴか光る板」を作る名人でした。

 ネコとキツネは、お互いに助け合い、技術を教え合う、大の仲良しでした。


 ​しかし、その平穏な世界に、いつも大きな影を落としていたのが、巨大なマンメン・ドラゴンでした。 ドラゴンは、世界で一番大きな森と川を持つ領地の主で自分の力と面子、つまり「他人からどう見られるか」を何よりも大切にしていました。

 ドラゴンは少しでも自分に不都合なことがあると、空を覆うほどの大きな声でえ、煙を吐き出すのでした。


 ​特にドラゴンは、シッポフリ・キツネの村を見ては、「あの村は、昔からワシの家の庭の一部だ!」と、何度も何度も大声で吼えていました。


 キツネは「私は私の村の主だ!」と反論しましたが、ドラゴンは聞く耳を持ちません。

 ネコも他の動物たちも、ドラゴンの声にいつもびくびくしていました。


 ​ある日のこと、世界中の動物たちが集まる大きな集会が開かれました。

 ​オダヤカネコは、キツネの村の将来を心配していました。

 ネコはキツネに、純粋な気持ちを伝えようとしました。


「キツネさん、もしもあなたたちの村に、誰にも止められないほどの巨大な嵐が来て、その嵐が、私たち『ヒノデのしま』の平和まで壊してしまいそうになったら、私たちはどうするだろう?」


 ​オダヤカネコは、少し迷った後、決意を込めて言いました。


「私たちは、持てる力、それこそ勇敢な船や、強力な盾を使ってでも、必ずあなたたちを守りに行くよ。

 私たちの平和と安全は、あなたの平和と安全と、もう切り離せないくらい一つになっているからだ」


 ​ネコはキツネを励ますつもりでしたが、その声が、集会中にいる他の動物たちよりも、はるかに遠い、マンメン・ドラゴンの耳にまで届いてしまったのです。



 ── ​🐉 怒りの煙 ──



 ​マンメン・ドラゴンは、青い空が割れるほどの大声で吼え始めました。


「ネコめ!無礼千万!」


 ​ ドラゴンは、頭の上から真っ黒な怒りの煙をモクモクと吐き出しながら、空を飛んできました。


「キツネの村は、ワシの家なのだ!

 他所のネコが、勝手に『守る』などと、口を出すな!

 これは、ワシの家の中のことに乱暴に入り込むのと同じだ!」


 ​ドラゴンはそのまま、ネコが作ったお菓子を運ぶために海に出ていた船を力ずくで止めました。


「今日からネコのお菓子は、一つも受け取らないぞ、ネコめ!

 その無責任な発言の代償を払うがいい!」


 ​突然のことで、ネコの家計は少しだけ冷え込みました。

 オダヤカネコは、自分の純粋な思いが、こんなにも大きな騒ぎを引き起こし、ドラゴンを怒らせてしまったことに深く悩み、そして静かに今後の対応を考えるのでした。




 ​

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